75 籠の鳥はいつ出るか?
「♪かごめかごめ 籠の中の鳥は
いついつ出やる 夜明けの晩に
鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ?」
「………私です」
本当に返事がかえってきて少し驚く。ああでもこの遊びは確か、返事を求めるゲームではなかった筈だ。
そう思いながら後ろを見ると、ドア窓の向こうにいつか食堂で話した少女……レミさんが微笑んでいた
「………歌、漏れていました?」
「そうですね。でもこのあたりは人気が無いので、私のほかは誰も聞いていないと思いますよ」
「そうですか、ならよかっ……」
いや待て。私は一応助けを求める意味で歌ってたんだ。ほぼほぼ自己満足だけど。
「閉じ込められてしまったんですか?」
クスクスと上品に笑うレミさん。馬鹿にされているみたいだけど、彼女の笑い方に邪気は感じなかった。
「そうなんですよ。良ければ、鍵を持ってきて開けてくださいませんか? 確か、職員室の私の机に予備があったので………」
この資料室は一応私の管理区域だ。閉じ込めた生徒が鍵を持っていたとしても、スペアはある。
「嫌だ、と言ったら?」
「仕方ありませんね。時間もないので、窓から飛び降ります」
私としては心底本気だったのだけど、私の回答を聞いて彼女は笑いだした。
「ふふふっ……流石、…………ルラーナ家のお嬢様です。ご安心ください、鍵は既にありますよ。途中で会った生徒さんに、職員室へ返しておくと言えば譲ってくれました。先生、運が良いですね」
「そのようですね。では、開けて貰えますか?」
「ええ………先生」
カチャン、と鍵が開く。時間はギリギリでまにあったようだ。お礼を言って立ち去ろうとしたところで、ふと、という様子で尋ねられた。
「そういえば、何故『かごめかごめ』を歌ってらしたんですか?」
「え………特に深い意味はありませんでした」
ただこう、誰か私の存在に気付いてくれたら良いなー、と思って歌っていただけで。
思ったまま口にすると、彼女はまた笑った。今度は微笑とでも言うような、溢れたみたいな笑みだった。
「……案外、あなたも籠の中の鳥なのかもしれませんね」
「え?」
「……ああ、失礼しました。私たちは窮屈な寮生活なので、意外と先生もそうなのかなって、思いまして」
「いえ、そうではなく………私って、籠の中の鳥に見えますか?」
「どうでしょう?………私はルラーナ先生のことは知りませんが……」
ーー学校の中では、随分と窮屈そうですよ。
囁くように言われた。




