プロローグ
土の匂いが鼻を掠める。その中に混じる異臭。
鉄錆と腐敗。死の香り。目の前に、死があった。
何百。何千と目にした光景。——心が悲鳴を上げている。
理解なんてしたくなかった。夢であってほしいと願いながら。
けれど、そんな逃避もできなくて。
呆然と、立ち尽くして。或いは死んでしまおうか。擦り切れた心で考えて。
——そんな時、声が聞こえた。
そこにいたのは少女だった。
銀髪を腰まで伸ばしてる。かわいいというよりも、人形のように整った美しさを持っていて。——けれど、その目がすべてを台無しにする。絶望に浸り、すべてを恨む、悪意の目。
けれど、もう、何もかもがどうでもよかったんだ。ただ、楽になりたかった。
何も考えず、何も思わず。物言わぬ骸になりたかった。……少女の言葉を聞くまでは。
彼女は、優しい声で語り掛ける。その目に絶望を宿したままに。
「僕なら君を救えるよ。君の願いを教えてごらん」
まるで、悪魔が理想を囁くように。
「その願い、僕が叶えてあげるから。——たとえ、死者を生き返らせる願いであろうと」
その理想。希うには遠すぎて。信じることなどできなくて。心の底で確信していた。これは罠で、きっと後悔することになるだろう。
それでも。
「僕の願いが叶ったら。その時僕が生きていたなら。ああ。君の望みをかなえてあげよう」
それでも私は、願わずにはいられなかった。
「さぁ、僕の手を取るんだ」
彼女は囁きかけてくる。右手をこちらに差し出して。
その手に、私の手を重ねた。
たとえ、どれほどの後悔を連れてこようとも。
その程度で、私の願いが叶うなら——
それだけで、よかった——
——はず、だった。