78 私たちのしたいことは?
さて、あの日適当に返事をして以来、非常に厄介なことになっている。
つまるところ、風評被害が酷くなったのだ。
「令嬢が少し突っかかっただけで、泣かせるほど怒った」
「生徒になれなれしい愛称で呼びかけた」
等々、等々………なんだかそれっぽいことを言われ、ついには私の先生としての資質に関わるとまで言われた。
いやぁ………世の中、流されちゃ駄目だね。レミさんとしては、庇ってくれたつもりなのかもしれないけど。
そんなわけで今日、私は学園長に呼ばれた。
「……君に悪気が無かったことはわかってるよ、むろん」
「はい」
「けど、母国のように振る舞うと、君も困ることがあるんだよ?」
んん?
「この北の果てには、お父上の名前も響きが悪い。人手だって足りてるし、君のようないいところのご令嬢が教える必要は無いんだ」
お父様の、名前?
「いずれ、王妃になるんだろう? なら、わざわざ別の国へ来なくても、自国のために尽くせば良い」
………聖女でもあるまいし。
完全なる幻聴だろうが、そう聞こえた。
そう。私は東の国の貴族だ。教師という身分だって一時的なものに過ぎなくて、この人からすれば令嬢のままごとのようなものだろう。言ってることは、正論だ。
私からしたってそうだ。
教師になったのは、人脈作りのため。勉強すら、好きでも何でもない。
本当、私も母国もふざけてる。
私たちのしたいことは、一体なんだ?
そうとすら思っていたのに、まともな脳の側面はそう考えているのに、私は今、ふつふつとした怒りに染まっていた。
「大人しくしててくれれば良い。そうすればきちんと、親元に送ってあげる………」
「黙れ」
気付いたら、声を荒げていた。




