77 し、辛辣。
「サラン様ッ」
「この女が、無礼にもサラン様のお名前を呼んだのです!」
いじめられてた子供が通りすがった親に助けを求めるかのように、ご令嬢たちはレミさんのところに集まっていった。
へぇ、不思議なこともあるもんだ。
この毒蛇みたいな令嬢たちが、誰か人に縋るとは。
というか、なんだかやけに恍惚とした目を向けてる。……可愛らしいレミさんに向けるにはふさわしくないようにも思える。
「……それが?」
どうしたのかと言わないばかりに彼女は首を傾げる。その表情は、まるで純真な幼子のようだ。
「……私はアルル先生に、レミと呼んでと伝えました。そのことで、なぜ無関係なあなたが指図するのです?」
「い、いえ………そのようなつもりは」
「余計な真似は慎んでください。いい加減あなたがたは、分別をつけるべきですよ?」
わ、あ。
笑顔で言ってのけたレミさんに、私は顔が引きつりそうになった。言われた令嬢は、目に涙をためて俯いてる。他の人々も、謝るように俯いてる。
し、辛辣。ていうかレミさん、可憐な容姿のわりに強いな。
いや、だからこそなのかな? まるで女王様のような気位だ。
そんなことを思ってると、クルリとレミさんはこちらを向いた。え、怖い。
「……アルル先生、こういうわけですから、どうか収めて頂けますか?」
「え…………、はい」
そもそも、怒ってた訳じゃないけど、とりあえず返事をしておいた。
………この安請け合いが、後々とんでもないことになるとも知らずにね。




