55 ……いやいや、馬鹿な……
ご無沙汰してます!
「お父様!! 殿下を何とかして下さい!」
「んん? どうしたのかな、アルル?」
いきなりお父様の執務室に突っ込んでいったのに、まるで来ることを知っていたかのように振り向くお父様。……流石です。
「あの人、言うこと成すことムチャクチャなんですよ! それに、お父様までなにか関わっているでしょう! もう、お父様、どうにかしてください!」
「………そうは言っても。まぁ、アルル、少し落ち着いて。お茶でも入れるから、そこに座って?」
……仕事を中断させてまで押し掛けてきたのに、そうも嬉しそうにニコニコされてしまうと弱い。
確かに私も、柄にもなく取り乱してしまったような。
ストン、と大きめのソファに腰をかけて、少し反省をする。
……いやでも、昼間のことを考えれば無理もないよね?
「で、アルルはどうしたのかな? 殿下が、またなにかしたの?」
「ええそうです」
しかも今までで一番酷いやつを。
「ふぅん。じゃあ、どうする? 婚約は解消するの?」
「……狡いですよ、その尋ね方は。そんな極端な話はしてません」
「そうなの?」
「だいたい、そうおいそれと無かったことにできる話でもないでしょう」
「そんなことないよ。その気になれば、明日からだって婚約者はチェンジできるからね」
「………へ? いやいや、相手は王子ですし……」
いや、そもそも公爵家と王家の婚約を、しかも女側が、嫌になったから、なんてどうしようもない理由で無しにできるわけが………
「できるできる。アルルが望むなら、王子を捨てたって、どんな人と付き合ったって構わないよ。もちろん、結婚しなくたって全く問題無い」
「えー………」
「だから、嫌になったらいつでも言ってね?」
そう言ってお父様はニッコリと笑った。
……私はちょっと、お父様を甘く……いや、常識的に見すぎていたかもしれない。
………なんか、ちょっと寒気のようなものが………。