再燃。
それは希望と未来すら。
「...こ、これは...」
猛雷は自分達にとって不都合な状況を目に、おもわず呟く。
「...何故今になって火を...?」
月見も顎に手を当て、何やら考え込んでいるようだ。
(いやぁ...まずいね。よくない方に物語が分岐しつつある、困った...一旦出直そうかね)
神の纏う紫色の焔を見ながらそう思っていた老人の表情を
(......)
あまねと呼ばれる女性がただ見つめていた。
「...カグツチ様申し訳ございません......イザナギ様の眷属である私なんか......助けて頂いて......本当に...」
誘美はあまりの申し訳なさにカグツチの顔を見ることができずに瞳を閉じながら話していた。
「黙っていろ、誘美。私に対して戯言を吐くぐらいなら最初からその口を開くな」
誘美はカグツチの返答に本来自分なんかが気安く会話していい相手じゃないのも当然だと自分で解釈し、俯き目尻から涙を零しながらも助けてくれたことに対し一礼してその場で後ずさる。
「...離れろとは言っていないぞ。何を勝手に解釈したのかは知らないが小さい頃から今紫までお世話になった友に対して言わせてもらうならば父の眷属だの余計な肩書きは心底どうでもいいんだ。友の危機に手の届く状況なら指先でもなんでも伸ばして救いを差し伸べるのは当然のこと。今紫も愛宕神社もずっと見守ってくれていたんだろ?」
誘美はその場で膝をつき両手で顔を覆った。両目から溢れ出る恥ずかしくなる程の涙を誰にも見られないように。彼にとってカグツチの言葉は到底予期せぬものであり、寧ろ自分はあまりよく思われていないものだとずっと心のどこかでその思いを抱えていたからだ。
(...これは好都合か!)
誘美に視線が集まっている状況に老人は瘴気を纏い、猛雷達の元まで戻ると
「さあ帰ってお茶でもするとしよう」
と告げ、彼らは神に視線を向けながらも各々自分の宿す属性のオーラのようなものを出し始める。それは猛雷でいう腰の刀を中心としたバチバチと音を立てる雷、老人なら身に宿す黒い瘴気などその類のもの。
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だが戻ろうとしてた彼らの耳に何かが聞こえた瞬間寒気のようなものが彼らを身震いさせ、全員のオーラは消失する。
「できることならばそれを聞きたくない」
と肉体がその何かを聞くの拒否していた。
「起きろ」
聞こえたのはそのたった三文字だったはず。それも自分達に敵意を向け放たれた言葉なんかではなく、言った本人に先程までこんなにも威圧感は感じなかった。変化があったのは神が紫色の焔を纏ってから。
「......」
ただ眺めることしかできない。それは芽生や呼吸の戻ってきた誘美ですら今は目の前の神を見ているだけで体がびりびりと押さえつけられるようなそんな感覚に襲われていた。
「......」
皆が神の操る蛇のような紫色の焔を見つめる中、神は倒れていた眷属達を一筆書きのように紫色の焔で包んでいくとその者達の指先がピクッと動き、徐々に立ち上がり始める。
「起きろ」
二回目のその言葉をその場にいた者達全てがしっかりと耳に残した。
「さあ」
神がそう言って指先を老人のほうへ向けると立ち上がった者達は何事もなかったかのように武器を手に駆け出す。
「...あ!冬月!...怪我はなんともない...?」
芽生はその光景を眺めながら先程まで倒れていた冬月が駆け出そうとしているのを目にすると彼を心配し、おもわず声を掛けた。
「芽生、お前が無事でよかった。だがこんなこともあるのだな。傷が一瞬で治癒されたようだ......ツミノカミ様の技は癒しを感じる治癒だがカグツチ様のこれは傷を焼いて塞ぐような力技。それでも痛みは感じずにただ温かく、心地よい炎であった」
冬月も驚いた様子で先程まで深い傷を負っていた左腕に触れながら話し
「...ならよかった」
芽生が安心した様子を見た冬月は
「まだ動けるな?共に行くぞ、これは今紫様の未来を守るため」
と芽生の目を見て話すと二人は駆け出していった。
(...私は何をすべきか、今の私に何ができる...?)
疲労で満足に動けずにいた誘美は一人頭を悩ましていると
「それぞれが今紫のために動いている。その今紫が帰って来た時に彼女が困らないようにせめて今まともに動けないお前だけはただ今紫の帰りを待っていろ。今のお前にしかできないことならそれすら誇りに持つべきだ。何も周りなんかに合わせる必要ないんだ。お前の悪い癖だろ、一人で頭を悩ますの......昔からな」
誘美の考えていることを見透かしたカグツチが声を掛けた。
「...分かりました」
そう返答し、誘美はひたすら今紫の帰りを待つ事に専念する。