51 ぐうの音も出ない
※おまたせしました。
※長めです。
※殿下視点です。
どこかのんびりした昼下がりのことだった。
俺が王宮の道を歩いていると………あいつに出会った。
「ごきげんよう、殿下。お時間、よろしいでしょうか?」
彼女は穏やかに笑ってそう尋ねてきた。
何故彼女が王宮にいるのかは、定かではない。
どこかで茶会でもあったのだろうか。
偶然出会ったわけでは、まさか、無いだろう。
ならば彼女は、俺にそこそこの重大な話があるのだろうか?
一瞬よぎった嫌な考えに、手を握りしめた。
……何をしてるのか。
自分から、離れようとしたのだろう。
ままならない自分の感情に不快感を抱きつつ、幸か不幸か断る理由も無いので肯定する。
「まず、ビリジアン伯爵の話から、伺わせていただきましょうか」
切り出された話題に、安心したような落胆したような心持ちになる。
しかしこれはあくまで仕事の話なのだ。
思わず溜め息をついてしまったが……取り敢えず、雑念を捨てて彼女に向き直る。
「……所詮、噂を流しただけだから、重い罰にまではならない。まだ具体的には決まってないがおそらく、爵位剥奪が妥当だと思う」
「ふーん、なるほど。なかなか寛容な処分ですね」
「まぁ、な」
国によっては、反逆罪で死刑になるケースもある事件だ。
財産が取り上げられる訳でもないので、腐っても貴族、元伯爵夫婦が不自由なく暮らすことくらいはできるこの処分は、些か甘いのかもしれない。
……精神的な話は置いておいて。
「では、ユウはどうするのです?もともとあの子は、殿下に言われて預かっている筈なのですが?」
笑顔とともにやや皮肉げな口調で言われれば、ぐうの音もでない。
確かにそれをけしかけたのは、俺だ。
だが。認めるのは癪だ。
押し切ってしまえ。
「……後で手紙で、公爵に伝える。それで良いだろう」
俺がそう言った瞬間、空気がピリッと肌に痛みを感じさせた。
それこそ火花が散ったようで、危機感、そう何故か、微笑む彼女から、ゾクッとするほどの身の危険を感じた。
礼儀正しく、姿勢良く向かいのソファに座っている彼女が、足でも組んでいるように思えた。
「――なるほど、なるほど。確かにそれで、ことは全て上手く運びますねぇ。いや、実に合理的です」
………そうだろう。
だってこれは、あくまで仕事。ビジネスだ。
口で彼女に伝えて、それを伝言ゲームよろしく公爵に伝えるのは、確実性に欠ける。まぁ、彼女は、それくらいきちんとこなすだろうが。
だいたい、こんなこと、彼女が知る必要はない。
彼女の口添えがあったとはいえ、世帯主は公爵だ。彼女が知れば情報漏洩のリスクが上がる。メリットもない。
そうだ。
この判断は正しい………筈だ。
「が、あなたは人情というものをまるっきり無視してますね?ご自分がなかなかの人情家であらせられるのに」
彼女にこう言われて、やっと俺は理解した。
彼女は、怒ってる。
それも、今までにないくらいに。




