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アンチヒーロー〜俺はヒールで大丈夫です〜  作者: 灰谷 An
第1章・アマチュア格闘家 編
10/17

009:トレーニング開始

 多々良は美玲の両親がアパレルブランドの創業者で、しかもそのアパレルブランドも世界的に有名だ。

 まさかそんなブランドのご令嬢からスポンサーの誘いを受けるなんて驚きである。



「そ そんな簡単にスポンサー契約なんて……その前にプロでも無い選手と、スポンサー契約なんてありえないんじゃないのか?」


「それとこれは話は別です! 未来に可能性がある素敵な人に投資するのが、スポンサー契約です!」



 こんなにも簡単にスポンサー契約ができるのかという疑問や、そもそもプロ選手じゃないアマチュアの自分と契約できるのかと困惑している。

 しかし困惑している多々良を押し切ろうとするように美玲は、未来のある選手と契約を結ぶのがスポンサー契約だと言って鼻息荒く喋るのである。



「まぁ私の一存で決められないので、父と母に相談してからになってしまいますが」


「む 無理しなくて良いからな」


「いえ! 両親の会社の為にも話を通します!」



 多々良と意地でも契約したいんだという美玲は、絶対に父親と母親から了承を得ると意気込んでいる。

 多々良的には、まだアマチュアでスポンサー契約なんて考えられるところにはいないので、美玲には無理して欲しくないというのである。

 だが美玲の目は、燃えているように見えた。

 美玲がやると言っているので、これ以上は言わないようにしようと多々良は黙った。

 そして多々良の休日は終了した。


 そしてトレーニング開始日がやって来た。

 多々良はトレーニングが始まる3時間前に起きると、シャワーを浴びて食事をする。

 必要な物を準備してから家を後にする。

 今日から本格的に始まるので、とてつもなくワクワクと共に緊張しているのである。

 自然と早歩きになってジムに到着した。



「おはようございます! 本日からよろしくお願いします!」


「おぉ元気があって良い! 今日からビシバシ行くからのぉ! 根を上げても止めんぞ!」


「はい! 全力でやらせていただきます!」



 多々良はジムの扉を開けると、大きな声で挨拶する。

 その多々良の姿勢にアランは、まずは元気があって素晴らしいと褒める。

 しかしアランは根を上げても止めないという。

 それくらいじゃないと遊馬に勝てると思っていないので、全力でやると宣言するのである。


 多々良はダンテージを巻いて、シューズを履き替え、ストレッチを行なう。

 トレーニングを始められる準備は整った。



「まずはシャドーボクシングを5ラウンドじゃ! フォームを意識しながら、しっかりと腕を振るんじゃぞ」


「はい!」



 アランは多々良に、まずタイトルマッチと同じ5分5ラウンドのシャドーボクシングをするように指示する。

 キッチリとフォームを意識してやるように言う。



「もっと上半身を動かせ! そんなんじゃあ簡単にカウンターを貰うぞ!」


「は はい!」


「サークリングをしながら上下にパンチを散らせ! もっと打ったら深く入りすぎず、下がるんじゃ!」


「はい!」



 多々良はフォームについてや距離感についてのアドバイスを、アランから受けながらシャドーを続ける。

 普通にシャドーボクシングをしていたら、そこまで疲れないが、相手を意識しながら試合の要領でやっていると汗が滝のように流れて来て、息が切れてくる。

 そして5ラウンドが終わる頃には、もうバテバテでタイマーが鳴ると同時に地面に倒れる。



「何を倒れておるんじゃ! 30秒後にミット打ちをやるぞ!」


「わ 分かりました……す 直ぐに立ちます」



 倒れている多々良に、アランは30秒後にミット打ちをやると言って来たのである。

 フラフラになりながら多々良は、ボトルで口を潤してからオープンフィンガーグローブを嵌める。

 そして5分3ラウンドのミット打ちを始める。



「どうした当て勘が落ちて来ておるぞ! そんなんじゃあ赤子ですら倒せんぞ!」


「は はい!」



 息が切れながらもギリギリで、ミット打ちを続けていると、アランは当て勘が悪くなっているという。

 返事はしたが無理に力を込めてミットを殴ったり、蹴りを入れたりする。

 しかしアランは多々良の頭をポコッと叩く。



「無理矢理に殴っても仕方ないじゃろ! 後半になってヘロヘロになったら、そんな力任せなパンチは使い物にならんぞ!」


「え? じゃ じゃあどうすれば良いんですか? パンチ力が無かったら、相手を倒せませんよ?」


「だから当て勘と言ってるじゃろうが! 顎を打ったり肝臓を打ったり、力が無くてもダメージを当てる方法はある。倒し切れなかったとしても、ポイントで上回っていれば判定で勝てるじゃろ」


「あぁそういう意味だったんですか」


「どれだけ疲れていても考え続けろ! 当て勘だけは、見失うんじゃ無い!」



 多々良が勘違いしていたのは、パンチ力やキック力を落とさないようにしようとしていた事だ。

 そんな勘違いしている多々良に、アランは当て勘の大切さについて説明するのである。

 後半になって体力が無くなったとしても、当て勘が損なわれていなければ、ダメージを蓄積させたりポイントで上回ったりする事ができる。

 それを意識してやるようになる。

 思っていたよりも大変だ。


 そして5分3ラウンドが終わったところで、また多々良は地面にバタンッと倒れ込む。

 さっきよりも腹がベコベコしている。

 もう明らかに体力の限界を迎えているのだ。

 アランは無理な負荷をかけ過ぎれば、それこそ選手生命を縮めかねない。

 だから午前中の練習は終了とした。



「午後からは2時からスタートするぞ」


「りょ 了解しました……それまで休みます」


「あっ! できれば飯を食ったら直ぐに、ジムに戻って来てくれるか?」


「え? べ 別に良いですけど……何かありましたか?」


「小僧とスポンサー契約をしたいって会社が連絡してきてのぉ」



 休みに行こうとした時、まさかの言葉がアランの口から発せられたのである。

 美玲が言っていたスポンサー契約が、本当に間近に迫っていたのだ。

 これにはどこか少し恐怖心を抱く多々良だった。


 とりあえずシャワーを浴びてから、食事を取って少し休憩してから練習に行こうと思った。

 ジムを出て、家に向かうまでの道の途中で、ピョコッと美玲が現れたのである。

 いきなりの登場に「うぉ!?」と驚く。



「うぉって何ですか? 私が来るのが迷惑なんですかぁ?」


「い いやいや! そんな事ないよ、ただビックリしただけで……今日はどうしたの?」


「あれ? アランさんから聞いていませんか?」


「午後からスポンサー契約に関する話があるって聞いたけど……本気だったんだね」


「本気ですよ! 私は多々良くんに、無限の可能性を見たので逃しません!」



 多々良はどうして美玲がいるのかは、何となく分かっているが、それでもいる理由を聞いてみた。

 するとやはり午後からのスポンサー契約に関する話をする為にやって来たのだと目をキラキラさせて言う。

 ここに来て2日前の鼻息荒くスポンサー契約と言っていたのが、かなり本気であったというのが伏線回収のように、多々良は思い知らされるのである。



「それにしても多々良さんは、フランス語は話せるんですか?」


「え? いやぁ勉強はしてるんだけど、まだ話せるとか聞き取れるとかってレベルじゃないよ」


「それじゃあ! 私が通訳として雇うのはどうでしょうかね! こう見えてフランス語をマスターしてますから任せて下さい!」



 スポンサー契約から今度は通訳の話を出して来た。

 これもきっと本気なんだろうなと、多々良は何とも言えない悟りを開いた顔をしている。

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