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アンチヒーロー〜俺はヒールで大丈夫です〜  作者: 灰谷 An
第1章・アマチュア格闘家 編
16/17

015:展望

 第1ラウンドが始まったのだが、多々良はジャノに押されまくっている。

 この光景に美玲たちは心配する。

 観客たちは、やはりジャノは強いと歓声を上げて興奮しているのである。

 しかしフェルナンド会長は違和感を感じている。

 普通に見ればジャノが、経験値や色んなところで上回っているとみる。

 だが何かが違うと考えている。


 そして第1ラウンド終了のゴングが鳴る。

 ジャノはトドメを刺せなかったので、チッと舌打ちをしたが「まぁ良い、直ぐに終わる」と思っている。

 そのままジャノは自分のコーナーの方に戻るが、両肩が上がるほどに息が上がっていた。

 まぁそれも仕方ないだろう。

 それくらい攻めていたのだから。


 これに対し多々良は息切れするどころか、息が乱れていないのである。

 多々良がアランの用意した丸椅子に腰を下ろす。

 顔とかにワセリンを塗ったりしながら、第2ラウンドの作戦について話をすると。



「どうじゃった? 今のラウンドで、あやつの全てを理解できたか?」


「はい! タイミングや呼吸法が理解できました。アレなら問題なさそうです……次のラウンドから本気を出しても良いですか?」


「あぁ! 次のラウンドで決めて来るくらいの覚悟で行って来い!」



 多々良とアランの作戦としては、わざと第1ラウンドはジャノに攻撃をさせるというものだった。

 それは情報の少ないジャノのタイミングや呼吸法などを、多々良が理解する為である。

 だからやられているように見せていたのだ。

 まんまとジャノは、多々良たちの作戦に引っ掛かる。



「良いか? ラッキーパンチもある。しっかりと上半身を動かして、ヒット&アウェイだけは意識するんじゃ」


「分かりました! 行って来ます!」



 椅子から立ち上がってマウスピースを嵌める。

 両チームのセコンドが、オクタゴンから出たを見て第2ラウンドのゴングが鳴る。

 ジャノは第1ラウンドの良い記憶があるので、第2ラウンドが始まっても積極的に飛び込んでいく。

 このラウンド最初の攻撃をしようと、ジャノが拳を振るったところで、多々良は綺麗にカウンターの右フックがクリーンヒットした。


 喰らったジャノは後ろに蹌踉めく。

 そのまま右手を地面に着いて、ダウンはしないようにしたのだが、そのチャンスを多々良は逃せない。

 倒れそうになっているジャノに乗り掛かる。

 多々良はグラウンド状態を取り、ジャノは良い姿勢を取らせないように足を腰に回して体を密着させる。

 これに多々良は姿勢を正して、グラウンドパンチをしようとするのである。


 しかし筋力量的に、多々良は姿勢を正せないと思って立ち上がる選択肢を取る。

 ジャノは、まだ衝撃があり動揺している。

 だが引きずってもいられないので、今のパンチはラッキーパンチだと思うようにした。

 立て直す為、ジャノはリズムを刻みながら、また距離を詰めていくのである。



「(クソッ! さっきのイメージが拭えねぇ……ラッキーパンチだっていうのに小賢しい! さっさとKOして記憶を塗り替えてやる!)」



 さっきのイメージが拭えず、ジャノのパンチ力が落ちてしまうのである。

 さらに神経質になり、パンチの速度が落ちる。

 そうなってしまったら、多々良のペースになったと言っても過言では無い。

 ちょっとずつ多々良はカウンターを顔に入れる。

 次第にジャノは後ろに下がって中央を、多々良に譲るようになって来たのである。



「(随分と弱気になって来たな……これはチャンス)」



 多々良はサークリングをしながら、アランの指示通りヒット&アウェイで深追いはしない。

 こうなると多々良の攻撃は当たり、ジャノの攻撃は入らないという事態になって来る。

 そうなればジャノのフラストレーションが溜まる。

 さっきまでは大振りとは言えども、カウンターを入れるのに躊躇するタイミングがあったが、今となっては隙だらけの大振りになって来たのである。


 わざとゲージ際に下がったところで、ジャノはチャンスだと思って、ガードの上からでもパンチをかましてやろうと右ストレートを放つ。

 この瞬間、右側に避けるのと同時に、左ミドルキックをブチ込むのである。

 これにジャノは顔を歪める。

 そのまま多々良は右側にサークリングする。



「(クソォ……このアマぁ! 調子に乗りやがって)」



 ジャノはイライラして思考も単調になって来る。

 それでもさっき多々良が、グラップリングになった時に嫌がっていたのを思い出した。

 それが使えると思ったジャノは、多々良の腰に抱きついて寝技に持ち込もうとタックルしようとする。

 しかしタックルを多々良は読んでいた。

 突っ込んできたタイミングで、多々良は右膝を上げてジャンプする。

 その膝がジャノの顎にクリーンヒットした。


 完全に思考の外から喰らったので、ガードをする事もいなす事もできずにバタンッと地面に倒れた。

 多々良もトドメのハウンドパンチをしようとしたが、それをする前にレフェリーが割って入る。

 ジャノが完全に気を失ったので試合をストップした。

 観客たちは1回静まり返ってから「うぉおお!!!」と大歓声を上げるのである。


 多々良は喜んでリングの中を、腕を上げながら1周して勝利をアピールする。

 すると観客席に美玲を発見した。

 その美玲に多々良はピストルのポーズをしながら、ニコッと笑うのである。

 これに美玲は「おめでとうございます」と言う。



「勝者……九頭 多々良っ!!」



 1周したところで多々良の手を、レフェリーが掴んで上に上げて勝利を宣言するのである。

 大歓声と惜しみない拍手が多々良に注がれる。

 そして試合後インタビューをする為に、リングアナがオクタゴンに上がって来る。



『多々良選手、勝利おめでとうございます!』


「ありがとうございます!」


『勝利を収めてみて、どうだったでしょうか? 今の気持ちをお教え下さい』


「そうですねぇ……率直に言うならば、勝利できた事は何よりも嬉しいです。それ以上に、次の試合を行ないたいという気持ちの方が強いですね」



 リングアナは勝利を賞賛した上で、今回の試合に関して勝利した感想を聞くのである。

 この質問に多々良は素直に勝利をして嬉しいと答えた上で、次の試合をしたいと述べたのだ。



『次の試合という事ですが、何か展望などはあるのでしょうか?』


「展望……展望かぁ………」



 これからについて聞かれた多々良は、どう答えて良いのかと困っている。

 それを見かねたアランが咳払いをして、多々良の視線を向けさせるのである。

 そして大きく頷いた。

 何をやっているのかと思ったが、何となく意図を理解してマイクに向かって、これからの展望を語る。



「これからの展望に関して言えば〈トール ファイター チャンピオンシップ〉のオーディション大会に出場したいと思っています!」



 多々良は次に国内最高峰の団体である〈トール ファイター チャンピオンシップ〉のオーディション大会に出場すると宣言した。

 これに観客たちは、ジャノに勝ったのだから当たり前だと言わんばかりに興奮している。



『それでは最後に、ファンの皆さまに一言よろしくお願いします』


「えぇ〜、そうですねぇ……俺はフランス人ではなく日本人です。こんな異国の自分でも応援していただけるのであれば、それに答えられるように全力で武士道を証明したいと思います!!」



 多々良は正直な気持ちを、ここにいる観客たちにぶつけるのである。

 これに観客たちは大興奮する。

 応援するのは当たり前だと、多々良に声援を送る。

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