79 私は何を信じれば良いの?
「今は、私の噂についての話をしてたのですよね? なぜ、私の家の話になるのです?」
我慢ならなくて、ついそう言ってしまった。
あー、私は子供か。
昔の記憶だってあるくせに、耐え性のない。
そう思ってると、学園長は溜息を吐いた。
「………君は、子供だ」
「いいえ。私は成人してます」
「ああむろん、法の上では大人さ。だがね、君はまるきっきり子供なんだよ。私からすれば」
「言い返したからですか?」
「それもある。とにかく君は、世の中をわかっちゃいないんだ」
「………世の中?」
「そうだ。君はね、人が横だけで繋がってると思ってるんだ。性善説を信じてるがね。とにかく、浅いのだよ」
「そんなことは言ってません」
だって私は、一度大人になって、死んだんだ。
経験だって沢山あるし、この人より、よっぽどものを知ってる。
そう言い返してやりたいのに、私は黙る。子供のように。
不思議だ。まるで、私が二人いるみたい。
子供の私と、大人の私。
「多角的に見なさい。取り込んで切り捨てるだけが付き合いじゃない」
そんな先生らしい説教は、どこか聞き覚えがあった。
『視野が狭いと、自身の選択も狭まります。短絡的に動かず、広い視野を持って下さい』
………そうだ昔、ザストリアさんに言ったんだ、私が。
そう、わかっていた筈でしょう。短気は損気だと。
なのになぜ。
子供返り?
もう、自分がわからない。信じてた足下が、崩れていくようだ。
私は何を信じれば良いの?
私はこれからどうすれば良いの?
小さな迷い子のような目をしたアルルを前に、学園長は戸惑ったような、優しげな目をしていた。
「……君は、子供なんだよ」
彼は、繰り返しそう言った。