遊園地の秘密 ――透明怪獣現る――
俺は三週間に一回くらい、学生時代を懐かしんで、彼とご飯を食べたりする。俺は店員さんにしばらく注文を待ってもらった。コップの水を半分ぐらい飲んだとき、気配が現れた。
食堂に青みがかった黒いスーツの青年が現れたのだった。
少し懐かしいな。ネクタイは赤と白のストライプス。なんか新人サラリーマンっぽい感じだ。働いている。自分は腰かけの職業。向こうはきちんと席のある顔の人間である。
一方、自分はパーカーのついた薄いグレーの服。ゆったりとした緑のズボン。
未熟なまま、年を取ったら嫌だな。
同じ二十四歳の男性でどうしてこんなにも差が出るんだろう。そこに俺は年齢の抵抗を感じる。 向うはサラリーマン、片や俺はフリーター。
席なんてなくたって移動すればいい。
歩いてもいい部分全て自分のすごく大事な領域であるという風に思っている。見える景色、空気、その街の関係性、匂い、全部自分のものだと思えばいいはず。そうすりゃ、肌寒さなんて感じる暇がないほどくらいにホッカホカするのに。
俺は机からイスまでのあんなちょっとの世間に認められてると言うことができるスペースに淋しさを感じてしまうのだ。しかし、そんなこといつまでも気にしていたところで仕方がない。
俺はリーズナブルで適度に食べたいものを食べる。
『エビフライ定食』
付いている、エビは二本。
今は一本目を半分ちょいほど普通に食べ、そこからはみそ汁と一緒に食べたりする。そうすることによって、みそ汁がご飯がなんか豪華な食材が入った物のように感じるのだ。
エビの入ったみそ汁。
エビご飯。
そこに幸せの味を感じる。
そして、エビフライもある。
永遠のエビ天国へとなりうるのだ。
そうやってみそ汁をすすっていると急にひょいと出された。
「お前、こういうの好きじゃね?」
「ああ、遊園地か。いいね」
出されたのは遊園地の無料チケットだった。
俺の知らない友人たちと週末、行く気だったが急に別の予定が入ったらしい。
「仕事はどう」
たくあんをボリボリ。つい、エビのしっぽまで食べてしまう。挑戦的な日はエビのしっぽまで食べるが、無防備にエビのしっぽはかなり苦しい。尖った部分が無作法を叱るように突き刺さる。
フォローとしての緩和材として、継ぎ足しにタルタルソースをおはしで口へ付け運んだ。
なぜか涙の味がする。
「半田壮次郎。お前、仕事就けれそうな気もするのにな」
「まあ……うん」
しばらく、何か一つぐらい言ってもいいのに、言えることがない。それだけなのに、びっくりする。
「ぼちぼちやるよ」
「遊園地で誰か誘ってさ。パーッと遊んで来いよ」
「うん、そうだな」
学校時代の友人から遊園地の無料チケットをもらった。
もらったのが月曜日。
チケットの裏側に小さい文字で有効期限……
「ああ、やっぱり今度の日曜日までか」
チケットの期限が次の日曜日。この年にもなると、わりと働いている率が高い。まあ、しょうがないか…学校を卒業して二年も経ってくるとな…
一人、二人に連絡を取ってみたが、用事があるらしい。
そうだよな。行けそうかなと思える人だっていきなり日曜日までと言われたら、少し困りかねるはな。えーい、今日は火曜日……そうだ明日行こう。
フリーターのいいところは平日の人が少ないときに動けるところだ。行きたいところにたいてい行ける。混んで入れないということが滅多にない。人気のグルメだって、新しく出た雑誌だってさっと買いに行ける。
ただ、お金を使いすぎると困るので結果、それなりに出かけるという状態で収まっている。人間バランスを、その辺で保っているものだ。崩すと生活やらなんやら、大変になるから一応考えどころだ。
俺はメディアでも設備の評価が高いと評判のいい遊園地を以前から気になっていた。少し問題を言うとすればやたらとメンテナンスが多いことだろうか。週に一度平日のどこか一日が必ず休園日になる。それに重なると多いときには週二、三回休園日になっている。
でも、疑問もあった。いくらなんでも安すぎるのではないだろうか。ジェットコースター、観覧車の設定が細かい部分まで、考えられている。
乗ると異空間にいる気分になって楽しいと、いう盛り上がる噂も多い。なにせチケットは810円だ。これで遊具に乗り放題。こんなにてんこ盛りで採算がとれるんだろうか大丈夫かと少し心配になるレベルである。
事故もないし興味はやはりでる。それに、『必ず楽しませます』というキャッチコピーで人気だ。ユニークだ。
インターネットでちらっと見た情報だと、乗り物やアトラクションは小さいものまで含めると種類は全部で百五十あって、広さは大体東京ドーム十二個分で、ビルだと二十八個建てることができるようなことが書かれていたと思う。もしかしたらちょっと間違っているかもしれません。
(光の照明の使い方、小物やオブジェ、大きい変化から小さい変化まで実に見事に扱っている。上手く武器を扱っている。遊具など精巧に造られていて、まるで生き物のように動きそうである。実に見事な戦略である。絶対に遊園地へ行きたい。)と面白さを追求する系の雑誌に書かれていた。
ここまで言うとやはり褒め殺しに至りそうである。
しかし、興味は湧いてくるから、この雑誌の戦略もあながち間違いとも言いきれないのかもしれないという気もしてくる。期待感のない遊園地なんて入りたくもないって思ってしまう、からな。
でも、やはり暇なところがある。フリーターには学校も会社もない。申し訳ないが週一、二回少しまず働いて、なんとかいい方向へ行きそうな次の打つ手を考えている。一生、フリーターでいるというのもまた、難しいだろう。だが、会社の面接で「半田壮次郎君。つまり君は何を考えているんだか分からないんだ」と言われてしまうと、それは使うのに困るので、とりあえず見送られていると思えなくもない。
そうなると、「あっ、分かりました」と伝えるしかないと、後でぼやく、通例へとなってしまった。
だから今はトラックに荷物を運ぶという仕事をしている。運輸会社がバイト先だ。
それは短距離走のようなものだ。
短距離走のいいところはなんといっても道のりと、ゴールが目に見えているところだ。マラソンのように情報としてではなく肉眼で見えるところに心地良さを覚えてしまう。なんと言われようと絶対に確実にトラックに荷物をおけば勝利である。
パッと見、簡単じゃないかと思えるものこそ、実は奥が深いところがあるのである。荷物を持つ身のこなしなんて、社交ダンスみたいなさらっとした動きが必要だし、荷物の置き方だってパズルゲームのテ○リスのようなセンスもいると思う。だから、もっと快適な仕事現場になるようにしていってもいいぐらいだろう。
手作りでカバンを縫うような手先の器用さのセンス的な部分が必要かもしれない仕事である。そして、俺はそこそこぐらいしかできない。
少しじれったいんだが、難しさがあるんですよ、これが。と、すると簡単であったらお金をくれない意味でも実はあるのだろうか?
俺は一人で次の日、遊園地へと訪れた。そして、入り口近くへと辿り着いた。
看板に遊園地と書かれているから、遊園地だ。これが、動物園と書かれていたら、動物園となる。
さて、招き猫の肉球のカーブのようなアーチをくぐると敷地内だ。パンダが風船を配っている。思ったより長く感じる人生で培ってきた勘。軽やかに一所懸命に動いて、実感『人間』だ。普通より幸せなことにビシッと決まっている接客で俺はなんか楽しくなってきた。今日はよく分からないけど、楽しく過ごすにはいい、日だ。
『カラン』気が付くと、コップの中で動く、氷の音が聞こえていた。子供の頃、なぜか分からないけど親がふんぱつして飲ませてくれた『メロンクリームソーダ』を思い出す。よし、観覧車に乗ろう。
『雲の観覧車』と呼ばれる。周りの球体の外装に青い空と雲が描かれている。中は真っ白。太陽の光が入ってくると、アレ?ここは雲の中かもしかしてと、思えて楽しい。小さい工夫なのだが、そのちょっとした気遣いが客の心を喜ばせるのかもしれないと思った。乗っているとのびやかな気分になってくる。
ここは海の見える凸出した海岸沿いの都心からやや離れた街にある。遠くにはなんか山が見える。富士山?それは俺には分からない。
それから、少し開かれた窓から風が心地よく入ってきている。座席の下にエアコンがあるからか、ズボンのすその方に当たって足が涼しい。これから何に乗ろうかと、ゆっくりと考えていく。
さて、観覧車から降りて、すぐに乗れそうなものないかなと、そわそわと探す。気持ちが上がっているうちに次に乗りたい。
年齢制限がなかったので子供っぽい飛行機に乗ってみる。
ここでも、なにかこだわりを感じる。
操縦席のレバーやハンドルは飾りなのだが、表面に塗る塗料の輪郭へとつながっていく付け方が陰影がしっかりと決まっていて、塗料も飛行機についての知識があるかのように意図を持って塗れている。これは子供なら喜ぶし、それに大人も楽しむことが、できるだろう。子供の頃に乗れたら絶対飛行機が好きになるなと思った。先程見えた山が今度は横に通り過ぎる。少し恥ずかしい気持ちもあるけど、なんか懐しい心になる。
たまには、こういうことがあったっていいのかもなって思った。
そして、さらに遊園地で遊ぶ。
プラネタリウムジャンプ館が面白かった。宇宙でのロケット内の設定で、最初は普通のプラネタリウムで落ち着いていてそれはそれとして綺麗だったけど、途中からミッションチャレンジで、有名な星座の一等星(基本としては一番キラキラと輝く星)をタッチしてみるという類のものだ。十数人のお客さんがワイヤーで次々と空を飛び星をタッチする。タッチをするとパ―ッと赤く光る。多分、本当はそういう風に光るということはないんだろうけど、ちょっと満足した気分になれる。自分の番のときはできるかなと中々ワクワクとした。
次のも宇宙ものがいい。これにしよう。
ユーフォ―ウオール(UFO 壁)。ユーフォ―が無数に出てきて、ロケットの搭乗員(客)の邪魔をして行き先を阻むといったアトラクションだ。
しかし、肝心の場所が分からず辿り着けない。なにせ東京ドーム十二個分。ビル、二十八個建つそうだから、広いし、迷ってしまうのだろう。アレ、右に曲がるところを左に曲がってしまったんだろうか。似たようなところもちょっとあるからな。そこで同じ場所を行ったり来たりしていると、声をかけられた。
「お客様どこかお探しですか」
それは掃除をしていたスタッフだった。
白いシャツに蝶ネクタイ、サスペンダーのズボン。そしてカジュアルなチェックのハンチング帽を被った男性。年齢は三十代半ばくらいだろうか。仕事ができそうである。スタイリッシュな箒を持ち、黒目のハイライトがやたらと目立つ印象だ。表情も愛想がいいと言える。
しかし、なぜだろう。彼の顔を見ていると不思議と喉が渇く感じがする。
それは、自分一人だけで遊園地へと来ているからかもしれない。ただ、慣れてないだけだろうか。ほんの少しだけ、気持ちに影がでる。
でも、道の教え方は本当に上手だ。なんだ、一本筋を外に来ていたのか。うっかりとしていた。俺は清掃の係員に礼を言って、そのまま別れた。
ユーフォ―ウオールも中々楽しめた。次はちょっと趣向を変えたものにしてみよう。遊園地には色んな館がある、ゲームセンターの機械三台分くらいの小さなものから、まあ、そのぐらいのものも入れないと、幾ら広い敷地でも百五十種類はちと厳しいだろう。差で言ってみると、結婚式場のお城ぐらい大きいものまであって色々である。
『ミラー館』に行くことにする。
少し、昔の遊園地には割とあったという。鏡が道の両脇に設置され、突き当たりにも付けられている。
また、鏡の質によって、通る人間が大きかったり小さかったり、はたまた細かったり太かったりする。鏡の映りによっては永遠のように自分が増えて見えたりもする。鏡は身近な物とは言え、これ程の大がかりな物はやはりこういう施設でしか味わえないしろものだ。それでは入って行ってみよう。おお、細い。もし、こんなゴボウのような人がいたら骨はどこにあって、腸とかどういう風になっているんだろ。脳みそは長くて細く、心臓は。無理か…こんなに元気な訳がない。根拠がない想像程度の、分でしか捉えたりすることができたりしない、人間か。次は太い。目の大きさや身体のバランスとか重力はどうなんだろう。次は太い。目の大きさとかどうなんだろう。そして合わせ鏡。同じポーズの自分がずっと向こうまで見える。視力の限界でよく分からなくなるまで、ずっと存在をする。
サッ。
そのときなにかが視界に映った気がした。あれは爬虫類のようなワニのような顔をした二足歩行の動物だったと思う。どうしてあんなものが見えたのだろう。
ウッ。それはまばたきの間に目の前にいた。やっぱり、ワニ。二本足で立ったワニ。そいつは俺の顔を見てなんだか笑いかけてきたような気がした。驚いて、俺は手を前に差し出しながら後ろへと下がった。目を歯をくいしばるぐらいにつむって、そのうちおそるおそる前を見るともうそこにはいなかった。周りも捜したが既にいない状態となっていた。そりゃあ実際、本来人間以外の生物は笑ったりはしないのだが、それを超えた何かみたいな気がしてならずたまらなかったのだった。
俺はどうも嫌な予感がした。
『その頃、俺の知らないところで謎の一人の黒服の男が先程ユーフォ―ウォールの道を教えてくれた清掃をしている係員の前を通常ありえないような雰囲気を出して通り過ぎた。二人の関係のつながりが冷静に考えても分からない。それでも、人が見たら怪しいと思っただろう』
清掃している男は普段の感情がフワッと消えてしまう。
『どうも、なにか意味があるんじゃないかなと思える表情。知っていることがあるんじゃないかな。やばい気がする。なにかが始まろうとしているのではないだろうか』
これは前兆だろうか。
戻って、ミラーのあの、館。もちろん俺にはワニに見えるようなそんな知り合いはいない。多分、きっと……あれは遊園地のキャラクターだろうか。あんな、人の心をかき乱すようなデザイン…悪趣味ではないのか。いや、そう見えて、前向きな解釈で作っているのだろうか。
俺は一まず外へと出た。俺はなにを見たのかつまりはよく分からない。ああ、なんかじんわりと汗が出てきた。調子が少し悪いのか。
太陽が急に厳しい日射しをなげかける。いや、そうでもない。室内にしばらくいたからか。とにかく俺はフラフラとあてもなく遊園地を歩いていた。歩いていれば冷静になる。
『そして、さっきの黒服男。彼はそのまま関係者以外立ち入り禁止の扉前へと進み行く。その瞬間。中から出てきたまた別の係員がそれを見つけた。それでどうなるのか一言、話せば。大きくややこしい意味の中へ入って行くということだけ心に留めればよく意味が分かるはずだろうって思う』
俺はなんとか気持ちをやわらげようとまだ、歩いていた。落ち着くはずだ、多分、そのうちそういった状態になる。ともかくそう思うことにした。
すると、怒鳴り声が聞こえてきた。なんだなんだ。
「もう、くんなって言ってんだろ。こっちは。迷惑なんだよ。お前は」
「それは申し訳ないが…」
「だから来るなって言っただろ。時間を考えろよ。お前が来ると仕事がやりづらいって言ったのが分からないのか、ほんとに」
ちらりと上を見るとスタッフ専用通路。ああ、なるほど……職員どうしの喧嘩が起きてしまっている。
「仕方がないだろ。……がやって来るんだから」
「はあー、なにが来るんだよ。お前が来といてさ。お前、俺たちの仕事ナメてんのか。ええっ?」
黒服の男は係員の剣幕にたじろいで、なんとか怒りを抑えようとしている。うーん。まあ、多分仕事上の話なら絶対に危険なものとは限らない。事情が分からない分少し怖いが、すぐに収まってしまうかもしれない。
しかし、ちょっと様子を見て誰か他のスタッフを呼んだ方がケガとかあまりなくていいだろうか。少し悩んで会話を聞いていると、考えるにも及びもしないおかしな話を聞いたのだった。
「ナメてないよ。急を要するのでリラックスして……」
「なにがリラックスだ。ああん、なんだよ……」
黒服が係員の耳元で囁いた。すると係員はうっと息をのんで、目を見開いた。
「本当なのか…」
「ああ、間違いない。これは初めてだ。どうすればいいんだ。怪獣が今日やってくるなんて」
黒服男は目を丸くさせ口の中がパサつく感じでさらにもう一度言った。
「怪獣が今日やってくる。変なことに、いつもより早いんだ」
怪獣…聞き間違いだろうか。今、あの男は怪獣と言った。あの、恐ろしい記録。どんな人でも脳裏に浮かべようとすると、頭が痛くなる歴史的、記録。
ゴゴゴゴゴ。太古の音が聞こえる。見つからなかった恐竜。日の目を見ることなくずっと地中奥深く潜んでいた恐竜。
それが第二次世界大戦の爆撃の衝撃で地底から初めて地の上へと飛び出したのであった。そこに横たわっていたのが、群衆の無残な死骸だった。御馳走に思えた。未発見の恐竜にとっては市民の死骸は食べ物ぐらいにしか思えなかった。ただ、感覚だけで食べた。いや、正確には血を吸っていたのだ。
吸血恐竜である。戦争で死んだ人たち。究極に不幸な人間たちの血を吸ったのだ。たとえ、違う生物でもその影響を受けないで済んでしまうとは限らない。
それから二十数年後。今から約五十年前。大戦から完全に復興したとされた時代。
そいつは過去の血が身体中に回りきったというタイミングで現れた。
『黒い血』これまで誰も気付かなかった生物が苦しみの地獄の血をこれでもかという程、吸うに吸って出てきたのだろうと著名な知識人は言った。苦しみの血は恐竜の中で黒い血として育っていっていたのだ。初めに発見されたときは大トカゲと言われた。それがしだいに怪獣と呼ばれるようになり、それから、また進化で徐々に様々な生物や物体に擬態するようになっていった。
では、地中のみで生活をしていた頃、恐竜はどういう風であったかというと、地底の虫を食料としていた。とかげや蛇よりも頑丈で強力な肉体を持ち鋼のような皮膚をこの時点でも既に今に準ずる程度で持っていたと言われている。我々人間が考えもつかないほどの強力な力を蓄えていたに違いない。
怒った目をしていた。怪獣は俺が生まれる前に滅んでしまっていたので、直接は見たことがない。でも、学校で見る資料の映像や写真で見る怪獣の目は皆、すごく怒っていた。なんだろう、自分から食料として恐竜の姿を取っていた頃に食したのに、
(こんな、不愉快なものを吸わされて、腹がたつ。許せない)と怒っているように見えた。その復讐として、街を破壊するようになった。まるで、死んだ人たちの魂がのりうつったようだと俺は思った。
大体一週間に一体というペースが不思議と守られた。なぜかというと、怪獣にも個性があって、中にある血が微妙に違っているから、一体が暴れるとその地域一帯は他の怪獣がめったに現われない。つまり、怪獣にも仁義というものがあるのかもしれなかった。
これは俺の推測だが地底は、地上より生きる環境に過酷さがあるのではないだろうか。だから、ヤツらは人間の気付かぬ間に恐るべき知能の発達を遂げたような気がしてならない。言葉は発したりしないが、怒りの感情というものを持っているのだったら仁義を持っていてもまあ、おかしくはないのかもしれないとまた、俺は一つの推測をした。まさかそれがこんなところで怪獣という言葉を聞くことになってしまうとは……
「やつが現れるのは明日のはずだ。誘導班がミスったのか?」
「やつは急にスピードをあげた…なにか標的がいるかのように」
「標的?やつはうちの(遊園地の)電波塔の電波を感じて呼び寄せられているはずだ。怪獣の持つ精密な脳みそによってな」
「だが、違うんだ……」
「なにが……?」
「そんなあいまいなものとかじゃなくて、なにか特定のものでもあるように……」
心臓が早鐘のように高鳴る。なにか視界の前についていた鏡が割れるかのように、当たり前だと思っていたことが弾け飛ぶ。嘘だ。怪獣は滅んだはずなんだ。これは、なんだ……
でも、こちらの方が真実に近い気がしてならない。
園内に放送が流れる。
「ただ今、遊園地内で電機設備の故障が起こりました。このまま使用していると事故発生の危険があるため、念のため、本日は当遊園地を全施設、閉園とさせて頂きます。お楽しみのところを、大変申し訳御座いません。チケット代は全額返却致します。どうぞ入り口でお詫びの粗品をお配りしておりますので、お持ち帰り下さい。本日は誠に申し訳御座いませんでした」
この会話の矢先にこんな放送が流れるとは……怪獣がいるなんて、恐ろしい。
でも、知りたいんだ。こんな半端な情報じゃ、心が休まらない。知りたい。俺はやっぱり真実を見届けたい。偽りではなく本当の事実を。そこでやっと俺は元の生活へと戻れるのではないか。仕事だって、就職活動に気が回らなくなる。それはキビしい。
だが、見つけた。知りたかったことを……俺は怪獣の絶滅したという話になにか違和感を感じていたんだ。そう、昔から。おかしいなって……なぜなら、怪獣が滅ぶ前、怪獣は擬態化を覚えていた。台所のキッチンに化けたり、電話ボックスに化けたり、サッカーのスパイクシューズに化けたりしていたこともあった。ふと生活に潜り込み人がハッと気付いた瞬間に筋肉の収縮を解き巨大化をする。動物にも化けていた。犬や猫。亀になったり。
政府は当時先端の科学技術で怪獣に挑みそのつど勝利をしていた。そして、戦いを始めて約二十年経ったとき、政府は人体には無害で怪獣にだけ効く毒を開発して撒いたので、もう絶対に現れませんと終息宣言をはっきりとした。そこまで言い切ったので、「ああもう、完全に絶対大丈夫なんだ」と、人々は安心の声を洩らし、ホッと笑顔を取り戻したのだった。
当時を振り返るニュース映像で人々はものすごく政府の手際を褒めちぎっていた。
「素晴らしい。最高だ。完璧とはこういうことのためにあると言ってもいい。優秀で誇りに思う」と。
これでもって、見事怪獣を滅ぼしきったのである。それが、まだ存在しているとは。このままだと、心が落ち着かない。これじゃあ、就職どころか、バイトだってできなくなってしまうかもしれない。
俺は夢中になっていた。答えの書いた透き通る紙が目の前に現れたようだった。もう少し、後少し、後ちょっとでつかめるんだ。あの違和感の気持ち悪さを感じることは二度とない。最高だ。
バリバリッ。その時、目の端に青白い光を感じた気がした。視界に暗闇が広がっていく。俺は痺れによろついていた。でも、なんとか相手を見据えようと振り返る。原因となったものはなんだ?目がぼやけて見るのが難しい。何者かの手元と腕。なにか持っている。あっ…手にはスタンガン……誰なんだお前は?そのまま意識がとんでしまう。
目を覚ました。ここはどこだろう……俺は何かを知った。めちゃくちゃに。そして後ろから急にスタンガンで襲われた。
どうやら、遊園地の事務室らしい場所だった。スタンガンで襲ったのは先程道を教えてくれて掃除をしていた園内のあの男だった。服もグレーのスーツに白い光沢のあるネクタイへと変わっている。
のどが渇く、彼を見ているとひどく緊張するのだ。手から、首筋から汗が逃げ出すかのように溢れ出す。彼の眉毛がまた重苦しい。あれは鉄でできた定規を取り付けて設置しているのではないか。こちらに少しでも微妙なところがあれば、その眉を使ってピシピシと手を叩くに違いない。
しかも、この場合スタンガンまで使ってここまで運んできた。犯罪の領域だ。これは殺る気かもしれない。なんかよく分からないけど気絶させてこういうところへ連れていくというやり口を持っている。なにか慣れている気もする。
そんな訳はないと思うが、これまで人を何十人か殺してきたのではないかと不安になってしまいそうなところがある。これはやばい。
「起きたんですか」
彼の声のキバが円錐型の先の丸まった石の槍で頬をぐじぐしせめぐような気分になる。蟻をゴマのようにすりつぶすんじゃないのか、彼の声は……
「あなたは……」
揺らめくような姿が見える、まだ意識がきちんと定まっていないのかもしれない。逃げたいが、上手く足に気持ちを落ち着けて、力を入れられない。さっき乗り物の場所をサラッと丁寧に教えてくれた係員とは全然思えない。
「すまない」
意外な言葉だと俺は思った。もっと嫌なことを言うんではないかと思っていたからだ。それでも俺は緊張感を持って、彼を見つめていた。
「本当はこういうことをしないでもいいように務めれるはずだった。あまりに、これまでにない状況になったのでな。一般の民と言える君をこんなやり方で押さえてしまうことになってしまった。それについてはすまないと思っている」
そこで、一度しゃべるのを止めた。
「邪魔をされたくなかった」
男はこちらをジロリと見つめ、緊張感を高めてそう言った。
「ただこちらも邪魔をされたくなかったということだけは分かってほしい。君は怪獣という話を聞いたのだろう。そうだやつは滅んでなどいない。まだ生息している。海底にひそんでいる」
一瞬、男は呼吸を止めて目を見開いた。
「おっと、これも忘れてくれ。とにかく、地球を守るために仕方がなかったと理解してくれ」
「地球?」
あまりにも規模が大きいので、思わず聞き返す。
「日本が壊されればそうなる」
その男は口を急に一文字にして俺の視線を通り越して渋い顔となり正面を睨んだ。
「あなたは一体どういう存在なんですか?」
「日本政府の役人……それ以上は言えない。今日聞いたことは忘れろ。迷惑だ」
俺はまさかの正体にポカンとした。
「とにかく絶対に忘れろ。非常事態だ。市民の集団パニックを防ぐために。でないと、君は嘘つきなバカな青年と世間からバッシングを受けることになるかもしれないよ。もちろん我々はその時沈黙だ。嫌だろ?」
さっきまで愛嬌を持って、掃除をしていたのにこれじゃ、全く別人である。
多分、あの掃除は園内の様子をこっちの仕事として確認するためのものだったのだろう。俺は推測をした。百万円を見せられた。
「これで、今日聞いたことは全て忘れるということで」
遊園地の職員がグルになって悪ふざけをしている。もしかしたらとも考えたが、どうも引っかかる。ありえない。おかしい気がする。やはり怪獣という言葉を思い出す。
そうだ、これは普通ではない。
「警察に言いたければどうぞご勝手に。他の人に言い回るのだけはこちらの迷惑になるのでやめて頂きたい。それでも言っても構わないけど大嘘つき扱いされる君を見るとやや辛さがあるからな…まあ、少なくとも数日はね…」
百万円は辞退した。こういったややこしいものをもらったら身の破滅を起こすかもしれない。
「いらないの。…そっ」
あっさりとしている。こういうところは役人っぽいのかな。と、なんとなく思ったりもする。もらったら毎日、不安で苦しくなるだろう。警察はなにか閃くまで少し考えてもいい。
帰ってもいいと出される。
ハァーッとため息をつきながら駅にたどり着く。バスを待つ。電車でも帰れるけど、時間がちょっと早いだけで、バスの方がだいぶ値段が安いのである。Time is money .なんて言うけどただ、立つか座っているだけなので下手に働くよりマネーだと思う。ってか、緊急閉鎖された後なので、客は自分一人だけである。
そういえば、さっきあの役人にワニのような存在のやつを見かけたことを話すのを忘れていた。あれは結局どういうものだったのだろう。気絶させられてひどい目にあったらどうしようとういうことばかり考えていて、アレを言うのを忘れていた。まあ、向こうは怪獣を倒すプロフェッショナルだからいたらいたで処理するかもしれない。あのぐらいのサイズだったんだし。大丈夫な気がする。
あの役人怖いしな。それに、もしかしたらただの着ぐるみかもしれないし。ほんとにその可能性もある。せっかく帰っていいって穏やかに戻してくれたのに、また行ったらガチで消そうと心変わりしないとも限らない。ずっと座ってればいいのである。景色が動き出す。なんか散髪屋の前の回転灯を見ている気分だ。
ストーン。頭の中に小銭が入っていってジャラジャラジャラジャラ音がする感じがする。内部運動が激しいということか。つまり、心がざわつく。打ち出の小づちで頭の中に小銭を湧かせたようである。百円、十円、五十円、あっ、一円玉もある。そんなバカな。
「なんだったんだ…」思わず独り言をもらす。後ろの方に乗ったので、運転手も気付くこともないだろう。
それをいいことに、俺は小声でぶつぶつぶつぶつ「おかしい…おかしい…ありえないでしょ。なんであんなことになんの。クソッ、嫌なやつ。役人。ボケッ…」と言ったらちょっと目から涙が出た。
でも、こうして今日ぼやいたこともあまり思い出さないようにして、やがて記憶が薄れていくのだろうか。さよならである。くやしいけど起きている状況は難しさがあって、相手は怪獣だ。自分がどうにかできるものではない。なにも分からず忘れていくのである。つまらない。でも、それを理解するのが大人の務めになるのかもしれない。
「ブッフッ。嫌だな…」とつぶやいた瞬間、運命の女神様がマジの信念を采配してしまったのかもしれない。バスが急に止まった。不自然な形で。ズラズラズラズラッと黒服の男たちが何人も入ってきた。
「ちょっと、なんなんだ」運転手が困惑の声をもらす。俺は目を点にして、どうなるのかを呆然と眺めていた。すると、一番最後に悠悠とあのさっき、スタンガンを使った男が現れた。俺は緊張しながら、こぶしを握りしめた。運転手は業務上不安ながらも、きぜんとして「なにか用でもありますか」と聞いた。
すると、役人は書類や身分を証明するカードを運転手の前に提示をした。
「日本政府の役人…」運転手は想定外の正体にしばらく汗を流しながら怪しいところがないか探していたがそれもなく、呆然としていた。
すると、役人はこっちへ向かってきた。
やっぱり始末をしにきたのか。俺はとっさに身体をガードするポーズをとった。
「やはり、このバスに乗っていましたか」
役人は少しホッとした様子を見せた。
ムッ、これは殺しにきたという感じはあまりしないな。まだ、油断はならないが。
「あなたの財布から身分証の住所を控えておいたのでね」
「えっ…?」ドキッとしたが、この組織なら、このぐらいのことぐらい、やってしまうと思う部分もあった。だとすると普通にこれは、越権行為であった。
「えっ、どういうことですか?」
「最初は突然のことで意味が分からなかった。怪獣は誘導装置によって、いつも同じ時間、同じルートで現れていた。しかし、今回はイレギュラーづくしだ。こちらも上手く対応ができかねた」
「だから、どういうことです一体?」
「怪獣は君の帰る方向通りに進行していきました」そう言うなり、役人はしばらく一人で頭の中で考えこんだが俺に頼んできた。
「作戦上、君が必要なんだ。お願いできないか」役人はコホンと一つ咳をして、今、あったことの説明を始めた。
「君が帰った後、駅が怪獣に襲撃された。だから、今はあそこには駅もバスのロータリーもない」
「えっ、なんで」
「怪獣に壊されたからだ」
「じゃあ、もっと騒ぎになっているんじゃ」
「それは問題ない」
「なぜ?」
「怪獣はいるとされていないからだ。いないとされているものを騒ぐ手はない。簡単なんだよ、実際。嘘で、偽り尽くしたらいい。『怪獣は昔、全て倒した』『現在は全く、存在していない』だから、怪獣は透明で見えないから、問題は起きない。そうなっているんだ」
役人はギラギラした目になって、言い放った。
どうだろうな。優秀だけど、ヤバいレベルに入りきっている。大丈夫か?何と言っても将来が心配だ。
「怪獣が擬態できるのは知っているな」
「はい、怪獣が皮膚の色を変化させて、キッチンに化けたという」
「そうだ、やつらは絶滅したと言われる頃に透明になるやり方を身につけていた。しかし、透明というのは政府としては処理しづらい。おまけに怪獣だし。だから、政府は怪獣を滅んだということにしようということになった。嘘みたいな話だがほんとだ。駅周辺の破壊も地盤沈下ということで嘘みたいに処理をさせて頂かせてもらった」
「怪獣は?」
俺はやっぱり、現在の怪獣の行動範囲が気になってしまっている。どうなって、いたりするのか?
「電気のエレキテルフェンスを設けて、牽制の爆撃を一発くらわせて、元の海へと追い返した。しかし、それも一時的なことだ。このことでうっくつしたエネルギーをためこんでまた、夜には襲撃をしてくるだろう。つまり、君は怪獣を引きつける声質をもっていることになるのかな」
役人は思案して、質問してきた。
「遊園地にきたのは初めてか?恐らく、怪獣が見つけてしまったのだろう」
「…あの怪獣ってワニの姿をとったりとかします?」
「ワニ?う―ん、血の系統によって姿はそれぞれ違うが、まさか会ったのか?」
「はい、ミラー館に行ったとき。そのときは姿は見えていました」
役人は黙りこんだ。顔をしかめ、まずいといった雰囲気で焦り、悩んでいる。
「そんな動きをするとは……いつも監視はしっかりと行っているのだが…海底には巨大化する前のものがいっぱいいて、しかしこちらから意図的に攻撃をしなければ一体ずつしか大きくならないと、昔からの研究で証明されていた。だから、刺激をあたえすぎないように一定の距離をたもって、様子を見るようにしていた。まさか、人サイズぐらいのときに遊園地に入ってきているとは…」
役人は額のしわを深くして、衝撃を受けているような顔になっていた。
「人サイズのときの方が擬態の力が細かく使うことができると昔の研究にも書かれている。なら、気付かれずに遊園地に入っていてもおかしくはない。そうか、君の声が気になって、すでに会いに行ったというわけか」
「えっ、俺の声って、そんなに変なの?今まで目立って言われたこともないけど」
「いや、少し違うな。君は割と普通だ。まあ、特徴はあるがな。それより怪獣の方がすごい部分があると思うな。こっちが困ってしまうぐらい、ほんとにありえないくらい耳がいいしね。怪獣はバスに乗っている君の声を感知した。つまり、君は怪獣と脳みそがどこかしら似ている箇所があると思う。君は怪獣と似た特徴を持つ」
「嫌ですよ、そんな…」
俺は焦った。気分が悪い。駅、周辺を大破壊してしまった。怪獣と似ているなんて…
「君は怪獣とは違う、完全に。それでも、似ているところがあるってだけだ」役人は少し同情をして言った。
俺だって、そんなことは、分かっている。少し不安になった、だけであって…
役人は気にせず、会話を続けることにした。なぜなら、いつまでも同じことを話しても仕方がないというのが、絶対あるからだ。
冷たいのだろうけど、こういう時の対処が役人っぽさを思わせる部分で、あったりするというのがある。
「感知をすることになったのは先程見たところ後ろの席に一人でいた訳だから、きっと、歌でも唄っていたんだろう?」
まさかの状況である。まさか、こんなことを聞かれることになってしまうとは。ありえない、お役人の文句をぼやいていたんですよ、とは言えまい。
「多分、そうです。そんな気がします」
「そんな気?」
役人はなんか納得していなかったが、時間があまりないので、とっとと会話を他へと移した。
「とにかく、地底と死者の血を吸いに行くために地上へ上っていくときの生態の急な進歩のときに危険を避けるために、耳が超進化を遂げてしまった。だから、結果的にたまたま怪獣を引きつける声が君というだけで、実際は怪獣のキャッチ力が強いことが正解であるとも、言えるだろう。人の血を吸った生き物でもあるしな」
役人は少し沈黙した。顔には汗が出ている。
「とにかく助けてくれ。君が街に帰ると怪獣が街を襲うんだ」
「そんな、なにも分からないし…」
「来てくれるだけでいいから。頼むよ」
「あの、俺、分からないことがあるんですけど」
「なんだい…」
「なんで、怪獣の対処を遊園地で行ってるんですか?」
俺は腑に落ちない部分を突いた。
「気になるか?」
お互いしばし黙った。
「秘密防衛軍をやっているんだ。遊園地の施設を使ってね」
「遊園地で?」
「そうさ、政府で認可しているんだ。言うなれば、日本政府お抱えの秘密組織『秘密防衛軍』」
まさか、秘密防衛軍だったとは……しかし、別の謎ができた気がした。
遊園地には黒塗りのちょっと高いんじゃないかという感じの車で戻って来た。途中ビニールで中が見えないようにした場所と交通の誘導員の人がいたから、ここが破壊された場所だと思う。
しんどいことである。しかし、やらないと地球の平和を守れない。困ったことになった。遊園地の土地で怪獣を迎えうつなんて。全く、昔の闘技場。コロッシアムみたいなもんだ。
「どうやって倒すんです」
「倒すとか言うのやめてもらいたいな。我々はそんな好戦的な団体じゃないんだ。アレだよ。回避的行為だよ。やたらとそういうこと言うのは避けて欲しいな。本当に回避的行為なんだから」
俺はその役人の紳士たる言葉に感心したが後でがっかりした。
「で、倒す方法だがね…」
結局、倒すという状態になるんだなと俺はしかめ面になった。
他に程いい物言いがないにしても、もうちょっといい例え方ができるんじゃないの。難しいんだろうけどそうじゃないと意味がない。と、俺は心の中で突っ込んだ。
やけくそ気分でさあて、ショーの開幕だ。こんなの本当はどうにかなるようなことでもないが、そこは気持ちでどうにかしていく。
役人が腕を上げ、遊園地のスタッフに(多分、この人も秘密防衛軍の人間だと思う)手で合図を出しながら「はじめー」と張りのある声を出した。
急に多くの建物や、アトラクションの設備などが、動く歩道みたいなもので、建物がまるでコンベヤーに乗せられた荷物のごとく移動して、遊園地に広大な敷地が作られた。役人は空間に新しい敷地が作られたことを確認して、
「よーし、次はロボットはじめっ」
「えっ、ロボット?」
俺は次々とまき起こる出来事に驚いて、声を出したが、役人は忙しいので反応しなかった。
さっき移動した建物に、ところどころ移動をしないのがあった。
ジェットコースターのレーンからなる土台、観覧車も土台から、まるで、裏にビー玉より小さい玉がついていて、腹ばいで動くように、ちょっとずつ場所を移動する。
そこに船着き場の水路から遊覧船が下へタイヤを出し、降り口から地面へと上がってくる。
ジェットコースターが線路とひっつき変形し、腕になった。線路の辺りが細かく変形して、指となっていった。
観覧車は横の向きになって、ロボットの角度を変えることができる首になった。
頭はプラネタリウムジャンプ館。胴や胸はジェットコースターの台が二つ重なってできている。
またがってクルクル回って楽しさを感じる、クルクル回転ボールが首下からニュッとはえている。
ドラゴンの背中館から出ていたのはドラゴンではなく太ももから足首の下までの、しかっりした両足の土台。膝には鉄球ボムがついている。
足首から下は、さっき水路から地上に出た遊覧船だ。
子供っぽい飛行機の乗り物を左肩に固定設置した。
バランス帆船のまわし。土台を伸ばして相撲取りのまわしと同じく、装着をした。
そして、最後に仕上げでロボットの顔に、目と鼻と口が電卓や時計の画面の数字文字の雰囲気で出た。
「AI機能で戦士としての顔が出る」
役人は少し余裕ができたのか、俺に説明をしてくれた。
「広い敷地とロボットができた」
「そして、怪獣がやってくる訳だ」
役人は急に緊張感を高めて、真面目な顔で言った。
これは、やってくる時間が近づいているからだろうか。
俺は別の疑問を言ってみた。
「怪獣がのっても陥没しないんですか」
「頑丈な金属が敷いてあるから大丈夫だ。じゃあ闘い方を教えるからな」
「へっ?」
「へっ、じゃないよ。怪獣はどちらかと言うと君の方へ行くからな。一緒にロボットのコクピットへ乗らないと」
「えーっ、いや、怖いじゃないですか」
「皆怖いんだよ、失敗したら、皆死ぬからな」
「いーっ。クソだ」
「クソだよ。国民の税金でコレやってんだから。負けたら最悪だよ。だから、教えるって言ってんでしょ」
「はい、分かりました」
クリスタル館の透明なアーチ。足の部分の地中に埋まっている部分に機械が付いている。ロボットの背中に適した四角い穴が開く。まるで車にガソリンを入れるような感じでアーチを管のようにして機械類がワイヤーを通して、
「さあ、こっちに乗って下さい」エレベーターとして上げていく。
「未来だ…」
まさかこんな形でロボットに乗り込むとは思わなかった。俺はこの技術力に感心をしてしまった。
エレベーターで、顔のコクピットまで行く。
「あっ、宇宙船の交信所みたいな感じですね」
「フンッ」と鼻で笑われた。
言わなければ良かったと俺は少し後悔をした。
「彼が運転してるから」
正面から左後ろの円筒みたいなやや高い、二、三メートルくらいの席に座った人が見える。
首から下は円柱の金属で見えないから、そこに操縦類があるのだろう。
「で、僕はなにをすればいいんですか?」
「なにって、君。ここに立って」円形に近い階段の途中を指差した。
「えっ、ここ」
「うん」
「はい、じゃあ、私の後に続いて言ってね」
この、お役人が笑顔になった。俺はうっとなんとなく嫌な予感を覚えた。役人が笑うと恐ろしい。いや、きっとそうは言ってもプライベートでは朗らかに表情を作るに違いない。これも、きっとそのパターンだ。間違いない。俺はつばを飲み込つつ、「はあ…」と答えた。
「ロボット、パーンチ」
「えっ、なんすかそれ。意味分かんないんすけど」
俺は役人が任務の辛さにたえかねて、少し緊張感がどっかにいってしまったのかもしれないと思った。優しくしてあげないと…
「まじめにやれっ。死にたいのか」
「えっ…はあ」
声帯が俺の中のイメージで暗闇の洞窟となりながらもやっとこさ返事をした。?しか出てこない。俺は役人の辛すぎる言葉に痺れるしかなかった。もう、ロボットだけじゃなくて、異世界かパラレルワールドにでも飛ばされでもしたのだろうか。しんどいことだが、必ずしもありえない話ではない。恐ろしいが。ほんと、なんか泣きそうになった。
紛いなりにも大学まで出て、『ロボット、パーンチ』とは親に申し訳ない。なにやってんだろ俺。
「いいかヤツ(怪獣)はお前の声に引きつけられる。そして、ヤツは人間の血で言語へ程よく反応をしめすことも研究の結果として分かっている。つまりだ、闘ってきた経験からしてお前が声を出して攻撃をすれば当たるんだよ。おおいに。こっちのイラダチやうっぷんを全部晴らすことができるくらいに」
なるほど、今までの経験での上での話か。役人さんも一生懸命なんだろうけど。こういう話も仕方ないが、やはりゲテモノを食べさせられたような気分になる。まあ、俺系の状況の人間に話す場合、頭が整理しきれなくてこうなってしまうんだろうな。分かるが、どうも胃の消化にやや悪いんじゃないかと思った。
「へー」
「へーじゃない、はいだ」
「はい」
大体、『来てくれるだけでいいから』などと言っておいて中々のことを頼むのだからしょうがない。緊急事態だから、手伝うが。
「だから、声を出していけ。細かい操縦は上の彼がするから。やってみろ」
「はあ、分かりました」
「ほら、これがロボットの資料だ。きちんと目を通しておきなさい」
「はい」
見てみて、ギョッとした。
これじゃ専門書じゃないか。どうもやりづらい。あまり気の乗らない学校行事のようだ。
ここで役人が何人かの隊員たちを呼び、器具を持って出されたのだった。闘うときに他の人たちはイスに座ってベルトをするそうだが、俺だけプラネタリウムジャンプ館のワイヤーでちょっと吊るされて固定されることになった。
俺は肩やお腹に安全のための巻き付けるジャケットを着せてもらった。座ったまんまだとぱっと入った俺がちぢこまってしまいそうだから立ち指導のポジションに立たせてくれたようだ。ありがたいんだか、そうでないのかよく分からないが、こんな感じになっている。
俺は一応まじめである。
やれと言われれば、特段の事情でもない限りはきちんとやろうとはする。
しかし、あと少し付いていけてない。
それは好きでもない食べ物を美味しそうに食べろと言われているのに似ている。一応、用意されたから心は嬉しい。
しかし、感情はどうなのだろう。そこを埋めるのが難しい。海外中継の時差のようなものだ。
資料には専門用語、記号や数字、外国のなんとか博士の考え出した技術。
と、ズラズラと書いてあった。
これは受験のために最初に見つけたら、難し過ぎて、心が折れたらどうしようと迷うレベルである。
役人がとりあえず少し説明をしてくれた。
しかし、やはり難しい。
役人はなんとか簡単に説明をする。
それを俺がメモをする。
なるべくイメージをしながら動いてもらいたいようだ。
ちょっとの間、学校の講義みたいになったが、後はまた時間が経ってから、とりあえずやってみてと言われた。
「ロボット、パーンチ」
「ようし、いいぞ。よくやった。できるじゃないか」
「フゥ」
今日家を出るときは良かったな。
なにも考えてなくて。
ただ、遊園地で遊べばいいと思ってたんだから。
それが、どうだ。……まさか。怪獣!?
くっ…嘘だろ。
マジで。
人間、なにに当たるか分からない。
宝くじに当たる者もあれば、病気や事故に当たる者もある。
人間は自分の運命を選べない。
選べるのは好きな人だけ。
しかし、自分には恋人もいない。
ムクッムクッムクッ。
心になにか汗が出てきた。
運命と向き合う汗だ。
……よし、根性だ。
こうなったら絶対に怪獣を倒そう。そして、好きな職業を探そう。
いきいきと生きていたら恋人だってできる。
よしっ、それだ!
俺はなんだかよく分からない気合が入ってきた。
恐怖でアドレナリンが出たのかもしれない。
これまでの人生史上最強に今ストレスがかかっている。
しかしそれを吹き飛ばす風が自分の中から吹き荒れている。
ハハハ。
やれるもんならやってみろ。たとえ見えない相手でも見つめてみせる。
街など触れさせず、おさめてみせる。どんなもんだ。
猛烈な気分になってきた。
辛い。
汗をかく。
目から出るのも汗。
手から出るのも汗。
シシトウなんてないのに、シシトウのにおいがする。
役人から手渡された資料には怪獣を倒すにはの項目もあった。怪獣は古代からの人間の知ることのなかった生活や、苦しみを受けた人の血を吸うなどの結果、すごく複雑な流れで、強く重さのあるエネルギーを持つことができている。だから、倒すにはその重いエネルギーを抜くことが必要と書かれていた。
それを踏まえて練習をする。
ああ牛はどんな気持ちだろ。
普段はあんなにのんびりとしているのに闘牛のときはどういう気持ちでひらひらとした布を追いかけるのだろう。
アレか。
いいメス牛に見えるのだろうか。
次々と練習をしていく。
やっぱり嫌だ。
無関係な街の人まで傷付くなんて。
なにも知らないのに傷付くなんて辛い。
嫌だ。
止めないと、悲しすぎるじゃないか。
上手くやればこれで終わるのだ。
すっばらしいことじゃないか。
よし、やったるぞ。
「近くまで来ています」
と言った隊員の机に付属しているパソコンのようなモニター画面の幾つかの映像は岸に近い海が見えるが海面が不自然な動きをしているがその原因となったものの姿は見つからない。
怪獣は透明である。
「地域住民の人は気付かないんですか?」と、役人に聞いてみた。
「気付かない。防音、震動を遊園地へと入れ込む。そう、考えて作ってある。そこに、ぬかりはない」
顔の両頬にやや細い針みたいな杭を打ち込んで、その端を紐で括り、上下にあげたりさげられたりしているような震動。
それが身体中の肉のある部分で起こっている。身体の部位の中で、目だけがしっかりしている。
だが後は全部ボーッとしている。
これからどうなってしまうのだろうか。
「さあ、この特殊スコープで怪獣の姿を見てみなさい」
役人からスコープを手渡された。
なにか怪獣が別画面映像に現れる。
「ああ、これか。しかし、透明なのに、なぜこういう姿であると分かるのだろう」
「それは科学班が緻密にデータを集めて解析をし、最も的確な姿を作りあげているからだ。それにプラスしてうちの遊園地の技術でCGやら着色をして闘いやすいように仕上げているというわけだ」
「なるほどよくできてますね。本物みたいだ」
「それぐらいできなきゃ、何十年も怪獣を被害を出さないように止められないでしょ」
役人は少し面倒になってきているらしかった。役人の彼にサービス精神を期待しても無駄だろう。
「大スクリーンの方が見やすいんじゃないかな」
前方の大画面スクリーンの映像がパッと、切り替わる。
そこには、怪獣の姿があった。
耳がついていて、茶色い毛がはえていた。
後は、恐竜のティラノザウルスに近い気がする。
俺はこの姿と向き合い、倒さないといけないのだ。
俺は、怪獣を見つめながら思った。
時刻は夜の九時。怪獣は園内に現れる。バキバキバキッ、地面が唸る。頑丈なものを使っているだけあって割れたりはしないもののなにか強化ガラスを踏み鳴らしたような音がする。いるんだ。
確実に。
そんな間接的振動が、起きている。心がわりゃわりゃする感じだ。本当はここに存在していない脱出用のロープを掴んで、逃げてしまいたい気分でもあるのか?…遅いけど。
…フシュ―。部屋の中が苦しくなる。今のは息を吐いたのか。それだけでこんなにも息苦しい。
「グホッグホッ」咳がでる。怪獣はニヤッと笑ったような気がした。ワニのときと同じか…でも、すぐに不機嫌のような顔になる。俺はグッと歯を噛みしめる。夜の暗闇月夜に映し出される、怪獣と巨大ロボットの引き姿。
とは言え、こんな状態になったなら倒す。もはや、どっちみちだ。
(行く…)
「ロボット、パーンチ」
相手は目を見開いた感じがした。まるで拳に、吸い込まれるかのようだ。
ロボットは進み出す。拳はホッペタに、のせるかのごとく綺麗にスイングを描き越えていく。クリーンヒットをした。
怪獣は思わず一、二歩と足が戻る。怪獣は少し弱った目で睨みつける。ひやっとしてきて、汗が出る。
今度は逆の手でロボットパンチを喰らわす。
しかし、それは不発。少し警戒されたようだ。
怪獣は目を見開き意味ありげに頬を片方ちょいとあげる。
なにかくるなと気を引き締めたところに、ヒュルッとしっぽが回転をして、まずい「ハンドガード」
バキンッ。
グラ―ッ。
「うわーっ…」操縦室は息苦しくなるくらいにグラーッと揺れた。
ロボット全体丈夫な金属が使われているとはいえ衝撃は衝撃である。
「おい、半田もっと上手く立ち回れ」役人が眉をハの字にしながら額に汗をかき文句を言い放つ。そんなことを言ったって、できるんならこういうことになったりはしないと思いながら、なにかを感じて「両手ガード」
怪獣は手をまあるくつつみこんでグーで右ストレートパンチをしてきた。
腰に体重が乗っていて、当たったらまずかったかもしれない。
言うタイミングが良かったのか、円筒の彼が上手く足をバックにして衝撃を受け流してくれた。
「おい、後ろのソードも使え」
そうだ、ロボットの後ろにソードが備え付けてあるのだ。
傘の形のソード。
『天井パラソルソード』俺はパラソルソードを取った(心の中で)。
「上にかまえてそれから斬るみたいな感じで―っ」
ロボットはグッとソードを両手につかみ頭上の方に振り上げそこから、斬りかかっていった。
怪獣、こっちを平然と見つめ、何の気なしにさっとそのまま横に一、二歩よけてしまう。
「おおーっ」
怪獣より後ろへ走り抜けてしまう、しかも空振りで。
コリャ、当たらない…
二度程、その後も格好悪く、同じように外してしまう。
ふと後ろの首筋に視線を感じて、そっちの方へ振り向くと円筒の操縦する人の顔があった。
顔に機嫌の悪さの跡がある気がする。そこに役人が俺へと話しかける。
「もっと、脇を締めてけ。幾ら声でも、ゆるすぎちゃ当たらないぞ」
俺は声を出す。それを操縦する人がいる。
よしっ、脇か。結構スポーツって、脇なとこあるな。
なんでだろ。俺は、脇を締める。
「天井パラソルソード。そうだ、思いきってナナメ斬り」
グヒャーン。刀で斬り付けられ怪獣は叫び声をあげる。
俺は円筒の彼の操縦術にホーっと感心してしまった。ほんとに凄腕である。なにげにポッとまきこまれた結果ここにいる俺の声に合わすことが、できる。
だから、本当に上手いと思う。とは言え、怪獣は強い皮膚と回復能力があるから、この程度では参ることはないといった状態である。お役人、次の手を考えて「蹴りもやってみろ」
蹴りか…資料を一応読み込んだけど…
膝についた鉄球ボム。
縦と横の支えにワイヤーがついていて、膝についた鉄球がストーンと足の甲の辺りまで落ちると、球体の水平上にあるガラスのない窓のようなところから、ブッボワッ、まるで映画のセットのように火が噴き出し足首から足先へと上に炎をまとい蹴りを繰り出すという。
まさに、ファイヤーキック。右、当たらない。くっ、決まらない。
パンチは最初から当たったのに。
役人、「半田、だいぶ読みやすくなってるぞ攻撃が。少し変則的にいけ」
「ファイヤー…横蹴り」
文字通り、ボディーの側面の方から横へと蹴る技だ。
当たる。
「よしっ、当たった。よーし、よし」
昔、空手を少しかじっておいて良かったー。言うほどでもないが、昔、俺は少しだけ空手をかじっていたりもしたのだ。
怪獣はだいぶカッカとしてきている。なんだろう。
俺の闘い方がストレスをかけているのだろうか。
それも結果的に変則的と言えなくもない。
嫌なのかな、怪獣は…そのとき、怪獣は口に気を集め始めた。
怪獣は俺には分からない方法で直熱ビームを放つみたいだ。
横で役人が専門用語を並べて説明をするが、本当のところはよく分からない。
でも、感覚みたいなものは伝わるので参考になってます。
どうも、ありがとうございます。そこで、俺はあることを一つ思いついた。
一応、役人に聞いてみる。
「よけた方がいいよね」
「あたりまえだ、バカ」
役人の発言はあいかわらず汗が出るほどきつい。
でも、俺は確認て大事だと思うんだ。この遊園地、俺のじゃないし。
「ロボット、よけ―。帆船、補正」
ロボットは大いによけて、ジャンプをしそのときバランス帆船の角度変化によって、いい着地をした。
遊園地は直熱ビームに衝突して少しだけ傷が付いたりしたがあまり大きい壊れ方はしていないようだ。
うーん、これならちょっと補修点検しておけば開園をすることもできるか。全体丈夫にできてんだな安心だ。
と、俺はのん気なことを少し考えたりしていたが、俺はここで止まらずさらに動いていった。
怪獣も、そう長くはずっとビームを出し続けはしない。やはり、量というものは多少は限度があるはずだ。
息つぎのごとく。怪獣は一瞬手を出しかねた。
チャンスだ。俺はロボットパンチをラッシュでいく。
「パンチ、パンチ、パンチ、パンチ……」
怪獣はフラフラになってきたが、倒せはしない。
目が鋭くなった。
(来る…)やはり、しっぽを振り込んできた。
ここで役人「飛行機を飛ばしとけ」とアドバイスを送る。
そう。
初めの方で乗った回転飛行機。
アレ、ほんとに飛ぶんです。
全部で七台の飛行機がこっちの指示で次々と空を飛んでいく。本当に飛んだ方がお客さん喜ぶんじゃ。
子供は危ないか…
許可とかいる気がするし。
ここで怪獣、腰をすえて息を激しく吸うようにして、勢いのよい水のごとく口から放った。
こちらを見すえて、首を中心に角度を変え続けるので、とてもよけられたもんじゃない。
そこで、あの飛行機たちが役に立った。
モニターを見ると飛行機の機体の下から盾のようなものを出している。
「あれは…」
「ビーム用の盾だ」役人が答える。
怪獣がどんなにフェイントをしようとしても、飛行機たちが上手く防いでくれる。ありがたい。
怪獣がくたびれたところで、飛行機は元のところへ戻る。
「そろそろいいだろう。天井パラソルソードを手に取り付けろ」役人は正面を見すえてそう言った。
俺はうなずく。
「天井パラソルソード装着」
そういうと天井パラソルソードの持ち手がまっすぐとなり、ロボットの手の甲からちょっと入った手首の表がウィーンと開いて一身になる状態で装着した。
傘が開き反対向きになる。
丁度、テレビの、アンテナのような感じだ。
怪獣がこっちをにらむ。だが、疲れているのか、こっちには向かってこない。
俺は言う。
「アンテナビーム」
元傘のアンテナから黄色い電気のような水分みたいな感じのものがどんどんたまっていく。
そして、発射された。
当たると、薄く怪獣が光ったかと思うと、ブクブクブク。怪獣がゆらめいたかと思うとそれは怪獣を中心として、まるで宇宙の水のようにフワフワとした。図形的に言うと、目玉焼きの白身が多い感じの雰囲気だろうか。黄色くて周りは水的だ。
「あれが怪獣を動かす、生態エネルギーだ。半田」
役人が目で合図をした。
俺はまたうなずき、「左手吸収」と唱えた。ロボットの手が大砲状になって、ヒュ―ンと言ったかと思うと、決められたようにエネルギーはストレートに左手へと吸いこまれたのだった。
地面に横たわる怪獣。
「エネルギーを抜いたから大丈夫だ。怪獣を倒したかどうかの確認作業が終わるまでここで待機しておいてくれ」
「ふぅあ(はあ)」俺は疲れていたのでこんな返事になってしまった。
ちょっとすると、吊るされたワイヤーを隊員の人たちが降ろしてくれた。
そのまま、ぼんやりとしていると役人がスポーツドリンクを持ってきてくれた。
「お疲れさん。よく、頑張ってくれたねぇ」
俺は話しかけられたので、なんとなく疑問になっていたことを少し聞いてみた。
「結局、首からつってるクルクル回転ボールの機能だけ使いませんでしたね」
「そうだな。必要がなければ使わないにこしたことはない」
「アレ、どんな機能だったっけ」
俺は終わった安心感でどういう力だったか忘れた。というかあの短時間で自分風に変えたとはいえ、よく覚えたもんだ。火事場の馬鹿力っていうのかな。こういうの……
「まあ、ここまで助けてもらったところがあるから教えるが」
「うん」
「アレは怪獣の頭つき防止だ」
「あっ、そうか」
回転ボールはロボット変形のときにリバーシブルで頑丈な金属になってクルクルと回り、怪獣の体あたりを防いでくれるのだ。
ヌンチャクを回すのに感じが似ていると俺はちょっと思った。
と、そのとき、
「怪獣から吸いとったエネルギーカプセルはどこにおいとけばいいですか」
まだ慣れていない防衛軍の新人だろう人が役人に聞いている。
「うーん、それはな電力使用貯蔵発電ルームに運んでおいてくれ。遊園地再開のとき、使う電気になっているからな」
「はい、ありがとうございます。分かりました」
「えっ、あのエネルギーは遊園地の電力に使われるんですか?」
「そうだよ、きちんと使わないと、もったいないだろ。有効活用だよ」
「有効活用……」
スクリーンを見ると、倒した怪獣の姿がなくなっていた。
「あの、怪獣はどこかへ運んだんですか?」
「んっ?」
役人は困惑の顔になったが、しばらくして普通の顔へ変わった。
「そうか、君はワイヤーで吊るされたのを降ろすとかで、気付かなかったのかね。録画を見てみますか?」
怪獣は砂になっていた。
エネルギーがなくなったので、超能力も出せなくなり身体の構造としてただの砂になってしまったと言う。
これが、怪獣だったのだ。
録画を見る前は気付かなかった、砂を見る。
苦しみの人間の血を吸った怪獣の最後。
透明ではっきりとした姿もあまりよく分からなかった怪獣の最後。
少し辛くなった。
見るのが嫌だった。それをもし、喜ばしいことと思うんだったら間違いだろう。
どうしたってそうだ。
その砂は遊園地の海岸地帯の敷地の拡張にこれまた有効活用されるそうだ。「また来週も来るんだ。きちんと整備しとかないといけないぞ」防衛軍の作業員が声をあげて言う。
俺はこれによって気付いてしまう。遊園地のチケット料金が安い理由を。
これだから、安いのだ。
地球の平和を守って入場料が810円だったら安すぎる。
おまけにすごい設備。それなら誰だって行ってもいいと思うだろう。
俺は遊園地の無料チケット。永久パス券を役人からもらっていた。
だが、連絡を取って、後日に返した。こういうのはプロの専門として、している人がいた方がいい。
俺は素人だ。
その話を聞いたら、世の中には納得しない人もいるだろう。そんなのはいい訳だと。
無理したっていいから、関係なしに頑張ればいいだろうと。
しかし、だとしても俺は思うのだ。
絶対の自己犠牲、ストレスと命。
それで、自分を守ったりすることができるのであろうか。
愛が必要なら見なければいい。
これは必須だ。
できることをやる。
それが愛だ。
友人には行けなかったとごまかして、それで終わった。
終