12話 ユエルの勝負する理由
「わぁ……」
思わず声が漏れた。
あたし達はライネスに案内されラウンジ、つまりは待機室に案内された。
一人用のソファーにあたし達はそれぞれ座った。
クッションの反発が気持ちよく、座っている感覚を忘れるほど気持ちよさが広がる。とてもリラックスできる気分。
一つでこれほどなんだから、すごく高価なんだろうな。
素人ながらのあたしの目から見てもわかる。
ユエルがソファーに体を預けながら、語りかけてくる。
「気持ちいいですねー。なんですかねここ、とても地下とは思えないほどの心地よさというか。貴族の館なのかな」
ユエルの言う事に同意したくなる。
この場所はざっと楽に30人以上は入れると想定される。
その為に椅子とテーブルが並べられていた。
ただ、この場にいるのはあたしとユエルとライネスの三人のみ。
あたしは周囲を流し見た。
床も壁も、一目で上質な素材だと分かる。
地下だから窓がないのはまだしも、ランプやランタン、またシャンデリアもないのに部屋全体が明るい。
一定間隔に照らされているおかげもあるのだろう。
そのおかげで二人の表情もはっきりと分かる。
そんな中、ライネスが頭をボリボリと掻きながらため息をついた。
「たくよぉ」
部屋が広いとはいえ他に人がいないせいか、元々声の大きいライネスの声がより響いてる。
「お前等のんきだな。これからあいつとの対戦なのに」
ふかふかするソファーに気を取られていたけど、確かにあたし達はこれからムエルニさんと対決するんだった。そう思うとさっきまでのやり取りで改めて気が沈む。
「……うん……そうだね」
「なんだよ、まだ気にしてるのか?」
ライネスが肩をすくめた。
「いいんだよ。あいつはプライド高いからあんな事を言ったのは、自業自得」
「負けたら一般職員になるって言われてたし。そもそも入団や上に上がるのって難しいの?」
「場所によっては様々だ。このギルドは大手だから入団希望者も多いな。俺様やムエルニみたいな幹部に推薦されれば入団はしやすいと思うぞ」
ライネスの説明にユエルは納得したように頷く。
「なら、フェルはリーシャさんの推薦があったからこそ入団できるってわけなんだ」
「ああ、んで幹部になるには内外で活躍すれば成り上がりやすいらしい」
「らしいって? まさか、自分たちにあった時にしたように相手をなぶり殺しにしまくるとか? そんな自分たちには無理無理の無理!」
ユエルは大きくわざとらしく身震いした。
「んなこたぁわかってるよ!」
ライネスが怒鳴る。
「活躍って言うのは評価の事だ。ギルドに対して貢献できるかどうかだ」
「なるほど。確かにライネスだとあんな風にしないと評価上がらないってことだね!」
「お前、いちいち癪に障る言い方するな」
あたしは二人のやり取りを見て、仲がいいなって思ってしまった。
ライネスは外見も威圧感はあるものの、どうもここの職員達に避けられている様子っぽいし。
ユエルが気兼ねなく話しているせいか、ライネスもちょっと楽しそうにしてる。
まあ見た目は怒っている風に見えるけど。
「まあいい。俺様は自分で言うのもなんだが、成り行きでリーシャに認められた。どっちの勝負も挑んでみたものの敗北さ。まあそのおかげか今の地位にいるわけだが……またリベンジするがな」
自身の膝をバンと叩きながら、表情は不敵な笑みを浮かべた。
表情がより凶悪にも見える。
「そうなると、ムエルニは難しそう」
いつになくユエルは真剣な表情をするので、「どうして?」とあたしは聞いてみた。
「自分から見ても、なんかプライド高い感じがするんですよ」
「その意見には同感だな。あいつのリーシャに対する信仰心は高すぎて俺様は苦手だが、あいつが一般職員に格下げしたらまた上り詰めるのは苦労するだろうな」
彼女に対する二人の認識は合っているのだろう。
実際、あたしも二人の意見に同意する部分があった。
そして彼女はあたしに対する敵意も理解していた。
地位を天秤にかけてまで、あたしを蹴落としたいくらい憎いのも。
やっぱり辞退すべきだろうか、とそんな気持ちになっているとライネスが話を切り替えるように言ってくる。
「んなことよりもユエル、お前が参加すると思ってもみなかったぞ」
「フェルなら負けるはずないですが。自分が参加する事によって少しでも勝率があがればって思って。それに自分、貧しい村の出身なんですよね。自分、兄弟姉妹を養うためにもどうしてもお金が必要で。この王都へ来たのも金を稼ぎ仕送りするためでしたが、冒険者になるよりも確実に稼げるこっちのほうがいいかなって」
ユエルは頬をポリポリと搔きながら、困ったように笑う。
あたしはおもむろに立ちあがると、ユエルに近づきギュッと両手を握った。
「ユエルはすごいと思う! 村のためにお金を稼ぐためにくるなんて……そんなあたしはたいそうな理由じゃなく個人的な理由で村を出たし……」
「い、いやけどフェルも大切な人を探すって目的があるじゃないですか。それにここに入団すれば捜索に一歩でも近づけますよ」
マヤ姉の為に……。
確かにユエルの言う通りだ。悲観なんてしている余裕がない。
目的の為に頑張らなくちゃ。
あたしは頭を縦に振った。
「うん、そうよね。一緒に頑張ろう!」
「はいです!」
ライネスは咳き込むように割入り、あたし達は意識をそちらに向けた。
「お取込み中の所悪いが、準備終わったようだぞ」
親指を立て、数度クイクイと動かす。
その先には従業員の一人が扉の前に立っていた。
従業員は一礼する。
「フェル・ラグンダルト様。ユエル・タニア様。準備が整いましたのでご案内します」
「まあ俺様は会場でお前たちの雄姿を見届けてやるぜ」
「ありがとうライネス。行こユエル」
「はいです!」
ユエルは立ちあがると、あたし達は従業員のいる扉の方へと向かう。
ラウンジを出たあたし達は長い廊下に出る。
従業員が先導して先に進むと、後ろをついて行きながら歩く。
一歩ごとに足音が響くのと同時に心臓が早鐘を打つ。
「この先がムエルニ様との勝負を行っていただくフロアとなっております」
目の前には一つの扉。
途中から歓声が鳴り響いていたのが耳に聞こえていた。
本当にこの先で勝負するんだ。
あたしはギュッと手を握ると、ユエルも手を握り返した。
この先、なにがあっても大丈夫とそう思いたい。
扉が開かれた。




