閑話 幸せになるための途中式
殿下への説明を終えてドアを開けると、そこにはユウラムがいた。
「……またあなたなの!? ストーカーでもやってるの!?」
「煩い。僕は殿下に用事があっただけです」
少し低くなったように感じる声で、彼は淡々と言う。
だが怖じ気づく訳にはいかないので、負けじと言い返す。
「なら追いかけなさいよ! もう行っちゃったじゃない!」
「問題無いです。もう用は済みました」
「はあ!? 話してないのに!? でも、ならさっさとどっか行きなさい!!」
「あなたにも用事はあります、メルサ·カペラ。何故あなたは、殿下に情報を吐く駒として扱われていることに気付かないのです?」
「何言ってんの!? 私は殿下に愛されているの!!」
「…………へぇ。そうやって耐えているわけだ。可哀想に」
その言葉で、彼女は頭に血が登る。
睨み付けても、平然と馬鹿にしたような顔をしていた。
「……何が言いたいのっ!? 私が嫌いなら、関わらなければ良いじゃない!! 言葉で傷つけるなんて、最低!!」
「傷付いたってことは、図星だと認めるわけですね。愛されていると信じることで、おまえは殿下を崇拝する。………おまえも存外、心に傷があるんだな」
「そんなわけ無いじゃない! 私はヒロインなのに!!」
「……おまえにとって、ここは演劇の舞台ですか?」
「そうよ! この世界は、私が幸せになるために生まれた世界なんだから!!」
「傲慢な考えですね、ならおまえは今不幸なのですか?」
「そうよ! 苦労して苦労して、私はやっと幸せを掴むんだから!」
信じる者が、救われる。
だから私は信じて努力し………いつかこの世界でいっとう幸せなる。
それが、私というヒロインの役割なんだ。
なのに何故それが彼に分からないのか、彼女は憤慨する。
「はっ………僕らが住む世界が苦労したくらいで幸せになれるユートピアだったら、ーーーーーーーだろう」
「は?」
まるで理解できないとでも言いたげな彼女が、ユウラムは腹立たしく、羨ましかった。




