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アンチヒーロー〜俺はヒールで大丈夫です〜  作者: 灰谷 An
第1章・アマチュア格闘家 編
11/17

010:スポンサー

 美玲はスポンサー契約の次に、通訳にならせて欲しいと言って来たのである。

 この展開を知っている多々良は、また押し切られるんじゃないかと恐怖心すら覚えている。

 だって美玲の瞳がキラッキラに輝いているのだ。

 とてつもなくやってやるという顔をしている。



「そ それにしても美玲って、いつからフランスに住んでるの? 通訳やれるくらい流暢に話せるんでしょ?」


「そうですねぇ……厳密に言ったら違うかもしれませんけど、5歳の時からフランスと日本を行ったり来たりしてますから………14年間はフランス語を習っていると思いますね」


「それは……大先輩だな」



 多々良は通訳ができるくらいフランス語ができるのならば、昔からフランス語を習っていたのだろう。

 じゃあどれくらい前からフランスにいるのかと聞いて見たのである。

 美玲の両親が世界に進出したのが今から14年前なので、5歳の時にフランスに渡ると、日本とフランスを行き来していたというのだ。


 多々良は美玲が人生の先輩というだけじゃなく、フランスにおいても先輩だと言うのだ。

 これには美玲は「えっへん!」と喜ぶ。

 通訳の件は忘れてしまったのかと思って、多々良は少し安心していると、2人のところにスマホのカメラを回しているフランス人が現れた。

 その人物はジャノのアシスタントをやっているローガンという青年だった。



「Tu es Tatara, le prochain adversaire de Jano !(君がジャノの対戦相手の多々良だね!)」


「な 何だよ、お前! 俺はフランス語が、まだ分からねぇんだよ!」


「あっ! わ 私が通訳しますね!」



 いきなり現れたローガンは、フランス語が分からない多々良にフランス語で捲し立てる。

 これには2人とも困惑し、多々良はせめてスピードをゆっくりに喋れと言った。

 それでも分からないと思った美玲は、さっき話していたように通訳をやると言うのだ。

 仕方ないと多々良は美玲に任せる事にした。

 そして今言っていた事を多々良に伝えた。



「そういう事かよ。さすがは動画配信者だな……いきなり突撃なんて礼儀は無いのかって言って見て」


「分かりました」



 多々良は返事として、なんで無礼なんだというように美玲に頼むのである。

 それを伝えられたローガンは口を曲げてから、腕を伸ばしてアピールしてくる。



「日本人は細かいって聞いてたけど、まさかこんなに細かいとは……これくらい良いじゃ無いか。これはエンターテイメントなんだからさ」



 ローガンは悪びるどころか、多々良の事を面白みもない人間だと言ってくるのである。

 これに多々良はイラッとするが、向こうは多々良が起こっているのを動画にしたいのだと思っているのだと考えて、怒るのを待って冷静に話をする。



「まぁそれで言うのなら君の相方のジャノなんて、聞いた事も見た事も無いからさ……趣味で格闘技をやっているような底辺動画配信者に負けるわけないだろ」



 多々良はあえてジャノの事をなじる。

 相方を悪く言われたローガンは眉をピクッと動かし、明らかにイラッと来たのが見て取れる。



「そんなに自信があるの? 君のような貧弱ジャパニーズが、ジャノに勝とうなんて100年早いよ」


「そうかよ、じゃあそのジャノって奴に俺に勝ちたいなら動画配信者なんて辞めて、MMAに集中しなきゃ勝てないぞって伝えておけ」



 ローガンはひたすらに、ジャノは素晴らしくて多々良に負けないというのを言ってくる。

 このローガンに対し多々良は、全くもって表情を変えず、ジャノを煽り続ける。

 最後に自分に勝ちたかったら、動画配信を辞めてMMAに集中しろと言い放って、美玲を連れて離れる。



「美玲、巻き込んでごめんね」


「私は大丈夫です! それにしてもあの人たちが、多々良くんの対戦相手ですか?」


「俺もあんまり知らないんだけど、あの言い方だったらそうなんだろうね。あんな奴らに負けるわけにはいかないよ」



 いつにも増して真剣な表情を多々良は浮かべる。

 この姿に美玲も遊びで関わってはいけないと、自分も本気でやろうと覚悟する。

 そのまま2人は冷めてしまったので、ジムに戻る事にしたのである。

 多々良が扉を開けて美玲をジムの中に招く。

 するとそこにはスーツに身を包んだ夫婦がいた。

 瞬間的に多々良は美玲の両親だと思って、反射でペコッと頭を下げて「こんにちわ!」と挨拶する。

 ストリートファッションブランドと聞いているので、ラフな格好なのかと勝手に思っていた。



「君が美玲の言っていた多々良くんだね? 私は美玲の父でエッジの社長をしている《窪川 陽次(ようじ)》という、よろしく頼む」


「母でデザイナーの《聡美(さとみ)》です。多々良くんにお会いできて嬉しいです」


「こ こちらこそ! 有名なお二人にお会いできて、とても光栄です!」



 美玲の父・陽次と、母・聡美が先に挨拶をして来た。

 先に挨拶されてしまったと思った多々良は、2人よりも深く頭を下げて挨拶するのである。

 この多々良の姿勢を見た両親は、互いに顔を見合ってから「ハハハッ」と笑う。



「これはごめんな、あまり格闘家の事は知らなくてね。勝手に粗暴な人間かと思っていたから、深々と頭を下げて礼儀正しくて驚いたんだよ」


「そ そうなんですか? 礼儀正しいなんて言って貰ってありがたいです」


「美玲から聞いてたよりもハンサムだしね。モデルとしてもやっていけるのではないかしら?」


「え!? モデルですか? 俺なんかがモデルなんて出来ませんよ!」



 2人とも格闘技の世界を良く知らなかったので、気象の荒い人たちだと思っていた。

 その為、多々良が礼儀正しくどころか、気の弱そうなところを見せたので2人は驚いたのだ。

 こんなにも褒められた事は無いので多々良は照れる。



「お前たち、詳しい話をするのに立ってたら出来んじゃろ? 席に座って話そうじゃ無いか。のぉ?」



 多々良たちが立ち話をしていると、アランが詳しい話をするのに立っては出来ないだろうと言うのだ。

 それを言われた美玲の両親は、笑いながらもと座っていた椅子に腰を下ろす。

 多々良もアランの隣の席に座り、美玲は椅子を用意しているのだが両親の後ろに立って話を聞くという。



「それで小僧と契約を考えていると伺っておるが、それはどういう契約を考えておるんじゃ?」


「はいっ! 是非とも彼と金銭的スポンサー契約と、ブランディング契約をしたいと考えています」


「でも、どうして小僧を選んだんじゃ? まだ試合経験も無いアマチュア選手に」


「アランさんと言う格闘技界のスター性に加え、ストリート系を主流としているうちは格闘技界への進出を考えていたんですよ。まぁこれは建前です……スポンサー契約を考える決め手になったのは娘の推薦です」



 アランはどうして無名の多々良と、スポンサー契約を結びたいと思ったのかを聞いた。

 すると陽次はアランのスター性と、会社の系統が格闘技に合っていて進出したいと思っていたからだという。

 しかしそれは建前であって決め手になったのは、美玲の推薦だと言うのである。

 それが決め手なのかと多々良たちは驚いた。



「そ それが決め手なんですか?」


「あぁそんな事で決めるのかって思われるかもしれないが、娘の人の見る目は常人より飛び抜けている。そこに賭けたいと思ったんです」



 美玲の人の見る目は、どこの誰よりも飛び抜けているのだと陽次は言うのである。



「美玲も言ったと思いますが、大いなる可能性を秘めている選手を他社に持っていかれるわけにはいきません。どうか契約をさせて貰えないでしょうか?」



 陽次は未来に大いなる可能性を秘めている選手を、他社に取られるわけにはいかないというのだ。

 そして深々と頭を下げてお願いして来た。

 これには多々良たちも言葉を失う。

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