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桜子さんのそんなに怖くないお話

オソロシ

作者: 秋の桜子

 あなたは今、家に向かっています。

 帰り道ですね。


 ひとりで今、歩いています。


 ああ。何時もより少し時間が遅いようですよ。遅い時間に、ひとり帰宅。オフィス街の駅のコンコースはそれなりの賑わいでしたが、家賃がお安いここいらは。


 少しばかりの賑わい。それでも、何時もの帰り道は周囲に飲食店も多い事から、全くのひとり歩きには……、なりにくい筈なのですが、再びウィルスが動き出した今、果たしてどの様な感じ。


 では。現代日本において、こういう場合、男女問わずに何が1番、不安を覚える要素でしょうか。


 夜遅い時間でしょうか。

 時間に沿った暗さでしょうか。

 それともひとり歩きでしょうか。


 どれも正解ですが、不正解やもしれません。

 では、何が1番の不安要素でしょうか。


 お人はそれぞれでございますが粗方は、ブルーライトを始終、手元に持っている時代なのです。暗ければ照られせるし、道に迷えば検索も出来る。


 誰かに連絡をして迎えに来て貰えることも容易い。


 では、その機器が全く使えない、例えばバッテリーが切れてしまい、残念ながら充電機器も忘れたという、間抜けな事をしでかした時とか。


 なんとかなるかと思いつつも、心中には『不安』がポッチリと、頭をもたげるやもしれませんね。



 あぁ。なんという事でしょうか。あなたの携帯機器は今。使用不能状態なのですね。イヤホンから流れる曲が、ブッと途切れたあと、チッ!という表情をされ、立ち止まると、黒い画面を幾度もスクロールなんかしたりして……。カバンの中をガサガサ弄ったりして。


 バッテリー切れをやらかし、こういう時の絶対アイテム、充電機器はこともあろうか。


 家のリビングのテーブルの上。


 朝、寝過ごしたあなたは、カバンに入れるのを忘れたのですね。しかも充電は出勤前に用意をしながらの、急速充電で中途半端。


 そして。今日一日ぐらい持つだろうと高を括っていたら、持たなかったのです。お昼休みに、なろうを読んだり、動画をチェックしたり、ラインに返信をしたり、ググったり……、それぞれをほんの少し摂生すべきでした。


 中途半端充電のバッテリーの体力なんざ、そんなもの。


 更にあなたを襲う悲劇。最短ルートであり、明るい歩道の帰り道が、途中にて通行止めの看板にまさかの遭遇。急遽、帰るためには別の道に変更しなくてはいけません。


 ため息が出てしまいますね。だいたい予測で知っている中で最も近道にて、帰ることにしたご様子。携帯機器の充電切れを呪うあなたです。そこは近道といえばそうですが、便利なコンビニも無い街灯もまばらな、薄汚い路地裏道路だからです。


 充電器を購入するために、最寄りのコンビニへと向かおうと、ちらりと考えましたね。だけどそこまで戻るのも面倒くさく、また、家に帰るだけなのにわざわざ購入するのもなんだか勿体なく思え……。


 ひとりで今、歩いています。


 別ルートの帰り道ですね。雑居ビルの裏手が続く様な路地道は、あなたにとってあまり心地の良い空間ではありません。排気ダクトからは脂っこい臭いと熱が、ゴウゴウ吐き出され、裏口に置かれたゴミ箱からは異臭が立ちのぼっていますから。 


 そしておまけにそのゴミ箱を、住まう町猫達がひっくり返して漁っている、なんて場所もあるのですから……。


 小走りで駆け出したいところなのですが生憎、灯りはまばらですから、行く先は薄らぼんやりしか見えません。なのでヒョイッと。裏口から出て来た人にぶつかる可能性も、無きにしもあらず。


 剣呑なお相手だと最低最悪なのです。なのであなたは、


 ひとりで今、歩いています。


 どこにおいても心に不安を抱く者に対し暗さは、誰しもに、『オソロシ』を誘き寄せる様ですよ。


 オソロシ。ワ。暗闇ニ、のうのうと住んでいます。

 一度、取り憑くと、腹がくちくなる迄、何をしようとも剥がれないそうです。オソロシの喰うものは、夢と希望と云う話なのですが、よくわかっていません。


 判っていることは、気に入っ、タ、獲物を見つけた、ラ。仲間、ヲ、呼び集め、ハジメル、ト、されています。


 呼ばれ、タ。


 仲間の『ゾクゾク』、が。あなたの背、ニ。

 仲間の『ブルブル』ト、共に、ハリツキマシタ。


 ゾクゾクと、ブルブル、ガ、あなたの背中を走り、下りマシタ。


 ソレら、ガ。協力をシ、テ。

『恐イ』が、産まれマ、ス。


 恐イ、ワ、あなたの感情が産まれ、ル、脳ミソ、に。


 ハイリコミマシタ。


 あなたはひとりで今、歩いています。


『乾き』ガ、口中に、パッットウマレマシタ。

『動悸』ガ、心臓ニ、キィットヤドリマシタ。

『悪寒』ガ、肌ニ、寒イボヲ出現サセマシタ。



 ゾクゾクと、ブルブル、ガ、再び背中を走り下り、マス。


 耳に。  


『アシオト』ガ、誕生シマシタ。


 コツ、コツ、コツ、コツ……。


 あなたは立ち止まりました。

 あなたは勇気を振り絞り、振り返りました。


 ニャオン。猫が残飯を咥え通り過ぎます。


『安堵』ガ、顔を出、シ、マシタ。


 ホッとして。早く帰ろう。と、思いました。 


 あなたはひとりで今、歩いています。


 前方は闇色。


 コツ、コツ、コツ、コツ……。


 アシオト、ワ、フタタ、ビ。仕事を始、メマス。


 背、ニ。ハリ憑いた、ゾクゾクとブルブル、モ、ソレに乗ジ、マシタ。


 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン


 動悸、ガ、アワテテ、ウゴキ ダ、シマシタ。


 たっ……、たったたったたっ!


 あなたはひとりで今、駆け出しました。


 怖い。ガ、脳ヲ支配、ヲ。シハジメ、タ、カラデス。


 コツコツ、コツコツコツコッ!


 アシオト、モ、速度、ヲ。アゲマシタ!


 あなたはなりふり構わず。


 ひとりで今、薄ら気味が悪イ、路地裏の道を駆け抜けました。


 走って走って……。






「あー。怖かった。ただいま」


 あなたはどうにか、家に辿り着きました。  


「あっつっ!お風呂に入る。沸いてるよね」


 あなたは今、お風呂場に向かいました。


 脱衣所で、はぁぁ……と。衣服を脱ぎます。


(怖かったな、帰り道)


 徒然と思い出しつつ、浴室へ。


 シャワーを浴び、シャンプーをします。

 目を閉じてシャワーで泡を流しました。


 あなたは今、カタ目、ヲ、ヒラキマシタ。


 目の前、ニ、ワ、鏡、ガ、アリマシタ。


「はっ、ひっ!ヒィッ、な、……」


 あなたは今、あなた、ノ、背後、ヲ……。


 ミヒライ、た、目デ、見テ、イ、マス。


 ソコ、ニ、ワ。


 グニャリ。 


 と。目らしい、ヒトツの アカイ マンマル、ヲ。

 ウレシソウ、ニ、歪メ、タ。


 オソロシ。


 終



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― 新着の感想 ―
[良い点] 語りかけるような文体、途中から不気味に入り交じるカタカナ、緩急自在な話の運び方。どれを取っても一級品というだけではなく、小説という媒体の利点を最大限に活かした作品だと感じました。特に、「あ…
[良い点] とにかく語り口が全てなんですよねぇ。 寺社を舞台に蝋燭一本たてた『百物語』の情景を連想させて頂きました。 [一言] 正直ラストが怖いわけではない。 著者様のヒタヒタ迫る口調のような文体が怖…
[良い点] ヒィッ! 今日は先にお風呂に入っておいてよかったです。そうでなかったら・・・! [一言] ちなみに今日、仕事へ行くのにスマホを家に忘れてたのがここにおります。
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