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2-7:メッセージ


 この世界の渚は、人間関係をあまり築けていないらしい。

 

 メッセージの履歴に並んだ相手は両手の指にも満たず、そのほとんどが業務連絡のよう。椎野渚という人物像を探れるほどの情報はなかった。


 

 今ある通知は赤い丸が三つ。


 未読のメッセージが三件、残っていた。


 

【from ゆかり】明日、ほんとに復帰するの? ほんとに大丈夫?……

 

【from 副隊長】こんばんは。復帰するって聞いたけど、もし……

 

【from 絢瀬】元気?

 


 昨晩届いたメッセージが二つ。『ゆかり』と『副隊長』という人物からのメッセージを、渚はまだ開くことが出来なかった。返信の内容にも困る。

 


 未読はもう一件あった。しかし受信日時を見る限り、それは渚が目覚めるよりもずいぶん前から放置されていたようだ。


 

 他人の生活を覗き込んでいるようで、胸の奥に重苦しさが募る。渚はため息をつき、画面を閉じた。

 


 電車が減速を始める。降りる駅が近づいていた。

 

 通勤時間にはまだ早いはずなのに、霞ヶ関から流れてくるスーツ姿の人々の群れが足早にすれ違っていく。やがて黒い制服を着た人々の波に飲み込まれ、自然と足はその流れに合わせていた。

 


 流れに身を任せて歩いていると、渚の目の前に現れたのは、黒々とした高層ビルだった。


 

 周囲の高いビルよりも頭二つほど飛び抜けていた。

 下の階にはカフェやレストランが並び、早朝にもかかわらず多くの人で溢れている。

 

 中層以上は黒硝子に覆われ、磨き上げられた壁面が空を反射している。内側の様子は一切見えなかった。

 

 四十階か五十階はあるだろうか。圧倒されて首を傾け続ける渚の横を、職員たちは何事もないように追い越していく。

 


「うわ、広い」


 

 まだ就業前のはずなのに、ロビーは慌ただしく職員たちが行き交っている。背筋が自然と伸び、渚は何度も深呼吸を繰り返した。


 

(――必ず、七瀬の手がかりを見つける)

 


 検索しても、七瀬の名前は出てこなかった。考えられる可能性は三つある。

 


 ひとつは、この世界ではまだ七瀬が能力を覚醒させていない可能性。

 

 あるいは、駆け出しの界律者として無名のままなのかもしれない。

 

 そして最後は――そもそも、この世界に七瀬が存在していないという可能性。

 


 最後の一つは、渚にとって最も絶望的な状況だ。その可能性だけは否定したかった。

 


 渚は入口の警備ゲートをくぐり、ロビー階にある受付へと足を向けた。事務職員の白い制服を着た華やかな女性が、にこやかな顔で渚を迎えた。

 


 渚は受付の女性に声をかけた。



「すみません、お聞きしてもいいですか?」


 

 ポケットにあった職員証を見せると、女性は「もちろんです」とさらに笑みを深めた。


 

「えっと……おかしいかもしれないですけど」

 

「なんでしょうか?」



 崩れない笑顔のまま、女性は小首を傾げる。


 

「私、何階に行ったらいいのか、分かりますか?」

 

「――はい?」



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