66 そんなことあるか!?
家に帰ると、何もなかった。
もう一度言おう。
家に帰ると、何も、誰も、存在しなかった。
そんなことあるか!? ここ、公爵家なのに!?
人がいないんだけど!
お父様もお母様も、メイドも執事も下働きも、コックも庭師も衛兵も、だぁーれもいない。
そんなことあるか!? せめて衛兵くらいはいてほしかった!!
ていうか、家具がない! これも大問題だろう。
絨毯も机も椅子もソファも、ベッドも本棚も服もない。
…………いやぁ、見事なまでにもぬけの殻だ。どうした?かくれんぼか?
んん………こうも何もないと、確かに衛兵だっていらないかもなぁ………いやでも、だからこそ家そのものを守る必要もあると思うが。
帰ってきてみたら盗賊のアジトにでもなってたらどうする。
ええー……ていうか、私の荷物は? 手ぶらで他国に赴任しろと?
………あ、なんか紙が落ちてる。
ーーー
アルルの荷物はアモルサラン学園の教員寮に送っておいたよ。
ひと月後から仕事始まるそうだから、頑張って。
使用人たちは、ボーナスをあげて無理やり休みにしちゃった。
家具もこちらにあるよ。
里帰りは楽しくて、引っ越すことになりそうだから。
僕とロゼの行き先は秘密。そのうちわかるよ。
北の国でないことだけ教えてあげる。
アルルも早くおいで。親戚たちも、君に会いたいって。
だから、待ってるね? 父様より。
ーーー
教員寮? ひと月後? 引っ越す? 北の国でない? 親戚?
………ふう、ひとまず冷静になろう。私ならできる、急なのは慣れてる………。
えっと冷静になろう。冷静になるときは………羊を数えるんだっけ?
羊が一匹………羊が二匹………羊が三匹………羊が……………zzz。
って、寝てる場合じゃない。現実逃避も良いが、考えろ。
もう、前半は良い。引っ越すというのも悪い冗談だと信じておこう。
お父様とお母様のいる場所は、北の国ではない?
………じゃあ何故、私は北の国に出張?
っというか、ユウラム! ユウラムはどこいったーッ!?