80 帰りたい。
朝起きると、ジンジンと頭痛がした。
立ち上がると、貧血からか目の前が暗くなり、見えなくなる。
これでは歩けないので、また再びベッドに座った。
「………はぁ、帰りたい」
意図せず出た本音。言葉にすれば、ますます想いは募る。柄にもなく泣きそうだ。
ああ、帰りたいなぁ。こんなところ、もう嫌。
……早く、ここから帰りたい。
……どこへ?
……ねぇ、私は、どこに帰れば良いの?
家は、だめ。どうせ誰もいない。帰ったところで、寂しさが募るだけ。
王宮も、だめ。きっとあの人たちは、優しくしてくれる。
でもだめだ。私はまだ、気持ちが整理できてない。
何より……
『お前の口利きなら、公爵も無下にはしないだろう?』
『俺たちの婚約は、あくまで婚約だ』
『今度のパーティーは、メルサ嬢をエスコートする』
あそこは私の居場所では、無い。
どうせ私は、仕事仲間だし。
『お前が、好きだ』
………ははっ。冗談でしょ。
不覚にも動揺させられたけど、どうせ、私を縛るための嘘か、はたまた子供の勘違いだ。
どうせ私は、ただの肩書だけが立派な小娘だ。
『アルル、頑張ってね。』
お父様とお母様は、何で急に消えたんだろう。
………あの甘く優しい家にすら、私は捨てられたのかな?
なら、私がここにいる意味は?
『どうせだから糧にすれば良い』
そう、そうだ。
どうせ捨てられたなら……。
どうせ利用されるなら……。
『学校の中では、随分と窮屈そうですよ』
こちらから先に、捨ててしまおうか。
私は所詮、偽善の聖女にすぎないのだから。




