64 どーいうこと?
むかしむかし、慈悲深い聖女さまがいらっしゃいました。
聖女さまは誰よりもやさしく、そして誰よりうつくしいひとでした。
聖女さまは幸せを広めたくて、世界へ旅にでかけました。
寒くて貧しい北の国に、聖女さまは温かい愛を与えました。
戦争で傷ついた南の国に、聖女さまは癒しの涙を与えました。
強欲な東と西の国に、聖女さまは裁きの死を与えました。
そして聖女さまは人々に愛されながら、神の国へと旅立ちました。
聖女さまは最後に、自分の愛した世界を守ってほしいと言いました。
それ以来、人々は聖女さまの願いを叶え、一度も戦争をしませんでした。
「――この聖女様の子孫が、この国の王族?」
「聖女様って、子供いたの?」
んん……聖女というだけあって、みんな無意識に聖女は天涯孤独だと思っていたようだ。まぁ無理もない。驚いたことについて、私はとやかくは言わない。
これを聞いたとき一番驚いたのは、間違いなく私なんだから。
うん。聞き間違いじゃない。
あ、もう一度言おうか?
王族が聖女の子孫だと知って一番驚いたのは、間違いなく私です。
そう。確かに私の記憶が正しいなら、聖女(私)は独身だったし、子供もいない。なんなら相手だっていなかった。
弟子はいたけどあくまで弟子だし、あの子たちを養子にした覚えもない。
どーいうこと?
うーん、私の記憶が間違ってるのか、記録が間違っているのか。はたまた別の誰かが本当は伝説の聖女だったのか。
これについては散々考えたけど、今は気にしてない。
だって私の今回の目標は、好き勝手生きることだからね。
与えられた、そこまで重要でない情報はただ受動的にうべなうのみだ。
……まぁ気になるけどさ。