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アンチヒーロー〜俺はヒールで大丈夫です〜  作者: 灰谷 An
第1章・アマチュア格闘家 編
5/17

004:復帰戦

 死ぬのを、一旦止めた多々良は家に帰る。

 老人に渡されたアマチュア大会のチラシを、まだキチンと見ていなかったので見直す事にした。

 ピラッとチラシを開いて確認する。

 そこにはアマチュア大会と書かれた後に、それを開催する人間の名前が書かれていた。

 老人の名前は《アラン=ヒューリー》。

 その名前を見た瞬間、多々良は驚きで「えぇ!? あの老人が!?」と呟くのである。



「う 嘘だろ……あのおじいちゃんが、アラン=ヒューリーなんて信じられねぇ」



 どうしてアラン=ヒューリーという名前を聞いて驚いたのかというと、アランは総合格闘技界の名トレーナーで多くのスーパースターを輩出している。

 そんな人間に誘われたなんて多々良は驚く。

 アランの前で戦うのならば、そんな下手な試合はできないと多々良は緊張する。

 今からでも復讐しておいた方が良いと、軽くシャドーで体を戻そうとするのである。

 もちろん体力は戻るわけがない。

 しかし感覚を少しでも戻しておきたいのだ。


 あとは風呂に入ってから早めに布団に入る。

 早く寝ようとするが、アランの前で試合をするって考えたら緊張で目が冴えてしまう。

 ダメだと思った多々良は、外を少し走ってこようとジョギングしに行くのである。

 何も考えずに腕を振りながら走っている。

 気のまま走っていると、気がついたら幸枝の骨が納骨されている墓地の前にやってきた。

 この事を幸枝にも伝えてやろうと墓地の前に行く。



「母ちゃん……明日、久しぶりにMMAの試合をやる事になったよ。それも総合格闘技界の名トレーナーの前でね………とてつもなく緊張するよ。だけど、それと同じくらいワクワクしてるんだよ」



 多々良は総合格闘技の試合をすると伝えた。

 久しぶりの試合という事や、心の底から嫌いになったはずの総合格闘技の試合を控えてワクワクしている事を優しい笑みを浮かべながら話すのである。

 さっきまでどこかモヤモヤしていた気持ちが、少しは晴れたのである。

 お墓の名前のところをスーッとなぞってから、また試合が終わったら来ると言って家に帰る。

 すると安心したように眠りにつけた。


 そして昼からなので軽くジョギングしてから、その会長となる市民体育館に入る。

 受付をしてから控え室に入る。

 今のサイズに合う防具なんて無いので、受付でマウスピース以外をレンタルした。

 もちろん対戦相手はアマチュアの選手であり、本格的な選手なんてごく一部だ。

 テーピングをしてからオープンフィンガーグローブを付けて、アマチュアの試合ではヘッドギアに脛当てを付けるので装着する。



「(この感覚……久しぶりだ)」



 久しぶりの感覚に多々良は楽しくなって、アップのシャドーを始める。

 するとあまりにも集中してしまう。

 笑みを溢しながらシャドーを続けていると、スタッフの人に肩を叩かれる。

 ビクッとして振り返ると、スタッフが「試合の準備が整いましたので移動して下さい」と促してくれた。

 多々良は集中しすぎたのでペコッと謝罪する。

 スタッフに言われるがまま案内されてホールに入る。

 ホールの真ん中に、多々良が憧れていたオクタゴンが置かれていて「わぁ!」と感動する。


 多々良はリングに上がる前に、ふと隣を見てみると審判団の席にアランが座っていた。

 スッと手を挙げて多々良に挨拶する。

 多々良はガチッと硬くなって頭を下げてから、リングの中に入るのである。

 レフェリーチェックが入ってから、マウスピースを嵌めて準備をする。

 多々良の対戦相手は、わりかし体ができてる少年だ。

 もちろん階級は合っており、フェザー級である。



「5分1ラウンドで試合を行ないます。レフェリーである私の指示に従って下さい。それでは正々堂々、スポーツマンシップに則って頑張って下さい。グローブタッチをしてコーナーに戻って」



 多々良と対戦相手は、レフェリーから注意を受ける。

 そして2人はスポーツマンシップの表現的に、グローブタッチをしてから各自のコーナーに戻る。

 アランは死にそうだった少年が、どこまでやってくれるのかと楽しみにしている。

 多々良も戦えるので楽しみすぎてニヤニヤしながら、ストレッチしながら待機する。

 遂にゴングがカーンッ!!となった。


 多々良は相手よりも、先にリング中央を取る。

 相手は多々良の様子を見る為、そこまで飛び出さずにジリジリと中央に向かう。

 最初に手を出したのは多々良だった。

 左のジャブを放つと、そのジャブが対戦相手の顔面にヒットする。

 だが小手調べのジャブなのでダメージは少ない。

 前後に小刻みにジャンプしてリズムを刻む。



「(この小僧、やはり只者では無かったな)」



 アランは多々良の動きから素人では無いと分かった。

 どうやらアランは多々良が、只者では無いと昨日に感じたのである。

 それは目を見て感じた。

 確かに表面上は絶望しているようで、奥を見つめると何かに怒っている火をメラメラと燃やしていたのだ。

 だから一か八かで大会に誘ってみたのだ。

 自分の目は確かだったとアランは笑う。


 多々良はサークリングしながら、対戦相手の懐に目をチラッと向ける。

 そしてボディに左ジャブを入れる。

 これに対戦相手は腕を下げた。

 その隙に右ストレートを顔面に叩き込む、腕の速さは信じられないくらいで顔面にクリーンヒットする。

 ヘッドギアをしているのに、対戦相手は操り人形の糸を切ったように地面に倒れた。

 急いでレフェリーが駆け寄って、気を失っているのを確認してから腕をクロスしてゴングを鳴らす。


 多々良は四方に頭を下げてからリングを降りる。

 拍手の音が聞こえてきて音の方向を見てみると、アランが拍手していたのである。

 照れながらペコッとして控え室に戻る。

 次の試合まで待機する。

 残り試合は2試合だ。



「(スゲェ……久しぶりなのに動けるぞ! だけど………そんな事よりも楽しい!)」



 久しぶりなのに動ける上に、KO勝利した自分を褒めてやりたいと多々良は思っている。

 それ以上に総合格闘技が楽しいと笑っている。

 早く次の試合をしたいと、体が先行して試合が終わったばかりなのにシャドーを始めた。


 そして大会は円滑に進み、多々良の試合が直ぐに回ってくるのである。

 次の試合も初戦のように、右ストレートを顔面にクリーンヒットさせてKO勝利した。

 残るは決勝戦だが、その試合も見どころもなく左フックをボディに喰らった対戦相手がダウンして、そこを見逃さずにグラウンド状態に持ち込みパウンドでTKO勝利を収める事になる。



「フェザー級、優勝者は……九頭(くとう) 多々良選手です! おめでとうございます!」


「ありがとうございます!」



 多々良は見事に優勝した事で、大会に来ている人たちから拍手を送られるのである。

 多々良は照れてニヤニヤしていると、優勝トロフィーはアランから直々に受け取る。

 2人はトロフィーを受け渡しをしてから握手をするのだが、アランは手を引き寄せて多々良の耳元に口を持っていき言葉を発する。



「このあと控え室で待っておれ、ワシから小僧に話がある」


「え? あぁ……はい」



 アランは多々良に話があるから控え室に残るように言われ、何かと思いながらアランに言われたら断れないので「はい」と返事をした。

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