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呪いの焔。  作者: あめ
不穏。
7/8

光明。






大事で、大切な。






 目の前の光景から神の瞳に光が戻りつつある事を感じ、老人は目を見開いて


「素晴らしい...素晴らしい!!!僕はこれを見たかった、そこにも愛はあるんだね」


と拍手しながら笑っている。


「私の記憶に干渉していたのか......」


未だ紫の火に包まれながらも今紫に抱きしめられていたカグツチはそう呟くと拳に力を込めた。


「あっ!ごめんなさい...私咄嗟に...」


今紫はカグツチの言葉を聞き、自分が無礼な行いをしてしまったのだと焦り、一歩後ずさる。


「おいで、来てくれてありがとうな。おかげで現実の私も意識を取り戻せそうだ。そしてそこのご老人、あなたは私の記憶を好き勝手に弄れる身分なんだな?ならば何をもってどう償わせようか」


とカグツチは再び今紫の腰を抱き寄せて愛おしそうに抱きしめ、老人には怒りの宿っている瞳をぶつけた。すると彼女達を包んでいた火が突如老人の方へ蛇のように向かっていった。


「んんぅ!?...これはまずい!僕は先に美しき世界に帰らせてもらうとしよう!君達はここで闇に堕ちて無様に死ぬといい」


老人はこの世界から抜け出そうと黒い瘴気を纏い始める。

だが


「...はぇ?痛い...?...痛い痛い痛い痛い!!!!!」


老人は突然そう叫びながら腹部を両手で抑え、その場に倒れ込んだ。そのまま数秒後、倒れていた場所に少量の瘴気を残して老人の姿は消えた。


「誰かが...これは複数人の気配か。老人の本体に攻撃をしかけたようだ。今紫、未来に帰ろうな」


カグツチは崩壊しつつある周囲を確認し、今紫の肩に手を乗せて見合った状態でそう話すと二人の姿が消える。


グワン


だが突然消えるはずだった二人の姿がまたもやどこかの世界に現れる。


「...ん?」


カグツチと今紫は不思議そうにキョロキョロと辺りを見回すと


「今紫様って私と歳が近いんですか!?」


と道場のような場所で見慣れた一人の女の子が年配の男性に聞いていた。


「これは...」


カグツチは直感でその女の子の記憶だと気付いた。


グワン


またも景色が変わるとその子の数年後のようでその容姿に成長を感じ、彼女は一人で川を眺めながら座っていた。


「...今紫様に会いたいな...。八歳くらいの時にすれ違って以来会ってない。可愛かったな...」


体育座りで呟いていたその子を見た今紫は


「芽生さん!...ってことは芽生さん生きててくれたんだ。

カグツチ様か私を起こそうと今触れているんでしょうか?」


と隣のカグツチに問う。


「そういうことだろう...それにしてもお前は人気者だな」


カグツチは呟きながらも愛おしそうに記憶の中の芽生のことも見つめていた。


「私も芽生さんとたくさん話したい...」


今紫は本音をボソッと話すとそれを見たカグツチは


「ならば共に生き抜かないとな。私もお前達が楽しく会話している様子を見ながらお茶するんだっていう夢が今一つできた」


と今この瞬間にできた夢を語った。


グワン


芽生の記憶が歪む。


「.....」


カグツチも今紫も目の前の光景に言葉が出なかった。


「...綺麗な本堂」


それは今や至る所に血が飛び散り、先程まで激しい戦闘の起こっていた愛宕神社そのものだ。太陽が登り始めた中、その縁側で一人の青年が愛おしそうに庭で遊ぶ少女を眺めていた。


「...私と誘美さん?」


その青年は誘美で数時間にかけて一人で遊ぶ今紫を見守り、自分のそばに来たら話したり一緒に遊んでを繰り返していて


(...何も不自然な情はない)


カグツチは安心した様子で記憶の中の二人を交互に見ていた。


グワン


ここは愛宕神社。数年後の誘美であろう青年が門を出て歩いていると


「君、君!ちょっとお尋ねしてもいいかな?」


突然前方からすれ違う間際で一人の老人に話しかけられる。


「...はい、僕が答えられる範囲であれば」


と誘美は老人のほうへ寄り


「あの女性はここの住職か、又はその親族かい?」


老人は敷地内を箒で掃いている女性を指差し、問う。


「...あの方は住職である紫平様の娘で紫令様です」


誘美は素直に返答した。


「あれが紫令か...おーっと青年よ、ありがとう。何か欲しいものはあるかい?」


紫令を一目見た老人が一瞬目を細めながら話し


「...お知り合いですか?」


と問う誘美の両目を突然掌で覆う。誘美は頭部全体を襲う痛みに耐えきれず叫ぶが老人が纏う黒い瘴気が二人の姿を隠す。


「余計な詮索はやめてね、めんどくさいったらありゃしない。だが有益な情報をありがとう、お礼に君にとっても有益な未来をあげるからこの頭の中僕にちょっと見せてごらん」


と老人の声が脳内に響くも返答も抵抗もできやしない。


「...君にも愛があるんだね、いいよ。その子を君のものにしてみてよ。ほら」


誘美の記憶の中の何かに気付いた老人はそう言い放つと姿を消した。


「...あれ?僕は何を......疲れた。今紫に...今紫様に会いに行こう」


誘美は何事もなかったかのように目の前の門をくぐり、愛宕神社に入って行った。


「...あれ?誘美君、忘れ物ー?」


箒を掃いていた紫令が戻ってきた誘美にそう問うが


「え?いや今紫様に会いに来ました!」


と誘美は元気に返答し、紫令は


「好きなんだねー、今紫のこと」


と今紫のいる場所へ向かう誘美を微笑ましそうに見守っていた。


「...誘美さんもあの老人に...」


カグツチと並んでその様子を見ていた今紫は哀しさと怒りの混ざった感情が自分の心をいっぱいにするのを感じた。


「ごめんな、今紫。既にこの時には紫令は目をつけられていたんだな。私が側にいながら何も気付けなかった」


カグツチは今紫の目を真っ直ぐ見て、謝罪した。


「...カグツチ様、謝らないでください。こればかりは記憶に干渉される以上どうすることもできません」


今紫はそう返答するとまもなくこの世界は少しずつ崩壊していく。


「誘美と芽生が私達から離れた。おそらく敵の攻めにあっているようだ...共に未来を救いに帰ろうな、今紫」


二人は何かを受けいれたかのように手を握り合うと


バチッという電流が流れたかのような音がこの世界に終わりを告げた。






 現実世界。月の下で数人の人影がぼろぼろになりながらも老人を除いた敵数名の攻めを耐えていた。


「...カグツチ様と今紫様を信じて!!!」


頬から血が滴っている女性が叫んでいる。


「...力不足ですまない、芽生殿...」


叫んでいた女性は芽生だ。そして男性は息を切らしながら何とか返答する。


「今諦めたら誘美さんが作ってくれたチャンスが無駄になります!それにカグツチ様達を信じて費やしてきた時間全ても無駄になるんですよ!?」


男性は誘美、彼だ。


「残念だけどカグツチもその子も目覚めることはないよ。もし目覚めたとしてもその頃には君達二人はあの世行きだ、僕に傷付けたんだからね。ひっひっひっひ」


老人は片目を手で抑えつつ笑いながら話すが抑えてる手からは血が滲んでいて、それはどうやら誘美達から攻撃を受けたようだ。


(誘美さん、今はどうか辛抱して......私も苦しいよ。けどあなたがこの暗闇の中で光となる一手を打ってくれたから私はそれに応えるためにもあなたとこの状況を乗り越えたい...。お願い、誘美さん。私達に証明して...あなたは敵じゃないって。カグツチ様と今紫様が...きっと帰ってくるから!)


芽生は数分前を振り返る。




 その時彼女は動けないでいた。


「芽生殿...どうか生きていてくれ」


這いずってそう近づいてきた男性がいた。


「......誘美さん...?」


それは目や鼻、口から出血した形跡のある誘美だった。


「芽生殿!生きておられて何より。ですがこの一度きりです...どうかカグツチ様と今紫様のためにも生き抜いてください!」


と彼が話すと彼の掌から現れた風の渦が芽生を覆い、それはシャボン玉の中にいるかのようで体が軽い。


「...軽い!?動ける!ありがとうございます、誘美さん!

この機にどうかお力をお貸しください...ツミノカミ様!」


と芽生がその場で目を閉じ、手を合わせて念じた。すると芽生と誘美の切り傷を草木が覆い、痛みが多少和らいでいくように感じた。

そして敵数名を中心とし全方向から蔓が伸びてきて敵を拘束する。


「...傷口が...芽生殿、ツミノカミ様、ありがとうございます」


誘美は自分の傷に多少の治癒効果を感じ、礼を述べた。


「山神が動くとなればまたしても場が悪いが、さてどうする?」


猛雷は拘束されたまま老人へ問う。


「この程度の拘束は何も問題ないでしょ?それにちょこまか逃げ回るのも時間の問題さ。堕ちた神の元へあの二人も送ってあげよう」


老人が話し終わると猛雷達は一斉に拘束を解いた。そして各々攻撃体勢をとる。


「野生の鼠が雷に当たる確率は何%であろうか」


猛雷はそう言いながら刀を振りかざした。




 それからの今。


(元より私達イザナギの眷属は戦闘向きではないのです...ごめんなさい、芽生殿。私はここまでか......)


傷は癒えても動かしている体の疲労は蓄積し続けていたため突然誘美の意識が途切れかける。それを見た老人がすかさず瘴気を纏い、猛スピードで近付いてくる。


「誘美さん!!!」 


芽生も視界で追うのが精一杯で到底間に合わなかった。


-------


突然芽生の視界の端から紫色の火が老人を追っていく。


「...ぇ?」


だがそれは老人を追い抜き、老人はおもわず驚いてその場に止まった。






「よくここまで耐えてくれた。お前らの大好きな最愛の今紫が帰ってくるのにだらしない姿を見せる気か?起きろ、誘美...お前の見せた勇気をまだ終わらせちゃいけない。共に過去から今を取り戻すぞ」


今にも地に伏せそうであった誘美の体を力強く、温かい誰かの腕が支えた。




か細く脆い灯火が闇夜を照らす光のように。


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