初めまして、雲上常晴です。
突然ですが、あなたには大切な人はいますか?
何をとしてでも、救いたい人はいますか?
私は全員がYESと答えて欲しいです。
なぜなら、人には必ず大切にしなくてはならない人がいるからです。
それは『自分』です。
他人を想像した人はとても優しい方ですね。でも、自分が幸せになるには、自分を大切にしなければなりません。
どんなに自分が嫌いだろうが、信じてみてください。自分自身を。
この物語は主人公を幸せにしたい筆者が、色々な視点を与えたいだけのお話です。
僕は僕が嫌いだ
何もできない僕が嫌いだ
ひとりぼっちな僕が嫌いだ
こんな冷たくて空虚な生に意味はあるのだろうか
どうして僕は生まれて来たんだろう
どうして何も出来ないんだろう
頭の中でそうぐるぐると思考が空回りしていく
僕は弱い
自分1人すら守る事が出来ない
いつか、幸せと呼べる日が来るのだろうか………
空が白んで幾許か、温かな光に照らされ山の雪が溶け出し、近くを流れる小川の水量がいつもより増えている。大地には、厳しい冬を超えて、ようやく小さな芽や花が咲き始め、要所に緑が垣間見える。春を感じさせる草花の匂いが一面を漂っていた。
周囲に人の気はなく、ただ風に身を任せ雄大に大空を漂う鳥。景色のワンポイントかの様に点在する白黄の蝶が華麗に揺れている。
近くに佇む小さな古屋はところどころ欠けており、年季が入っている。あちこちに手直しをした跡があり、壁には緑の苔が我が物顔で占領している。
鳥のさえずりと優しく吹く風の音楽。そして規則的に空を割く音が聞こえる。ブン、ブンとリズムを刻み、さながら自然の中でタクトをとっている様な心地よさ。
何十何百と一定に続く、その静なる音と反比例して、徐々に荒くなって来た息遣いが聞こえ始める。顔から滴る汗を拭いすらせず、只々無心になって木刀が振るわれる。
しばらくすると、大きく息を入れて空を切る音が鳴り止む。
「今日はこのくらいにしておこうかな」
誰に言うでもなく、そう呟いて自然との合奏は終焉を迎える。手に持っていた木刀は持ち手が擦り切れ、取れない汚れがこびりついている。しかし、刃の部分は何にもぶつかったことがないように凹凸の一つも見当たらない。
あらかじめ川から汲んでいた水で顔を洗い、ぼろ布を濡らして軽く体を拭く。さっぱりしたところで、末席の観客に声をかける。
「いつまで見てるの、エキ姉」
少し目線を上げると、少し離れたところからしゃがんだ少女がニコニコとこちらを見ている。赤みがかった髪にはトレードマークの白いリボンとボンボンがついたゴム紐が括られ、その屈託のない笑顔を惜しみもなく向けている。
「あれ、バレてた?」
悪びれもなく笑顔のまま立ち上がり、近づいて来る。
「毎日毎日ご苦労さん!だね。よく飽きずにやってるよ」
少女は続けて言う。
「相変わらずツキカの素振りはいつ見ても綺麗だね。いつまででも見てられるもん」
そう言うと、先ほどまで振るわれていた木剣を拾い上げ「おもっ」とニコニコしながら遊んでいた。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、体調は大丈夫なの?昨日も寝込んでたって聞いたよ」
「元気元気!この通りすっかり復活だよ!」
そう言って元気に走り回る姿を見て少しホッとする。
エキ姉はここアルファ村の村長の娘だ。昔から体が弱く、時々熱を出して寝込んでしまうのだ。天真爛漫で裏表がない性格なので村の中では一番の娘と人気がある。おまけに幼さが残る顔立ちだが、容姿は整っており、誰にでも分け隔てなく接するため、村の男の中でもエキ姉を狙っている者も少なくない。
しかし、無邪気さゆえに、熱が出ているにも関わらず走り回ったりしている事もある。そのため、今では村中でエキ姉を見守る様な形になっている。
「そろそろ家に戻らないとまたおばさんに怒られちゃうよ」
流し目に視線を移すと、遠くにある村の集落から1人の女性が大きな声を出しているのが見える
「いっけない!もうそんな時間なんだ!」
家に向かって走り出したエキ姉を見送ろうとすると、急に立ち止まって振り返る。
「ツキカもご飯一緒にくる?」
いつも通りのお誘い。優しいエキ姉は必ずこう言って誘ってくれる。だけど………。
僕もまたいつも通り返事をする。
「僕なんかが一緒に行くわけには行かないよ」
「うちの家族は誰も気にしてないのにな…」
小さく呟いた声は僕には届かなかった。
「そっか、じゃぁまたねぇー!」
そう言って今度こそ颯爽と帰って行くのであった。
しばらく見送ってから僕も朝の準備を始める。
「僕も朝ごはん作ろうかな」
今日も1日が始まる。