61 忘れたいあのとき。
「隣国のアスカラとオストが、帝国に滅ぼされたって」
「知ってるよ。負けると、死ぬまで奴隷以下の暮らしだそうだぜ。………帝国の奴等は、人間じゃねぇな」
紛争地域で手当てをしていると、時たまそんな話が聞こえた。
私はたちまち身体の芯が凍り、足が少し震えだす。
―――やめてよ、もう、やめてほしい。
笑顔を取り繕う一方で、心の私は子供のように泣く。
それをきちんと理解しないと、たちまち心が保てなくなる。
―――どうして自国の人間に優しくできるのに、他国にそれができないの?
決して言葉は、声に出すことができない。
「…………はぁ」
目覚めは最悪。それに尽きる。
………考えてみれば、今の私は出掛けるべきではないのだ。
あれだけ昔、世界中を飛び回った。
まるで今考えると………何かに責め立てられるように。
そこらを見渡せば、すぐに昔は見つかる。
せっかく、少しは昔を忘れられてたのに。
私は自由に生きたいのに。
少し出掛けただけで、あの嫌な日々を思い出す。
徳を貯めたから、前世を覚えている?
ふざけるな。くそくらえ。
前世を覚えていることこそ、本当の地獄じゃないか。
あんな日々、一日でも早く忘れたい。