外伝1 活動家ロベス・ド・レヴェシオン
こんにちは 外伝を投稿いたします。
最初の人物はぽっとでの活動家の物語です
貴族中心の堕落した王政を貫いたゴルト国を革命へと民衆を導いた英雄ド・レヴェシオン。
ド・レヴェシオンは、曾祖父の代まで貴族であった。しかし、愛人に入れあげた曽祖父の代で没落、レヴェシオン家は貴族社会から姿を消した。
そののち、ド・レヴェシオンはその持って生まれた知性と教養で学を積み、学院でも優秀な成績を収めた。
しかしながら、彼は没落貴族という理由で決して報われたことはない。
貧相な馬車で城下町を進むド・レヴェシオンは、骨と皮だけになり朽ち果てている平民の兄弟の亡骸を痛ましい目で見た。
「ひどいものだ。ゴルト王国はここまで腐り果てるとは」
あのような無惨な光景は毎日のように見ている。
貴族どもが高価な蝋燭を使って夜中まで賭け事やお菓子を楽しむ中、平民の娘らはひとつのパンと一杯のミルクを得るに金持ちに体を…。そういう話も腐るほど聞いている。
「いくら、学問を積んでもこれでは…何も変えられないのか」
運命が変わったのは、ゴルト王家が「“聖なる乙女”を発見した」というニュースが来たことである。
国王夫妻が民衆に披露したその赤毛のちびは…首から下はきっちりと隠されるような服装だった。顔は異様に血色がよく見えた。化粧で隠されていたのだ。
ド・レヴェシオンとその赤毛は目が合った。緑色の…どこかギラついたそのちびは、それっきり自分と見ることはなかった。
後日、ド・レヴェシオンは王家に呼ばれ、王宮に住むことが許されたのである。
「“聖なる乙女”が出現してから、町も随分変わった」
飢えに苦しんだ平民はようやくパンとスープを腹いっぱい食べられるようになった。一日の食を得るためにうら若き乙女が貴族男に体を売ることもない。
「“聖なる乙女ソフィ”は、王家以上に民を愛し、特に貧しい地域に顔を出しては祈りを捧げていると聞く」
“初代聖なる乙女・ラ=シンセリーテ”の末裔は、先祖と同じく愛に満ちたお方だ。人々は口々にそう言った。
「あのお方がいるから、王家をもう一度信じることができるのさ」
その言葉をド・レヴェシオンはよく覚えている。
宮殿・祈りの塔にて。
「お初にお目にかかります。わたくしが、“聖なる乙女・ラ=シンセリーテ”の末裔ソフィと申します」
長い赤毛は全身を覆うかのようだった。
「私はド・レヴェシオン。貴女様が私に爵位を与えるように王家に進言なさったと…」
「ええ、“聖なる乙女”として、新しい風をもたらす活動家を宮殿に招くことはよいことだと判断いたしました」
その含みがある言い方に、ド・レヴェシオンはギョッとした。
「……」
ソフィは扇で側の兵士を退出させた。
「んで、本題に入るぜ」
一気に低い声になったソフィに、ド・レヴェシオンはさらにギョッとする。
「あ、おれの素性は王家とさっきまでこの部屋にいた近衛隊くらいしか知らない」
ソフィは用意されている横長の椅子に胡坐をかいた。
「…男でしたか、なるほど」
「王家に対してますます失望したんでねぇの? いいことさね」
ソフィは耳をほじった。
「お言葉ですが、私は王家に忠義を…」
「曾祖父ちゃんに妾をあてがって堕落させた王家に忠義ねぇ…」
ド・レヴェシオンはしかめっ面になった。
確かに曾祖父は妾に入れ込むまではとても優れた御方だったと聞く。王家のよろしくない過ちに勇猛果敢に物申したと…うん、まさか…?
「当時の王家は、お前さんのひい爺さんが邪魔だったんだろうな。だから、殺さずに始末する方向でいったのさ」
ソフィはそばに置いてある林檎を手に取った。それをド・レヴェシオンに投げつける。
「…私に何をお望みですか?」
「国を変えてくれ。革命でも何でもいい、とにかくでかく変えてくれ」
そんな、ちょっとそこの雑誌取ってなノリで。
「めったなことをいうもんじゃない」
ド・レヴェシオンは幼き子供にそう言った。
「時間がねぇんだ。あの馬鹿王太子、やらかしやがった」
「バズーレア嬢のことですか? 下町の娼婦から伯爵家愛人となり、王太子の公妾になったあの…」
「それだけでも許せねぇのに、ザフール王太子は王太子妃セレスティーヌを殺す気だ。ショワル・バズーレアを正妃にするためにな」
聞けば“聖なる乙女”は心を読む力があるという、この娘が自身の目的を察したこともある。嘘ではないのだろう。
「バズーレアは公妾という地位でおります。妾の経歴を持つ女性は正妃になしてはならない、王家の決まりでしょう」
「あの王太子がぬけぬけと法律を守るような真面目君に見えるのか?」
「……」
否定できないのが悲しいが、王太子の無能さと性欲に関する事柄への執着は天下一品なのは皆が知っていることだ。
「両陛下はなんだかんだで息子に甘い。なぁなぁでバズーレアを正妃にのし上げるだろう。そうなったら、セレスティーヌは…セレスはどうなる? 女性の罪人が暮らす塔か断頭台送りだ。あのクソ王太子ならそうするだろう」
「それならば、貴方様が進言なされば…したうえでのご発言ですな」
「“聖なる乙女”の言葉さえも聞かねぇ奴が、今更法律どうのって考えるわけがねぇのさ」
それにしても、“聖なる乙女”が実は男で、王太子は正妻を殺してまで愛人をのし上げたい。
「王家の闇は限りないな」
「昔はそこまでじゃなかったらしいがな…いや、それも王家側の資料を見たうえでの話。どれが本当かなんてわからねぇさ。おれだって、自分の出生がわからねぇんだ」
「“初代聖なる乙女・ラ=シンセリーテ”の末裔では?」
ありていな話ですが、伝説の“初代聖なる乙女ラ=シンセリーテ”も赤毛ですし。
「その末裔が娼館の隅っこに転がってるわきゃねぇだろ」
「それは…ますます深い」
「というわけで、頼むな」
“聖なる乙女”を名乗る女装姿の少年ソフィは至って正気であった。
わあわあ! と槍や作物を耕す道具を片手に王家の宮殿に殴り込む平民の姿を見届け、ド・レヴェシオンは肩をすくめる。
「まさか、本当に革命を起こすことになろうとは」
最初こそ、自分の家を没落させた王家への復讐だった。しかし、宮殿に入りその内情を知れば知るほど、ド・レヴェシオンの中で復讐よりも民を救わねばという使命感が生まれたのだ。あの赤毛の少年が己のすべてを隠してまで守ろうとしたあの王太子妃は、無事に近衛隊長を隣国まで逃げたという。
「君はこれからどうするんだ?」
ド・レヴェシオンは隣に立つ短い赤毛の少年を見た。
「セレスと約束した。あいつらのいるところに行くよ」
「馬くらいは貸してあげますよ」
「ド・レヴェシオンはどうすんのさ?」
「…暴徒と化した平民が王宮のあらゆるものを破壊しつくし、頭が冷えるまではおとなしくしていますよ。私の目的は独裁政治ではないのでね」
「断頭台で会いたくねぇからそうしてくれ」
赤毛の少年は王宮の末路をじっと見ていた。
「…子供には刺激が強いのでは?」
「革命を望んだのはおれだ。おれには何が起こるのか見る義務がある」
やがて聞こえる絶叫と、血の匂い。命乞いの悲鳴、親の名を叫ぶ女性の断末魔。
見えてくるのは、王侯貴族のためにさんざん苦しみぬかれた平民らが貴族に行う壮絶な復讐劇。
貴族の富のためだけに6歳から10年間“聖なる乙女”の姿を強いられた少年の目が赤かったのは気のせいではない。
ド・レヴェシオンは16歳の子供の頭にそっと手を乗せた。
「ゴルト王家最後の生き残りである年若き弟だけを隣国に逃がすように仕向けたのは、せめてもの情けかね?」
「病気のガキに罪はねぇ。少なくとも、病気にした兄はこれでおしまいだ。あとは地味に生きてりゃ殺されることはないだろうさ」
後に、病弱で危険性はないと判断されたゴルト国最後の生き残り、ザフールの幼き弟セリュー王子は無事に生き延びたのであった。
その後、王家は滅びた。民衆を導いたのはド・レヴェシオンという活動家であり、彼は自らを「王家に殺された“聖なる乙女”の騎士」を名乗ったという。
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