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アンチヒーロー〜俺はヒールで大丈夫です〜  作者: 灰谷 An
第1章・アマチュア格闘家 編
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016:新たなステージ

 多々良は控え室に戻って来た。

 今の試合についてアランは、多々良の肩を叩いて「まぁ良いスタートは切れたじゃろうな」と褒めた。

 褒められたように感じないかもしれないが、普段は褒められない多々良からしたら、これくらいでも良い試合ができたのだと納得できる。

 それだけ多々良は、アランを信頼し尊敬している。



「失礼します。多々良選手、アランさん」



 扉をノックしてフェルナンド会長が、控え室に入って来たのである。

 アランは手を挙げて挨拶し、多々良は急いで椅子から立ち上がって挨拶をする。

 その多々良にフェルナンド会長は、試合終わりなのだから「座ってて構わないよ」と微笑んで言う。



「どうじゃった、小僧の試合は? そこまで悪くないと師匠のワシは思っているがのぉ」


「えぇ素晴らしい試合展開でしたよ。第1ラウンドは、こんなもんかと思いましたが、やはりジャノの事を観察していたのですね。狩りをする獣のように」


「そうじゃ。ジャノに関しては試合映像が乏しい上に、あんな選手は肌で感じないと分からんじゃろ? だから最初のラウンドは、あっちに渡してやったんだわ」


「そこまで想定しての試合運びですか。これは……アマチュアという括りに収めておくわけにはいかなそうだ」



 アランはフェルナンド会長に、今の試合はどうだったかと質問をする。

 これにフェルナンド会長は、素晴らしい試合展開だったと満面の笑みを浮かべて語る。

 最初こそ何をしているのかと思ったフェルナンド会長だったが、多々良とアランの狙っているものが分かってからの試合は面白さが数倍に上がったという。

 どういう試合展開をしようとしていたのかについて、事細かく聞いたフェルナンド会長は驚愕したらしい。

 これは既にアマチュアの域を超えていると称する。



「それはつまりどういう意味じゃ? お主の口から、ハッキリと言ってみてくれ」


「これはこれは。それでは僭越ながら言わせていただきますね……多々良選手に、我ら〈トール ファイター チャンピオンシップ〉に参加する為のオーディション大会へのオファーをさせていただきます」



 これはもはやオファーを出しているに等しいが、アランはフェルナンド会長に、ニヤニヤしながらまどろっこしいの排除してハッキリと言って欲しいというのだ。

 からかっているのは分かっているが、フェルナンド会長は多々良に正式なオファーを出した。

 それは多々良とアランが狙っていた、フランス国内の団体に出場する為のオーディション大会へ出場する事が確定して大喜びするのである。



「それでダメージの方はありますか? ダメージの深さで試合の日程を変えようと思っていますが」


「喰らっているように見えて、全て芯を外しておったからな。ダメージは対して無いはずじゃ」


「はい! ダメージは、ほとんど入ってません!」



 フェルナンド会長は、多々良にダメージの有無を質問するのである。

 これはオーディション大会の日程を決める為だ。

 深いのならば数ヶ月は空けようと思っていたが、多々良はダメージを喰らっていないので、いつでも試合はできると鼻息荒く志願した。



「それじゃあ年明けの1月4日大会でどうかな? 今日から数えたら……約2ヶ月くらいしか準備期間は無いけど、それで問題ないかな?」


「はい! 是非ともやらせてください!」



 フェルナンド会長が提示して来た日にちは、年が明けた1月4日だった。

 これに多々良は問題ないと言う。



「それじゃあ決まりだ。アランさん、正式なオファーは明日以降に行ないますので」


「おぉ今日は、わざわざ来て貰って悪かったのぉ」


「いえいえ、いい試合を見せてもらいましたよ」



 フェルナンド会長は、正式な契約は明日以降にすると言って控え室を後にする。

 それを多々良とアランは見送る。

 扉が閉まったところで、多々良はガッツポーズをしてオーディション大会へのモチベーションの高さを、全身で表しているのである。



「小僧、明日は休養日じゃ。明後日からトレーニングを再開し、土日は出稽古に行くぞ! それを2ヶ月やり切るんじゃ」


「出稽古ですか? どんな相手なんでしょうか」


「それは行ってからのお楽しみじゃ! まぁお主のライバルになるかもしれない相手ではあるかのぉ」



 アランは明日を休みにして、明後日からトレーニングを再開すると言ったのである。

 平日はいつも通りのトレーニングをして、土日になってら他ジムの選手とスパーリングという出稽古に行くと悪そうな顔をして伝える。

 どんな相手とスパーリングをするのかと聞く。

 しかしアランは、それは行ってからの楽しみだと悪そうな笑みを浮かべて秘密にして来る。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 多々良がジャノとの戦いが終わった頃、日本の真谷ジムでも新しい動きがあった。

 それは京介についてである。

 少し前、無事にアマチュア三冠を達成している。

 この結果に遊馬は、ようやくスタートラインに立つ事ができたと少し安堵している。



「京介、まだこれはスタートラインに立っただけだ」


「分かっています。あの試合には納得できないところが数箇所あるので、次の試合までに修正します」


「その域だ、決して驕る事なく努力し続けなさい。それと京介のプロデビュー戦が決まったぞ」



 遊馬はスタートラインに立っただけという言葉を強調し、調子に乗らないように釘を刺す。

 こんな事を言われなくても京介は分かっていた。

 アマチュア三冠を決めた試合でも、納得のいかないところが数箇所あると述べた。

 この姿勢を遊馬は褒める。

 ついでと言わんばかりに、遊馬は京介のプロデビュー戦が決まったと伝えた。

 サンドバッグを殴っていた京介の手が止まる。



「プロデビュー戦が決まった? どこの誰で、何位の相手ですか?」


「対戦相手は《マヤオ=クリソン》というフィリピン人だ。マヤオは日本のランカーではなく、〈アジア チャンピオンシップ〉で8位という位にいる」


「それは強いんですか?」


「そうだな、日本の団体〈フラッシュ〉のチャンピオンが世界戦に行く前に戦う団体だ。そこの8位というのだから、普通の人間ならば初陣にしては強敵だろう」



 京介のデビュー戦の相手は、フィリピン人のマヤオという男で、マヤオはアジア全体を中心とする格闘技団体である〈アジア チャンピオンシップ〉で8位という。

 日本チャンピオンが、世界戦の小手調べとして挑戦する団体であり、普通の人間のデビュー戦ならば侮れない強敵と言えるだろうと、遊馬は語った。



「普通の人間なら強敵……それはつまり」


「そうだ、お前にとっては完勝して当たり前の敵と言っても良いだろう。この敵を完勝し、鳴物入りでプロデビューを果たし、そのまま世界のトップに登れ」


「さすがは父さんですね。そこまで考えて、デビュー戦の相手を用意するなんて……脱帽ですよ」


「お前は何かを勘違いしている。俺が頂点を取った時のように、お前も世界の頂に立つ義務がある。それを成さなければ、お前が真谷家に生まれた意味は無い」


「はい……それは理解しているつもりです」



 今回の相手は強敵と言っても、京介からしたら必ず倒さなければいけない相手だという。

 それこそ真谷家に生まれた責務だ。

 この事も京介は、よく理解している。

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