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【完全版】魔王さん達の忘年会

作者: 藍紅 吹雪丸

 この作品は企画でキャラクターを募集させていただき書いた作品です。「ここをこうしたほうがいい」などは積極的に行っていただけるとありがたいです。キャラ崩壊などもあれば訂正致します。

 ティアラ・リ・イアー。

 この世界の冠、つまりてっぺんのきらびやかなモノになってほしいという意味でティアラという名前がつけられたそうだ。

 事実、今私は冠と言える立場にいるのだと思う。しかし、この冠なんて、どうってことないような日常を奪って行った代物だと思える。


 三年ほど前、両親を失った。

 魔王の立場であったが、人間と、御旗軍と和解しようとした。母も、父も、もう顔も覚えて居ないが、優しい両親であったことだけは覚えている。優しさ故に、御旗軍と分かち合おうとしたのだろう。しかし、結果は。

 ──「魔王なんて私たちを苦しめたものが、今更和解?信じられるか」

 ──「どうせ嘘だ。」

 ──「本当だったら、俺らの靴を舐めてみろ。」

 その時、こんな野次が人界から聞こえてきた。両親は処刑されたらしい。和解のための外出なので、武器を持たなかったものだから両親は抵抗もできなかった。

 人間に失望した。

 確かに私たちの家系が散々人間たちを苦しめてきたことはわかる。だからこそ、終わらせようとしたのに。……いや、私たちの我が儘だったのだろうか。

 『魔王』という冠のせいで殺されてしまったお母さんも、お父さんも、とっても優しい素敵な人なのに。

 祖父、おじいちゃんたる大魔王の元で生かしてもらうことになったが、祖父は破茶滅茶。執事兼教育係も優秀なくせになんかいじめてくるし。なんでおじいちゃんの下についているのか。

 もう嫌だ……と思っていた矢先、年末年始の仕事を放り投げおじいちゃんは魔王城から城出したらしい。もう一生帰ってくんな。

 しかしそうすると魔王の仕事は唯一の血縁者である私に回ってきた。

 だがこの程度のこと、数多の頭痛ごとを乗り越え続けてきた私は乗り越えた。

 一応敏腕な執事のおかげもあり年末年始の仕事をあとはおじいちゃんのサインがいるところまでは書類全般片付けた。誰か褒めて。

 しかし最後の仕事には私も城出したくなった。

 魔王城の施設の一つ、『世界転移装置(旧式)』を用いて他の世界の魔王を招き、おじいちゃんの知り合いの魔王達のための忘年会を開くのだ。

 いやこれ辛いでしょ。まさに箱入り娘として育てられた私は魔王城の敷地から出たこともなければ友達もいない。


 そんな私が、接客とか、無理では?


  ●


 転移装置は、おじいちゃんが行ったことのある世界への一方通行の道を作る装置だ。

 その時にキーワードを登録し、転移装置の前でそのワードを唱えることでその世界に転移できる。

 この装置は井戸(井戸としては使わない)で、きちんとワードを唱えると張られた水が金色にきらめく。それがなんとも言えない美しさなのだが、これをお遊びで使うと面倒が起きるかもしれないので普段は使えない。

 それを自分で使えるなら嬉しいものだ。

 一方通行なので私が向かい、マントに付与された『転移』の魔法で参加者を連れてここへ戻ってくるのだ。


「お嬢様、マントはしっかり羽織って行ってくださいね?」

「わかってるのです、それでは行ってくるのです」

 本来ならルピナスも付いてくるべきなのだが、年末で部下のモンスター達は大体年末で休むために出払っている。来ないだろうが無人の魔王城を奇襲されてしまう可能性もあるので、魔王城に残ることになっているのだ。

 参加者リストとキーワードのリストを照らし合わせ、最初に迎えに行く『オニチェ・ゲムマ』さんの世界へのキーワードを探す。

「キーワードは……え゛っ ゴホッ、えーと……『ヒトクイオトコマサリノジョオウサマノトコ』…」

「ブフッ」

 いやあのおじーちゃん人様の世界への鍵にどんなワード使ってるの、ルピナスがむせた。

 と思った次の瞬間、井戸が金色の光を放つ。本当にこのキーワード……

「とりあえず、行ってくるのです……」

 そう小さく言って、私は井戸にとびこんだ……

 あのおじーちゃん、帰ったら半殺しかなぁ。


「ほわっ」

 一瞬の落下感の後、ぽすっと音を立ててその場に尻餅をつく。

 周りを見ると、青い肌で露出度の高い服を着た私よりずっと背の高い女の人が私と同じように尻餅をついていた。

 5秒ほどの長い沈黙の後、女の人が立ち、何かをぶつぶつとつぶやきながら3歩ほどで近くをくるりと回ると、こちらを向いて声をかけてくれた。

「…………お前、大魔王とか言ったやつの血縁か?」

 こくりと頷く。

「わ、私は大魔王の孫、ティアラ・リ・イアーというのです! 忘年会参加者の『オニチェ・ゲムマ』さまをお迎えに来たのです」

 言えたぁ!頑張って昨日せりふを練習した甲斐があった……!

 女の人はふーむと考え込むようにすると、「俺を迎えに来たわけか……」と呟いてから、「あのクソ魔王はどうしたんだ?」と聞いた。

「おじーちゃんは恐らく年末年始の仕事を嫌がって魔王城から逃げ出したのです。」

「こんなガキに仕事押し付けて逃げやがったってことか。つくづくサイテーなやつなんだなぁ……」

「ガキ!? ゴ、ゴホン……サイテーなのには同意するのです……とりあえず、参加してくれるのならオニチェさんについて来てほしいのです」

「オニチェは俺だ。いいぜ、行こうじゃねえか」

 オニチェさんに手を掴んでもらい、「転移、魔王城!」と唱えると、すぐ私のいた魔王城の転移装置がある所に戻る。


 オニチェさんをルピナスに引き渡し、次の「さたんまーくつー」とおじいちゃんの筆跡で英字の羅列を潰してある人の世界へのキーワードを…

「……(心底嫌そうな顔)『ナルシストカタクルシキカイマオウノトコ』……」

 これ、おそらくおじいちゃんの第一印象をそのまんまキーワードに……それだとしたら次の魔王かなり面倒では?しかし行かないと…おじーちゃんやっぱり半殺しで。

 ……しかも名前が間違っている!?潰してある文字をなんとか読み取って見ると、この方の名前は『S.A.T.A.N.MkIII』だ。頭悪すぎだし失礼……!

 そんなことを考えながら、金色に光る水に飛び込んだ。


『侵入者発見。発砲許可自動ログイン…装填完了。発po…』

「魔導具制御『猫』」

『……対象消失。装填解除します』

 アナウンスから物騒な単語が聞こえたので魔法で回避する。

 おじいちゃんが作ったにしてはいいものの部類に入る子も魔導具のローブには様々な機能が備わっている。

 そのうちの一つの能力が、今使った『猫』。存在していること、つまり姿や声を完全に外部にわからなくする魔法で、機械での検知や魔力の追尾もできなくなる。

 しかし手でものを触ったりできなくなるし、足で立ち歩くことはできるが蹴ったりしても空振りして転ぶ。他にもルピナスに異常を把握してもらえなくなる。

 あと近くで猫という単語を出されたら魔法が解ける。自分でも猫と言わないと魔法が解けないのだが。なので早くS.A.T.A.N.さんのところに行ってしまいたい……

 城内を警戒しながら歩いていると、機械の絵画と思われるものがたくさん飾ってあったりしておじいちゃんが『かっこい〜!』とか言いながら走り回りそうなデザインだった。

 歩いて行く途中、私より大きな機械を何体か見かけたが、魔王っぽくはなかったのでとりあえず最上階に向かった。


 あれがS.A.T.A.N.さんかな?

 中には嬉しそうに自分の肩を磨いている大きい機械が一機。「猫」と小さく呟いて姿が見えるようにしても、おそらくS.A.T.A.N.さんであろう機械はこちらに気づかない。

 どう話しかけても驚かれそうで言葉に迷っていると、『侵入者……』とアナウンスが流れ出した。

「む……貴様らまた我を侵入者扱いしたな? 前回を忘れたか阿呆ども。今すぐ解除しなければ殺す」

『失礼しました。しかし生体反応がががががががががが』

 容赦とか知らないのかこの魔王。なんか銃っぽいの撃ってるし…

 ともかく、声をかけられそうだ。

「あのー」

「なんだ!」

「そのアナウンス、間違ってないと思うのです」


 こちらを向き、驚いた顔(?)をしたS.A.T.A.N.さんが椅子から飛び降り、臨戦態勢をとった。

「…………何者だ。まさか生身の勇者……」

「あの、私はティアラ・リ・イアーというのです。大魔王、おじーちゃんの孫なのです。S.A.T.A.N.さんを……」

「何だ、我に用があるなら真正面から掛かってくるがいい。だが何よりも我が城の痴態を見た貴様は殺す」

 S.A.T.A.N.さんはローブを広げると、そこから ジャキン と音を立てて銃口やが現れた。

「何言っているのです!? 私は以前此処に訪れたであろう大魔王の……」

「あんな奴のことなどすでに記憶ストレージから消した。さぁくるが良い!」

 部屋のほのかな明かりで黒色が主の武器達が鈍く光る。

「えぇ……!? 魔道具制御『猫』!」

「なんだ逃げるのか? 逃げようが何をしようが貴様は死ぬ、おとなしく出て来るがいい」

 S.A.T.A.N.さんがマントの中から武器を完全に出そうとする。それらがしっかり私に命中してしまえば私は高確率で死ぬだろう。

 一瞬考えて、最良の策を見出すと、

「転移!」

 と叫んでS.A.T.A.N.の後ろに回り込む。

「猫!」

「小娘いつの間に……!」

 そして背のマントに触れながら「転移、魔王城!」と叫んで私はS.A.T.A.N.さんごと魔王城に帰った……!


 数分後。

 最上階、S.A.T.A.N.とティアラがいた部屋のドアが開いた。

「ダーリン! ゴハンの時間ヨ! ……ってダーリン? ……まさか……浮気!?」


  ●


「ふむ、自分の城に帰ったのか。別世界に来たところで小娘を殺すなど我にとっては造作もないこと。しかも此処は狭い、避けることも難しかろう。消えろ、我が許す!」

 S.A.T.A.N.さんが言った通り、この狭い魔王城の廊下では回避には不利な場所。

 武器がこちらに向かってくるのを見て、思わず目を瞑る。此処なら大丈夫、と思ったのは私の思い過ごしになってしまうかもしれない。

 心臓の音がばくばくとうるさい。音を紛らわそうと、ぎゅっとローブをつかんだ、


 ━━次の瞬間。

 そんな私の不安をかき消すように、がぁーんと心臓で揺れるような金属と金属が打ち合う音が廊下に鳴り響いた。

「お帰りなさいませお嬢様!お怪我はございませんでしたか?」

 私の期待を裏切らず、ちゃんとルピナスが私の前に立っていた。

 本来私が魔王城に転移した時出る場所は世界転移装置のあるところではなく、ルピナスの部屋の前だ。オニチェさんを迎えた時は、魔力の調節をして世界転移装置の前に転移したが今は普通に帰って来た。

 私はそこまで戦うのも上手くないから、なんとかルピナスに頼れてよかった。


「はぁ~、よかったのです…ルピナスが出てこないパターンがありそうで心配だったのです……」

「よほどのことがない限りお嬢様の命が危ないのならば地獄にでも飛び込みますよ……っとさて、フライパンで1発くらい入れてから和室に案内しましょうか?」

 S.A.T.A.N.さんは壁際にその形をなぞるように壁に刺された包丁によって、動いたら鎧がギイと不快な音を出しそうな状況に追い詰められていた。


「結構なのですよ。それではS.A.T.A.N.さん、大人しく会場に向かうのです。私は次の方のところへ…」

「お嬢様、お嬢様がこの方の対応に行っている間暇だったので代わりに他の魔王のお迎えに行っておきました、もう皆様揃ってますよ」

「なんと!?」

 しっかり言うと『S.A.T.A.N.Mk-III 2世4式』と言うらしいその魔王を救出して、私たちは本会場の和室前の扉まで転移した。


  ●


「それでは、第一回『魔王忘年会』開始とさせていただきます。司会は私、ルピナスが務めさせていただきます。今回の忘年会を楽しんで頂けるよう努めますので、よろしくお願いいたします。」

 和室に着き全員が揃ったので、ようやく忘年会が始まった。

 何かあったら怖いのでフードはかぶったままだが、ほんの少しだけ楽しみだ。


「それでは…お迎えの時に一番手間がかかったそちらの方から自己紹介を……」

「一番『手間がかかった』? 笑止、言うのならば一番『美しい鎧を持つ』方と言い直すが良い。」

 今さっきのS.A.T.A.N.さんにまず自己紹介をしてもらうつもりらしい。だけどルピナスに煽られたことが気に入らないんだろうなぁ……


「だがトップバッターに我を選んだことは褒めてやろう!」

 そう言ってS.A.T.A.Nさんは立ち上がり、マントを翻した。

「我が名はS().()A().()T().()A().()N().()M()k()-()I()I()I() ()2()()4()()!手始めに我のこの美しい鎧の話をs」

「あ、はーい次にそこの青い肌の女性の方、自己紹介お願いしますー」

「貴様我を先に指しておいて話を切るとは良い度胸ではないか殺す」

 話がめちゃくちゃ長くなるような流れをぶった切ってくれて安心できたので、小さく「ナイス、ルピナス」とグッジョブをしてから次の自己紹介をする方の方へ向き直る。

 この方は今さっき迎えに行ったオニチェさんだ、とわかっているがお話は聴くものだ。


「あー、あっちで取っ組み合いの喧嘩が始まりそうなんだが良いのか?」

 紺色の髪の方がそう言ってオニチェさんがいる方とは逆側を指す。

 その方向を見ると、ルピナスとS.A.T.A.N.が睨み合っていて、本当に喧嘩が始まりそうだった。

「ルピナス! お客様と睨み合ってるなら料理を運んでくるのです!」

「おっと……失礼しました、すぐに運んで来ます」

 そそくさとルピナスは和室から出て行き、ようやくオニチェさんが自己紹介できる雰囲気になった。


「もういいか? 俺は()()()()()()()()。うーんと……前の奴がアホみたいな自己紹介をしていたしなんといえば良いのか……とりあえず、今夜だけかもしれんがよろしくな」

 オニチェさんが挨拶すると、それぞれが小さめに拍手をして、オニチェさんが座った。すると、灰色の肌で左腕がない人が立ち上がった。

「初めまして、オニチェちゃん。おっ○い触っても良いかな?」

 するとぴしゃりと戸が開いた音がして、青紫色の影が走る。

「聖ッ!」

「ゴフッ!?」

  カァン

 ……あの、聞かなかったことにしても良いですか。

 問題発言からほぼ間を空けずに、戻ってきたルピナスがそこからフライパンを投げていた。オニチェさんは驚いた顔で胸を抱えて固まっていた。

「お嬢様の教育によろしくありませんので、不適切な発言は控えるようにお願いしますね!」

 フライパンを拾いながら、顔がぺしゃんこになった男の人に笑顔でそう言う。

「へ、へぇい……」

 目を回しながらそう言って、その人も座った。

 ルピナスが運んできた料理を並べているとふと、どうやったら顔がぺしゃんこになるのかと思ったが、ルピナスだしなんかできそうだなと何か納得してしまった。


「今座って頂いたのですが、もうこのタイミングで自己紹介をお願いします」

「わかったぜ! とぅ!」

 今度はジャンプしながらべこん、と顔を元に戻して着地する。

「俺は()()()()()()()()()()! ダニーと呼んでくれていいぜ!」

 ドヤ顔で顎の下に人差し指と親指を立てた形にした手をつけながらいうと、オニチェさんの時よりも小さな拍手がぱらぱらと聞こえた。しかしダニーさんは細かいことを気にしないようで、拍手されたことに満足した様子でまた座った。

 見た目は怖そうだったがお調子者、という感じで怖くはなさそうだ。よかった。

 ……ペシャンコのなった顔ってべこんという音を立てて治るものなのか……


「それでは次に寝ている青色っぽい肌の男性の方……起きてください」

「うぅむぅ……私か…………」

 見ると三人ほど寝ていて、起きてくれなさそうにも見えたが、大丈夫そうだ。

 指された方はあくびをしながら、一番近くに並べられていた皿の中から骨つきチキンを手に取り、おもむろに口に入れた。「うまい」と言うとルピナスが「お褒め頂き光栄です」と口を挟ん……

 いや食べる前に喋って欲しい。

「我は()()()()()()()()()()()()()だ。アブソルとでも呼ぶがいい。以上。」

 短めにそう言って座ると、オニチェさんの時くらいの大きさの拍手が聞こえた。

 かじっていたお肉はいつのまにか綺麗になって空皿に置かれていて、今食べているのは2本目のようだった。食べるの好きなのかな……?


「次はそうですね……寝ているつながりでそこの露出度の高い方」

「……ん…………あと……ごふん……」

 次に指された方はテーブルに突っ伏して寝ていて、こちらからは「綺麗な長い桃色の髪が綺麗だなー」というところ感じに思うほど髪しか見えないのだがそんなに露出度が高いのか……

 しかも起きてくれなそうだ。

「おねえさ~ん……起きて欲しいのです……」

 起きてくれるのかわからないが一応言って見r

「ロリの気配!!……ってのわっ!?」

  カァン

 背後からルピナスがフライパンで殴って、またおねえさんは机に突っ伏した。

 ロリってなんだろう?

「起きてくださらないようなので後に回しましょうか~ えーと次は……」

「いや……起きてる……から…………殴っといて後に回すな……こら」

 おねえさんがよいしょと言って立ち上がった。

 確かに立つとマフラー(?)に長い靴下。後ビキニのようなものだけで思わず目をそらしたくなる。


「うぅ……私……()()()()()()()()()……眠い…………」

 そう軽く自己紹介をすると、私の座ってくる方へ歩いてくる。

「……?」

 私の前までおぼつかない様子で来ると、抱きつくような姿勢に……

「ってえぇ!? て、『転移』!」

「女の子だ~……あべしっ!?」

  パァン

 私がリンカさんの背後に転移してホールドを回避すると、どこからともなくお盆が飛んできてリンカさんに当たる。そして案の定と言ったところかルピナスがお盆を回収する。ありがとう。

「な……なんなのですか!?」

「かわいい女の子……見つけたら……ぎゅーしたくなる……常識…………あの男……殺す」

 リンカさんが今にも舌打ちしそうな様子でルピナスを睨みつける。

「あぁ私、今にも手が滑って冷却魔法を放ってしまいそうですね」

 ルピナスがそう言うと、リンカさんが「うわっこいつ悪魔だ…とでもいいそうな様子でさっきまでいたところにとぼとぼと戻って行った。

 ルピナス今さっきからほんとにフライパンで殴ったりしかしてないな……


「それでは次、赤い鎧と言っていいですよね? そちらの方、お願いします」

 ルピナスが龍っぽい方を指すと、「私か。」と言って指された人が立つ。

「私は名を()()()()()()()()()()()と言う。喋るのは得意ではないが……まぁよろしく、頼む」

 ぱちぱちと拍手がなされ、「次……赤いマントのライオンの方お願いします」とさっと言う感じでルピナスが次の方を指す。


「私だな。私は()()()()と言う。ほとんどが人間と戦う魔王なのだよな? 我は勇者を名乗り力に溺れ自らの欲に振り回されているあやつらめが勇者だとは思えぬ。無垢な命を歪め奪い、それでもなお自分たちが生命の頂点だなどとよくいえt」

「すみません、時間が押しているので……次の方は……」

 ビザールさんはまだ話したげだったが「む……仕方がない」と下がってくれた。この流れは仕方がない。演説のような形になってしまっていたし……

 でもちょっとこの方とは話してみたい……

「あの、ビザールさんもキメラなのですか?」

「も、と言うことはそなたもキメラなのか? 人間のようなところが大きいので私のようにぴんとキメラだとわかる容姿ではないが……」

「私は猫の耳と尻尾、悪魔の羽、人魚の顔で、あとは人間なのです。まぁ自分でくっつけた訳ではないのですが…」

「そうなのか? では誰に……」

「おじいちゃんなのです」

「あやつ私の城であんなに孫自慢したクセに改造しているのか! 許さぬ!」


「それじゃあ喋ってくださりましたしお嬢様次お願いします」

「えぇ!? ……でも最後になるよりマシなのです……」

 話が一段落するとルピナスに話を振られる。さすがにここで自己紹介の流れになるとは思わなかったが……

 昨日ちゃんと自己紹介の時に話すことばも考えたし……よし。

「私は、()()()()()()()()()()というのです。深堀は後にしてくれるとありがたいのですが、今不在の大魔王の孫なのです。今回の忘年会の主催、と言うことにもなるのです。今回の忘年会を楽しんでれると嬉しいのです。よろしくです」

 座ると拍手が聞こえてきて、ついふぅっと安堵の息を漏らしてしまう。

 よかった……一番怖いのは多分ここだ……。あとは座っておけばいいと思う。


 近くに置いてあったローストビーフを私の皿によそおうとすると、ルピナスがこちらにきて山盛りにローストビーフを置いてくれる。

「!? ルピナス、こんなに食べられないのですよ!?」

「あ!? し、失礼しました…」

 半分ほどは元の皿に戻したが、それでもいっぱいで食べられるか不安だ。

「あー、うー……どこかでみたことあるような光景ですね…」

 金髪でミディアムくらいの髪の長さの女の人がはぁーっとため息を漏らす。

「おねえさんにもこんな執事がいるのですか?」

「そうなんですよ……ティアラちゃん…でいいのかな? うちは執事だけじゃなくてメイドたちも無駄に過保護にしてくれて……嬉しいけど、もっと仕事とかさせてほしいんですよね…」

「過保護はよくないのです」

「そこまでドヤ顔で言うということは私は過保護に入らない、と言うのでいいのですよね!?」

「自分の心に聴きやがれ、です」

「お嬢様が『やがれ』!? これは将来グレてしまうのでは!?」

 やけにルピナスがにやけてきたので調子に乗っていると言うことをなんとなく悟る。

「あと遊ぶなですー!!」

「ふふふ……なんか微笑ましいですね…そうだルピナスさん、ここで自己紹介してしまっていいですか?」

 ルピナスがこくりとうなづくと女の人が立ち上がる。


「私は()()()()()()()()()と言います。私だけこんな小柄だったらどうしよう、とか思ってたのですがティアラちゃんみたいな子もいて安心しました。今日は仲良くしてくれると嬉しいです」

 ぺこっとお辞儀してリリィさんが座ると、拍手がやっぱり聞こえてきてなぜか安心した。


「過保護の話題には我も頭を痛める……」

「あなたにも過保護な部下がいるんですか?」

 リリィさんが話しかけてくれた灰色の髪の男の人にも話を振る。

「我は部下を過保護にしてしまっているようでな……我はそうしているつもりがないのですが……」

「過保護はよくないのです」

「『可愛い子には旅をさせよ』って言いますし、もっと色々やってもらえばいいと思いますよ。」

「な、なるほど……」

「せっかくなのでここで自己紹介してほしいのです」

 ルピナスの方に視線を向けると、うなづいてくれたので大丈夫そうだ。

「わかりました」


 男の人が立ち上がり、「我は()()()と言います。まぁ、今日はよろしくお願いします。」と自己紹介をする。

 私とリリィさんが少し大きめに拍手したりしていたが、普通に座る。

「お話してくれてありがとう、ですな」

 少しニコッとしながらそう言われて、私とリリィさんが一緒に

「「いえいえ(なのです)!」」

と言ってしまった。



「それでは次に~……紫色のマントの方、お願いします」

「私ですね。」

 腕がないように見えたがマントで隠れていただけのようだ。

「私は()()()()()()。みなさんよりもあまり魔王、という感じではないのですがか仲良くしていただければいいですね。よろしくお願いします」

 グランバリスさんが座るとS.A.T.A.Nさんが「あまり魔王という感じではない、とはどういうことだ?」と口を挟んだ。

「私は人界を征服した上で共和国を目指そうとしていて…魔王ということを忘れられ『勇者様』とたまに呼ばれるんですよ……」

「貴様何故魔王になったのだ?」

「私にもわかりませんね。」

 いや魔王なった意味見失っちゃダメでは。

「支配する点は、共感しよう。だが気に食わん……なぜ蹂躙せんのだ?」

「いや、ただただ私は『みんなが手を取り合って生きるハッピーワールド』を作りたいだけで……」

「世紀末と言い換えることを我は許す」

「えぇ!?」


「人間が屑である限りそれは不可能ではなかろうか!?」

 ビザールさんまで入ってきた……!?

「私はグランバリス様の考え、わかりますぞ!!」

 まだ自己紹介してない方まで入ってきた!! 大丈夫なのかなこれ色々と……

「できればすごいと思うが、ビザールさんに俺は賛成だな。人間……っていうか俺のところでいう天界の奴らが屑で阿呆な限りできないと思う!」

 一番最初にS.A.T.A.N.さんとルピナスが喧嘩しようとしているのを教えてくれた紺色の髪のお兄さんまで入ってきた!?

 わぁわぁとしてなんか混沌とした感じに…うるさい…オニチェさんなんかはもう耳塞いでいるし…この状況で耳を塞ごうともせずにもりもりと唐揚げ食べているアブソルさんはなんなんだろう!?

「ルピナス、そろそろ止め……」

  カァン!!!!

 ルピナスがさっきまでいた場所にルピナスはおらず、背後から忍び寄っていたらしいリンカさんにフライパンを叩きつけていた。

「全く……騒ぎに乗じてお嬢様に抱きつこうとか甘いんですよね」

「ぷきゅ~……」

「……ってあ、わいわいできていたのに雰囲気壊してしまいましたね、すみません…次、今もお話しされてた王冠をつけた白いツノのある方と紺色の髪の方お願いします」


 フライパンの音に全員驚いて話が止まっていた。まぁ結果オーライ、だと思う。

「いやぁ、我々もヒートアップしすぎてたのでちょうどいいですよ……みなさんすみませんな…私は()()()()()()()です」

「俺は()()()()()()()() だ。話に参加していなかった奴ら、ほんとすまねぇな……」

 紺色の髪の方はデリアさん……よし、覚えた。

 ゲーディさんも座り、あと他に自己紹介していないのは一人になった。


「それでは最後……ですね、寝ている方」

「……」

「……あの~? 起きてください~?」

 ……起きてくれない。

 ルピナスが肩を揺らしたりはするが起きない。

「ルピナス、連れてきたときは起きてたのですか?」

「いえ、寝てたので鉱石の子供たちに起こしてもらったのです」

「うーん……」

「起きてくださらないと爆裂しますよ~?」

「リリィさん、物騒なのです!?」


「うぅ~……わしの眠りを妨げないでおくれ……」

 ようやく寝ている方が反応した。

「とりあえず自己紹介さえしてくれたらしばらく起きなくても大丈夫なので自己紹介してほしいのです~!!」

「わ、わかったから……」

 ようやく寝ていた人が体を起こす。

「……ってあれ……ワシ……縮んでる…?」

「魔王城の結界で二メートル超える大きさの人はある程度縮められるんですよ」

「なるほどの……ワシは()()じゃ……あとは寝る……」


 ●


「それじゃ……乾杯、なのです」

   カシャーンッ

 グラスとグラスのぶつかる歯切れの良い音が響く。

 順番が多少入れ替わってしまったかもだが、乾杯はやったほうが良さそうだったので。お酒を飲める方々が嬉しそうにルピナスにワインとかを注いでもらっていた。

「酒だ! ようやくだな!」

 オニチェさんが嬉しそうにおつまみのためのジャーキーを自分の皿に載せる。

「ルピナスさん、唐辛子とかないですか?」

「揚げ唐辛子ならすぐに用意できますね。キムチなんかももってきておきますか?」

「是非お願いします♪」

 見た目によらずリリィさんって辛いもの好きなのかな……?


「SECOM……激辛麻婆豆腐みたいなの…ある…?」

「SECOMって私のことですか?まぁあるのでもってきますね」

 リンカさんも辛いものが好きなのかな…?私は柿の種くらいしか食べられないけど…


「ルピナス殿……ワインなどは苦手なので他の酒はあるか?」

「ビールなんかはありますが……こちらでよろしいですか?」

「あぁ、ありがとう」

「おーいせこむー! 俺にもビールよこせー!」

「なんでSECOM……?とりあえずビールどうぞ」

 アナザーさんってワイン飲みそうなイメージがあったけど、飲まないのか……

 て言うかリンカさんもダニーさんも、せこむせこむって……せこむってなんだろう? 後でルピナスに聞いてみよう……


 みんな以外と食べたいもの注文したりしてるなぁ……

 今ルピナスは忙しそうだし、あとでプリンとかお願いしてみようかな……?

「お嬢様もどうぞ」

 ふと声のした方を見るとルピナスが私にも何か持ってきてくれたらしい。もう今さっきまでに頼まれていたものは運び終えていたようだ。今私にもってきてくれたのは……

「あぁっ!? いいのですかこんな贅沢!?」

 もってきてくれていたのは、私の中で最大の贅沢品であるプリンアラモードだった。

「たまには、ですね」

「わ~いです!ありがとうです!」

 一口食べると、甘い味が口いっぱいに広がってやっぱりとっても美味しかった。リリィさんが「ティアラちゃん……よく甘いものが食べれるね……」と言っていた。この美味しさがわからないのは人生を損している。美味しい。


「めんこい、とはこんな感じだろうな…」

 デリアさんがそう言うと、ホロスさんが「ですね……」と返していた。

 何について話していたかはわからないがまぁいいか、プリンアラモードがとっても美味しいし。


「さて、忘年会の定番かもしれませんが、本日の目玉として王様ゲームならぬ『魔王様ゲーム』はいかがですか?」

「ふむ、面白そうではないか。我はいいと思う。」

 S.A.T.A.N.が賛成するとみんな良いのでは、と言うこときなったので魔王様ゲームをやることになった。


「割り箸よりもいいかなと思ったので、トランプを配布しました。それではカードを捲っていただいて、キングのカードを引いた方が王様です。他は1から12、クイーンまでとジョーカーを番号として扱ってください。同時に三人までに命令を出せます。それでは1回戦目、魔王様だーれだ?」

 ルピナスの合図で全員が一斉にカードをめくる。寝ていた眩地さんもちらっと確認してくれているようだ。私はジョーカーだった。


「我が魔王だったぞ。」

 アブソルさんが今度はタコの唐揚げを頬張りながら手を挙げた。

「それでは魔王様、ご命令を。」

「む~……では5番と8番の者、そこの揚げ唐辛子を一個食せ。」

 あれを食べさせられるのか……私に当たっていなくてよかった……

「5番私です! 今さっきも食べてたし余裕です!」

 リリィさんが早々に揚げ唐辛子を一個口に入れる。

 あの容姿で美味しそうにもぐもぐされると美味しそうに見えてしまうから不思議なんだよなぁ……美味しいのだろうが私には辛すぎるし。

「8番はどなたでしょう……ってダニエル様、和室から出ようとしないでください? どうされたんです?」


 戸を開こうとしていたダニーさんにルピナスが一声かける。

「え? あ~……え~っと……ちょっとトイレに…………」

 何か怪しい……めちゃめちゃ汗かいてるし…

「お前、8番じゃないのか?何番だ?」

 デリアさんが4番のカードをみんなに見せながらダニーさんに歩み寄る。

「お、俺はジョーカー……」

「ジョーカーは私なのです、嘘はダメですよ」

「ティアラちゃん……あ~っとそうだった、ほんとは~……え~と……」

「お前のカード見せてくれよ」

 デリアさんがダニーさんをさらに追い詰めていく。

「わかったよ! 食えばいいんだろ!!」

 8番のカードをデリアさんにペシットダニーさんは叩きつけて、自分の席にドスッと座る。三つほど揚げ唐辛子を掴んで、口に入れ……

「ちょっ!? それ大丈夫なのですか!?」

 ゲーディアンマさんも流石に静止するが、「うるせぇ!」と言ってダニーさんが三つ揚げ唐辛子を口に入れた。


「……」


ダニーさんが止まったまま動かないので、見ている私たちもつい止まる。


「辛あアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァいいっ!?!? 水、水うう!?!?!?」


 ルピナスがニヤニヤしながらさっとコップを出すが、中の液体はどう見てもほのかに黄色く、おそらくこれを見ている全員が思っているのは……


「「「(あれ、これ酢じゃない?)」」」


それに気づかずにダニーさんは一気にコップ一杯の酢を飲み干す。


「……」


ごくん、と息を飲んだ直後。


「すっぺえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」


「申し訳有りません! 私としたことが!! 酢と……み、水を……間違え……フフフ」

そう言うと、全員が吹き出して大笑いをしてしまった。


 あの後ルピナスに普通に水をもらいなんとかダニーさんが復帰したので、第二回戦に行くことになった。

「いやぁ、さっきのは誠に滑稽であった!」

「うるせいやい!!」

 S.A.T.A.N.さんとダニーさんがわきゃわきゃしているが大丈夫そうだ。すると、二人が絡んでいる間にカードの配布が終わっていた。


 「それでは2回戦目、魔王様だーれだ?」

 ルピナスの合図でまた全員が一斉にカードをめくる。

 今度の私のカードはクイーン、つまり12だった。


「よっしゃ!! 俺が魔王だ!!」

 今度は今さっき『泣きっ面に蜂』状態になっていたダニーさんが魔王のようだ。

「それでは魔王様、ご命令を。」

「コイツが魔王様ってなんかムカつくな、今さっき酢を渡しやがったくせになぁ。とりあえず俺の命令は最初から決まっている!」

 バッとダニーさんが人差し指を天井に掲げて決めポーズを取る。どんな命令にするつもりなんだろうと思いながらオレンジジュースを飲む。


「1番、俺におっぱい触らせてもらおうか!」

  ブフォッ

「これが場合によっては亜空間送りですが……お嬢様、一番ですか?」

「私は12番のクイーンだったのです」

 クイーンのカードを見せるとルピナスがホッとしたような表情になる。

「オニチェちゃんとかリンカちゃんは?」

「私……6番…………1番だったとしても……触らせるわけ……ない……」

「俺も7番だから違うぞ。」

「私この展開読めました。結局一番誰ですか?」


「私ですな!」

 ゲーディアンマさんが1のカードをこちらに見せる。

「ljslfjgsghs;kjfgんskjrht」

 変な音を吐きながらダニーさんがピッとゲーディアンマさんの胸に触れて席に戻る。

「『泣きっ面に蜂、さらに男』……』

 リンカさんのそんなことわざもどきは、まさにその通りだと思えた。


「それでは3回戦目、魔王様だーれだ?」

 全員が一斉にカードをめくる。今度は9番みたいだ。

  ガタン

 リンカさんが机に突っ伏していたのに、音を立てて起き上がる。

「私魔王……!!」

「嫌な予感しかしませんが、魔王様ご命令を」

「9番……抱きつかせて……!!」

 ルピナスの嫌な予感が当たってるな~……

「わ、私が9番なのです……」

「ktkr!せいやっ!」

 カミングアウトした瞬間にリンカさんに飛びつかれる。


「ふふ……満足……」

「あっあの……そろそろ……」

「リンカちゃーーーーん!! 早くティアラちゃんを離してェーーーー!!」

「我々でルピナスさんを抑えるのは無理が……!!」

「リンカちゃん! 早くティアラちゃんを離してあげて!! この人小規模爆裂魔法を食らってもビクともしなくて!!!」

 リンカさんに抱きつかれていてルピナスがジッとできるわけもなく、他の魔王が抑えてくれている。今さっきのリリィさんが放った爆裂魔法の黒煙の中から無傷でルピナスが出てきたシーンはすごかった。

「『擬似転移』」

「あっ」

 擬似転移はおじいちゃんの転移を真似たものだそうで、フツーに転移するので……

  カァーン

 リンカさんの頭に大きなたんこぶを作るフライパンスイングをしているとき、ルピナスの瞳が久しぶりに細く開いていて、紅い光が、本当に怖かった……


「それでは4回戦目、魔王様だーれだ?」

 今さっきは本当に散々だった。今度は7番だ。

「ゲッ! 俺が魔王かよ!」

 オニチェさんがそう言ってキングのカードをテーブルに置いた。オニチェさんならぶっ飛んだ命令橋ないだろうし、安心できる。

「んじゃ〜な〜……5番の奴、一発芸だ!」

 オニチェさん意外ときついところを……!? まぁやられるとキツそうだが私じゃないのでひとまず安心だ。

「5番は我だ……一発芸……う〜む……」

 ホロスさんが5番のようだ。ホロスさんはあんまり一発芸とかやるイメージがないけど……どんな芸を持っているんだろう?

 ホロスさんは手に持っていたシャンパンをテーブルに置き立ち上がって少し距離をとった。そして右手をグーにして前に掲げ、きっとシャンパングラスを睨みつけると大きな声で「行きます!」と言った。

 すると、グーの形になっていた右手がパーに開きながら勢いよく飛んでシャンパングラスのステムを掴み、そのままホロスさんの方に戻って右腕にくっついた。

「「「おぉ〜〜!」」」

「反応していただけてよかった……これで良いですか、オニチェさん」

「おう、俺としては大満足だぜ!」

 中にはそこそこの量のシャンパンが入っていたが、溢れていない。動きが精密ですごい……!

「ふ、下らん。その程度我にも出来ようぞ」

 S.A.T.A.N.さんはそう言って骨つきチキンを肩の犬のようなところに放り込んだ。

 オニチェさんが「それならお前もやって見たらどうだ?」と言うが「なぜ我がそんな子供の遊びをせねばならんのだ」と言っていてやる気はないようだ。「子供の遊び……!?」とホロスさんが小さくショックを受けているようだが気にしちゃダメそう。

「やーい、できないんじゃねぇのかサンタや〜い」

「ふんっ」

 ダニエルさんの煽りに対しS.A.T.A.N.さんはダニエルさんの顔にロケットパンチをプレゼントした。

 今さっき子供の遊びとか言ってたくせになぁ……


「これで一区切りでしょうかね。5回戦目、魔王様だーれだ?」

 トランプは2番だった。魔王様……できなかった……。まぁなってもなんの命令を出すかで迷うのだが。

「うむ、私ですね」

 グランバリスさんがキングのカードをこちらに見せる。

「それでは……忘年会な訳ですし、ジョーカーの人に今年の大変だった出来事を」

「……ほぉう」

 S.A.T.A.N.さんがジョーカーのカードをテーブルに滑らせる。答えるのはS.A.T.A.N.さんのようだ。完璧そうなこの人(?)の大変だった出来事……どんなことだろうか。

「我はそこの小娘が思ったように完璧ではない」

「!? 心を読むなです!?」

「我は貴様の思考を予測したまでだ。ふむ……毎年だが勇者が頻繁に我が城へ来ることだろうか」

「んだそら、日常じゃねぇか」

 オニチェさんの言葉にうちには来ないけどなぁ……と思った私の思考は置いておこう。

「1日で500機はくる。」

 ガタッ。

 誰が鳴らした音なのかわからないが、そのS.A.T.A.N.さんの言葉にみんな絶句する。

「文明が進んだ国故、勇者が大量に量産され、我が城へ来る」

 S.A.T.A.N.さんが指を立てるとそこから大量の勇者が行進する様子を映し出した。「サタンお前こんなことできたんだな!」とデリアさんが言うが、ここでのツッコミどころはそこだけではないと思う。

「非力だが、徐々に改良されつつあり、次の次の周期からは理論上、我を倒せる域に到達する。万が一に備え、我も改良を進めなければなるまい。……こんなところか」

 ゲーディさんが「改良が進んでいるのなら良いのでは?」と烏龍茶を飲みながら言うと「それは愚かだ! この我が美しい体躯を切り離すこととなるのだぞ! ありえんと思わんか!」と返した。シリアスかと思ったらさっきと方向性がぶれていないあたりさすがだと思う。


「SECOM……ちょっと……トイレ…………借りたい」

「お手洗いはここを出て右に曲がってそこの階段を降りた先のドアを開けて左に曲がり真っ直ぐっ住んでいただき右側の3番目のドアを開いて梯子を登り右に曲がり次の曲がり角は無視してその次の……」

「わかるか」

「ふぇ〜……ここそんなに広かったんだぁ……」

 リリィさんがそう言うのもわかる。侵入者が来ても時間稼ぎができるように迷路のようになっているので転移魔法か道を覚える(ルピナスは覚えたらしい)ことができない限り出歩くことはおすすめできない。

「なら私が転移魔法でお連れするのです」

「ルピナス殿……オレンジジュースの追加をお願いできるかの?」

「うむ、こちらの用事もできてしまいましたね……お嬢様、お願いできますか?」

「任せるのです。リンカさん、私の手を握って欲しいのです」

 リンカさんが触れたことを確認して、「転移!」と唱えてトイレの前までワープした。


「よし、来たのですよ。ここで待ってるのです」

 そう言ってリンカさんの手を離すが、周りをきょろきょろとして個室の方に行く気配がない。

「? どうしたので」

 ぼふっ。

 重くて暖かいものが私に抱きついて来た。……いや、

「リンカさん! いきなりどうしたのです、離すのです〜!」

「せっかく……SECOMもいない2人きり……離すわけ……ない…………」

「みゃあ〜!! て、てん……」

「そうはさせない」

 むぎゅっ

 ……苦しい……?

 あ、リンカさんの胸が顔に押し付けられてるのか。器用に息はできるようになっているが口は塞がれていた。

「むぐーー!!」(訳;やめぇーー!!)

「ふふふ……しふく……」

 くそぅ、リンカさんにもうついて行ってたまるものか、行くならルピナスを一緒について来てもらおうと強く思う。従者をここに呼び出す魔法が使えればどんなに良いことか。ここは和室から結構離れているのでルピナスの探知が及ぶかもわからない。


「むぐぐぐーーーー!!」(訳;ルピナスーーーー!!)


「お呼びですか?」

 パァン、と聞き慣れた声と金属の音が聞こえる。すると抱きついていたリンカさんの重さが感じられる。意識を失ったのか、のしかかって来てしまっているようだ。このままではぺしゃんこに……ダニーさんのようには顔を戻せないのに……!?

「『召喚』」

 ルピナスの声がそう聞こえるとその重量感が消えて一瞬落ちたような感覚になり思わず目をつぶった。しかしぽすっと受け止められる感覚がしておそるおそる目を開けると目を開いたルピナスがこっちを見ていた。

「うわぁーー!?!?」

「お嬢様、大丈夫でしたか?」

「る……るぴなす……目…………」

「おっと、失礼しました。お部屋に戻りましょうか。あの変態を担ぐので転移魔法をお願いできますか?」

「わ、わかったのです……」

 部屋に戻ると、何人か寄って来て「大丈夫だったか!?」なんて言われてしまい、驚くしかなかった。

 デリアさんによると、眩地さんにジュースを渡してすぐに目を開いて探知魔法の魔法陣を足元に広げ、転移したそうだ。そりゃあ何かがあったことか丸わかりで心配されてしまう。


「ってかかなり違うことしてるけどこれ忘年会なんだし他にも誰か大変だったこととか言えねえの?」

「ふむ、貴様がまずは言え。」

「俺!? まぁいいけどよ……俺はそうだなぁ……右眼の魔眼が痛いって言うかうざいんだよな」

 オニチェさんがすっと手羽先を取ろうとするとS.A.T.A.N.さんが先に皿を取り、手羽先を全て肩の犬の中に入れた。

「あっおまえ!?」

「ふん」

 まぁすぐにルピナスが手羽先の追加を持って来た。

「魔眼は面倒ですよね。痛いし……」

「おまえに痛いとか言う感情あったんだな。できれば俺はひっぺがしたい」

「魔眼の移植も可能なようですが痛いですしねぇ……あと痛覚はありますよ、有機物ですし」

「そなたその言い方だと砂糖や酸素まで痛覚があることになるぞ?」

 ルピナス、なぜその言い方にした。ビサールさんが言わなかったら私が言ってたと思う。

「ビザール様はどんなことが大変でしたか?」

「話の振り方が雑だな……? そうだな、秘書が冷たいことだろうか」

「うちとは逆ですね〜!? 交換しませんか?」

 リリィさんのところの使用人さんは過保護らしいからなぁ〜……

「はははは、面白い冗談だ。そなたの大変だったことはなんだ?」

「いえいえ、冗談じゃないですよ。そうですね〜、私はS.A.T.A.N.さんのところとは違って勇者の方があまり会いに来てくれないのですよね……つまらない……」

 襲撃されるよりいいのでは……? 気にしちゃダメそう。


「アナザーだっけか、お前は?」

「唐突に私か!? うむ……私は猫舌を気にしている……」

「俺もだ! 仲間がいたな!」

「私もなのです……」

「本物の猫もだな!」

 するとすっとルピナスがコーンスープを私の前に置いた。アナザーさんやデリアさんの前にも置いてある。熱そう…… あっ。

「猫舌はこの熱さのを食べれないのですよ!?」

「聞かれそうだから先に言うとわしは寝れないことだな。眠りを妨げられるのは本当に困る……」

 眩地さんの隣のアブソルさんが満足したのか寝ていて、なんとなくみんな視線を向けてしまう。

「……なんだ、我か? 我のは笑い話になるが……城に清掃用メイドがいるのだがなかなかにポンコツでな。城内のゴミがなかなか片付かず部屋から出られなかったのは大変だった」

 それは大変そう……

「なぁなぁティアラちゃん、唐揚げ食うか? レモンかけといたぜ、あとマヨネーズもな」

「んにゃ、一個もらうのです」

「おっ、にゃだってよ。猫みたいでかわいいな」

 はっと口をふさぐ。

「なぁ、唐突だけどルピナスって名前かわいいな」

「はぁ、ありがとうございます?」

 デリアさん、かなり唐突ですね。


 ゲーディさんが焼き鳥を食べていると、ルピナスが「ゲーディアンマ様の大変だったことはなんですか?」と話を振られていた。

「私ですか? 私は……そこまで強くないことに悩んでいまして……部下の方が強いような気もします」

「ゲーディアンマ殿、そこは気にしなくても良いかと思う。魔王に大切なのは強さかではないと私は考えている」

「なるほど……」

 なるほど……


「そろそろおしまいの時間ですね。何か最後に欲しいものがあればどうぞ」

「はい!はい!酒!」

「それでは追加を……」

 オニチェさんのグラスにルピナスがワインを継ぎ足す。

「んでほら、ティアラ、こっち来いよ」

「? どうしたのです?

「ほら、口開けて」

 オニチェさんも酔っていたのだろうか。私の口ににワインを注ぐように突っ込む。

「ちょ、オニチェ様!? お嬢様にお酒はまずいですよ!?」

「んあ? ガキこそ酒のうまさを知らないとダメだろ〜!」

「にゃ〜!」


(ルピナス視点)

 あぁ〜……お嬢様、前に大魔王様のウイスキーを間違って飲んで猫に豹変していたのを知っていながら……お嬢様のの顔は心なしか猫のヒゲが生えたように見える。

「にゃあ〜! にゃん!」

「お? 本物の猫みたいだな! かわいいな〜……よしよし」

「わぁ〜ティアラちゃんかわいい〜! よしよ〜し」

「にゃ〜ん!」

 ふとリンカ様がお嬢様に後ろから近づき、お腹をつかんでキャッチした。

「ふみゃっ!?」

「にゃんこ……かわいい……」

 リンカ様がお嬢様に頭を擦り付けても、お嬢様の意識はリンカさんのアホ毛に行っていて嫌じゃなさそうだ。

 ……まぁいっか。

 「みなさんもお酒欲しいですか?」と聞いても反応がないので何か持ってくる必要もなさそうだ。アブソル様が手羽先の骨でお嬢様をじゃらしていたり、楽しそうだし。


 ふと、お嬢様がリンカ様の腕を器用に抜けてこちらに歩いてくる。

 座っていたが何か欲しいのだろうか?

「にゃっ」

 お嬢様はそうとだけ言って私の膝に乗った。そして丸くなってすうすうと寝息を立てる。

「おや? お嬢様眠たかったのですか?」

 リンカ様の「なんか……負けたような……気が……する」と言う言葉に心の中で密かに「負けたのですよ」と返した。


  ●


(ティアラ視点)

「ワシもみなさんの楽しい声でいい睡眠がとれた。また呼んでおくれ、それでは。」

 最後に眩地さんが金色の水の井戸に入る。


「終わったのです……疲れた…」

「お疲れ様です、お嬢様。これで忘年会、終わりですね。」

 魔王城の和室に戻ると、酒瓶とかが散乱していたので、ルピナスと一緒に片付けを始める。

 一部の記憶はないが結構どんちゃん騒ぎしていたなぁと改めて感じた。

 ふと、ルピナスが「お嬢様」と話しかける。

「昨日はだいぶ色々考えてらしたようですが……今回の忘年会、楽しかったですか?

「……」

 結構大変だった。S.A.T.A.N.さんに攻撃されかけたり、リンカさんに抱きつかれたり。

 ……でも、リリィさんとお話ししたり、ダニーさんが笑わせてくれたり、とっても楽しかったと思う。

「……楽しかったです」

 そう言って、笑いかけると、ルピナスも普段より口角が上がっていて笑っているように見えた。



『エピローグ;今を生きる貴方へ私から』

 次の日。おじいちゃんからに連絡か何か来ていないかどうか確認するためにポストを見ると、白い封筒が入っていた。それには、筆記体のような美しい字で『Dear Thiara』と書かれていた。

 自分宛の手紙なんて久しぶりだな、と思って封を切ると中には一枚の紙と、何かが入っていた。

 先に紙を開いてみると、どこかで見たことあるような字だった。

『お元気ですか? ティアラ、大きくなったね。自分よりも大きいすごい魔王たちとちゃんとお話できて、偉かったね。私たちがいなくても、ティアラはできる子だからきっとなんでもできちゃうね。

 それでね、ティアラ。私たちは人間に殺されちゃった。そりゃあ、多少は憎いよ? でもね、仕方ないかな、とも思ってる。モンスターに家族を殺されちゃった人もいたし。

 でも、ティアラは恨んじゃダメ。人間を憎むのは私たちの特権だから。ティアラには、人間を愛して欲しい。私たちができなかった分まで。……なんて、難しい? 今からじゃなくていいから、いつかね。でも勇者はこてんぱんにしてオッケー! チャレンジは正々堂々とね。まぁ、ティアラにチャレンジできることはない気がするけど……

 私は、ティアラが楽しく生きることを望んでるからね!今を生きる貴方へ私から。ほんの少しでも、励ましになればいいなぁ。』

 つぅっと、何かが頰を伝う。

 何かが悲しいわけでもなく、この気持ちは感謝や賞賛の気持ちだ。誰からかは書いてはいないけど、なんとなくわかった。

 中にもう一つ入っていたのはペンダントだった。それはロケットになっていて、中にはお父さんとお母さん、そして私の写真が入っていた。

 「恨んじゃダメ」、かぁ……

 ペンダントを握りしめ、私は城に戻る道を歩き始めた。

 長かったなぁ。(しみじみ)

 こんにちは、吹雪丸です。大変長らくお待たせしました、ようやく投稿です。いや〜、忘年「度」会の時期に間に合ってよかったなぁ〜! 全く間に合ってませんけど、忘年会には。

 前回、「S.A.T.A.N.MkIII」を「MkII」にするという大変失礼なことをやらかしました、本当に申し訳ありません……自分への戒めとして大魔王にやっていただきました。ティアラちゃん、正しい。

 それもあって校閲頑張ったつもりですがやらかし魔なのでなんかやってると思います! 先に土下座させてください!

 まぁ遅れに遅れていましたがなんとか終わってよかったです。

 さて魔王プロジェクトですが企画垢さん(@ Maou_Thiara)で色々やってます。最近はDMグループでなりきりチャットとかね。損はしないと思うので見に来て〜!

 あと多分続編出ます。ティアラちゃんはあの身長のままで終わっちゃダメだ! もう成長後の姿練ったりしてます。フライングですね。今後も魔王さん系はやっていこうと思ってるので! 今回来れなかった方も是非ね!やろうね!

 やっぱりあとがきの方が書けますね。それではこの辺で。

 最後に、参加者様・読んでくださった方。お付き合いいただき、ありがとうございました!

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