08 愛情の証ですよ。
今日もまた、お城に来ている。
何故かというと…。
「アルル、お茶を飲む時はこう。カップを置くときは音を立てないように置くのよ」
「は、はい。王妃様」
礼儀作法を習っているからです…。
いや、私も一応お父様に、こんなのわざわざお城に来て王妃様に習わなくても、家庭教師を雇えばよいのでは?って言ったんだよ。
でも、王妃教育のことを考えるとお城で一緒に済ますほうが合理的だそうで…。
礼儀作法を一令嬢に教えるなんて、王妃様の仕事じゃないと思う。
ああ、心苦しい…。
「そんなに緊張しなくて良いのよ。まあ、私も初めて先代の王妃様と話したときは、とても緊張したけどね」
王妃様は苦笑なさった。
「王妃様のようなしっかりした女性でも緊張するのですか?」
「あら、私小さい頃は人見知りしていつもオドオドしてたのよ?貴女のほうが大人ともしっかり話せてるし、覚えも良いわ」
「そんなことないです。私、覚えた筈のことも1日たつと忘れるんです。」
「じゃあ、また覚えるしかないわね。」
王妃様は笑って、忘れないようにするコツなどを教えてくれた。
「よお、進みはどうだ?」
話が一段落し、王妃様がゆっくり気をつけて帰るように言って去って行ったところで、入れ替わるように王子殿下が現れた。
「あ、殿下。進みは普通ですけど、王妃様が優しいので記憶に染み込んでいくような気がします。」
「いいなー。俺の母さん、外では優しいんだ。俺にはガミガミ言うくせに」
「怒られるのは、愛情の証ですよ。」
「いや、実際に怒られたらそうとばかりも言ってられないぞ」
殿下は少し考え込むような仕草をした後、手を叩いた。
「そうだ!何なら今から怒られてみるか?」
「は?」
「時間はあるか?あ、王妃教育がまだあるのか?」
「いえ、今日は初回だということで短めで、もう終わりましたけど…」
「よし、じゃあ少し俺に付き合え!」
「ええー、私もう疲れたので家に帰りたいんですけど」
「いいから!」
私は抵抗もむなしく殿下に引きずられて城の奥に足を踏み入れた。
うーん、なんか嫌な予感がするような…。