閑話 北の国を巡る人々[Ⅰ]
凍えるほど寒い、雪で覆われた国。
ああ、帰りたい。自然とそう思って、その後にふっと失笑する。
何処に帰るというんだ。
私には何もないのに。
この国には、否、世界の何処にだって、私のものは何一つない。
………だからこそ、野望を胸にこの国へ来た。
「―――――いたぞっ!」
「追え! っ、このっ、疫病神が!!」
「死んじまえ! 二度とくるな!」
――疫病神?
ふっ、と笑う。なら貴様らは、神に石を投げたというのか?
血まみれに手負わせて、追い返そうとしているのか?
馬鹿じゃないのか。ただ、そう思う。
何をしてもニタニタとしていて逃げもしないのが気に触ったのか、一人がとうとう刃物を向けてきた。
「………何がおかしい。気が触れたのかよ?」
「お前が殺されたところで、誰も悲しまない。いっそ本当に、殺してやろうか?」
「――――」
「あ? なんだよ」
「ビビってんのか? 喋れもしないのか?」
「お前たちが―――」
はあ、と溜め息をつく。
わざわざ言ってやるのも面倒だが、受け身でいるのは趣味ではない。
「……お前たちが何を思って、何をしようと、自由だ。とくに、こんな世じゃな。だが……」
ジロッと目を向けると、すくんだように奴らは引いた。
は、情けない奴らだ。瀕死の女相手に。しかし、まぁ良い。
「私を敵に回せば必ず死ぬことになると、そう思っておけ」
「はぁ?」
「脅しかよ、くっだらねぇ」
「そう思ってくれても構わない。だが一つ言うなら………」
貴様らが患っている病の原因も。
国が傾いているその理由も。
私は全て知っている。
全ては私の手の内なのだ。
「……私は伝説に残る、聖女になる」




