閑話 北の国を巡る人々[Ⅲ]
長めです。
「♪〜」
ぼうっとしていた。何をするでも無く、まるで途方に暮れているような感覚。そう何故か心が、がらんどうなのだ。
上手くいっているはずなのに、まるで迷路に迷い込んでしまったようで、目を塞いでしまいたくなる。
……私はいつまで歩けば、理想に辿り着ける?
「……かーごめ、かごめ 」
選曲に意図はない。
私はたまに、追い詰められそうになると歌う癖が出る。
「籠の中の鳥は いついつ出やーる」
「……あなたが飛び立つのは、今でしょう?」
ふっと振り向くと、彼女がいた。いつもと変わらないその優しげな微笑みに、例え偽りだとわかっていてもほっとする。
「………アモル」
「あなたが鳥ならば、その羽はきっと黒いものでしょうね」
「……そうかもな」
それも、鴉のような濡れ羽色ではない。中途半端で斑な、老人のような色だろう。
そう、冷酷ながらも偽善に手を染める、矮小にして醜い私にふさわしい。まぁ私は見た目など、何も気にはしないのだが。
「……で、どうした? お前は今日も偉大なる聖女様の布教をしてるんじゃないのか?」
表向き私とアモルは無関係。無邪気な笑顔で聖女の魅力を伝えるというわけだ。
勿論、私も動いている。けれど自分の毒で人を殺したい、わけでは無いらしい彼女としては、聖女によって病気の良・悪が変わるという俗説は、とても都合が良いらしく、とても良く聖女の文化を広めてくれる。
それこそ、私が呑気に歌ってるときも。
「情報が入りました。南の国で戦争が起きるそうです」
「……また、帝国か」
この世界はいつも、どこかしらで争いをしている。その渦中にいるのが、いつも帝国だ。
「はい。……行きます?」
「ああ。南の国に向かおう。いいな?」
全く、帝国はこりない。理解に苦しむ。
でも良い機会だ。北の国はもう随分聖女に染まった。そのうち北の国教会ができて、新しい聖女が生まれるだろう。ならば、次に移るのもまた良いかもしれない。
基本は私に従順な彼女に確認を取った。
「……一つ良いですか?」
「何だ」
「なぜ聖女様は、聖女でいるのですか? なぜ、そこまで聖女に活動に拘るのです?」
「………それは」
わざわざ危険な国に行かずとも、いくらだって身を立てる術はあるだろう。暗に彼女はそう言いたいらしい。
なんで?
私が教会に救われたから。
私が教会を敬愛してるから。
いや、適切じゃない。
「私が、聖女だからかな」
「……は?」
「私は聖女だから、聖女として教会に尽くす。それだけ」
聖女になると決めた。聖女となったときに私は生まれた。だから私は、死ぬまで聖女でいる。聖女として生きる。
そしてその枠の中で、私は歴史に名を刻む。例え黒い羽で舞おうとも、私は自分の信条を貫く。
それが私の、私を救った教会への誠意。
「……そこに、あなたの幸せは?」
私の、幸せ?
一般論なら、出世することとでも言うべきか。
でもそれは違うな。私の目的はあくまで、ボランティアという無謀な挑戦に挑んだ、教会のサポート。
そこに、私の幸せは? どこに加味されると?
「そういえば、わからないな」
そう言うと、固まっていたアモルはやがて笑いだした。そして、ただ頑張ってください、とそう言われた。
「……なら、立派な聖女にならなければなりませんね」
「………まあ、そうだな」
思えばこの時、私は世間を舐めていた。
そう所詮、私は青い小娘だったのだ。
そのしっぺ返しは、痛く、そう、死んですら治らないものだとは、知るよしもなかった。
これから二週間くらい、更新できないかもしれないです。
せっかくこの間まで毎日更新できていたのに、すみません。




