73 私は何かを忘れている
しかしまぁ、涙に暮れるなんてなんて全く性じゃない。
歓迎されるために北の国へ来たわけではないし、少し考えてみるか。
原点にかえって、身の振り方をね。
まず、私がこの国へ来た理由は、お父様の命令だ。
里帰りするとのことだが、この国で全く接触の無いことを見るに忘れられているか試されているか。まぁ前者はあり得ないだろう、常識で考えれば。
目的は? 取り敢えず、お父様を探すこと。
のこのこと北の国にやって来たものの、私はお父様たちは南の国にいると思ってる。けれど直接向かわず、私がこの国に来た理由は?
お父様の命令だからじゃない。私はそんなに謹み深い女になった覚えはない。
それは、世界を知るためだ。買い売り言葉だった、ということもあるにはあるけど。その点は、無茶苦茶な血筋によるだろう。
人として大きくなるために。
お父様の言葉の真意を知るために。
殿下の言うように、経験を糧にするために。
そして………過去に囚われないために。
聖女の軌跡を辿るために、私はこの国へきた。それは普通の人が勉強することとは、些か質が異なる。
私は今まで生きてきて、何度も過去に囚われ、そのたびに何度も折り合いを着けてきた。けれど今になって、ふと、こう思う。
聖女は、そう大した人間なのかな?
崇められている聖女の絵画を、幼い頃からたまに見た。その顔は確かに、昔の私だった。
でも、でも。私がそんなに凄いことをするなんて、信じられない。
私は、次期国母の身で、とは思うけど自己中心的な人間だ。その性質は、きっと魂レベルのものだと思う。
思う、思うで憶測ばかりだけど、何故かこの理論には揺るぎ無い自信がある。………こんなことに自信を持つ自分が、情けないけど。
………決めた。
私、聖女の動向を調べよう。皮肉なことに、ここは聖女の旅のスタート地点。何か得るものがあるはずだ。
……あの国の王族が聖女の子孫だということと言い、私は何かを忘れている。
そしてそれはきっと、私が生まれてからずっと目を背けてきた………良からぬものなんだろう。




