表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/136

51 ぐうの音も出ない

※おまたせしました。

※長めです。

※殿下視点です。


どこかのんびりした昼下がりのことだった。

俺が王宮の道を歩いていると………あいつに出会った。



「ごきげんよう、殿下。お時間、よろしいでしょうか?」



彼女は穏やかに笑ってそう尋ねてきた。


何故彼女が王宮にいるのかは、定かではない。

どこかで茶会でもあったのだろうか。


偶然出会ったわけでは、まさか、無いだろう。

ならば彼女は、俺にそこそこの重大な話があるのだろうか?


一瞬よぎった嫌な考えに、手を握りしめた。


……何をしてるのか。

自分から、離れようとしたのだろう。


ままならない自分の感情に不快感を抱きつつ、幸か不幸か断る理由も無いので肯定する。





「まず、ビリジアン伯爵の話から、伺わせていただきましょうか」



切り出された話題に、安心したような落胆したような心持ちになる。


しかしこれはあくまで仕事の話なのだ。

思わず溜め息をついてしまったが……取り敢えず、雑念を捨てて彼女に向き直る。



「……所詮、噂を流しただけだから、重い罰にまではならない。まだ具体的には決まってないがおそらく、爵位剥奪が妥当だと思う」


「ふーん、なるほど。なかなか寛容な処分ですね」


「まぁ、な」



国によっては、反逆罪で死刑になるケースもある事件だ。

財産が取り上げられる訳でもないので、腐っても貴族、元伯爵夫婦が不自由なく暮らすことくらいはできるこの処分は、些か甘いのかもしれない。


……精神的な話は置いておいて。



「では、ユウはどうするのです?もともとあの子は、殿下に言われて預かっている筈なのですが?」



笑顔とともにやや皮肉げな口調で言われれば、ぐうの音もでない。

確かにそれをけしかけたのは、俺だ。


だが。認めるのは癪だ。

押し切ってしまえ。



「……後で手紙で、公爵に伝える。それで良いだろう」



俺がそう言った瞬間、空気がピリッと肌に痛みを感じさせた。


それこそ火花が散ったようで、危機感、そう何故か、微笑む彼女から、ゾクッとするほどの身の危険を感じた。


礼儀正しく、姿勢良く向かいのソファに座っている彼女が、足でも組んでいるように思えた。



「――なるほど、なるほど。確かにそれで、ことは全て上手く運びますねぇ。いや、実に合理的です」



………そうだろう。

だってこれは、あくまで仕事。ビジネスだ。


口で彼女に伝えて、それを伝言ゲームよろしく公爵に伝えるのは、確実性に欠ける。まぁ、彼女は、それくらいきちんとこなすだろうが。


だいたい、こんなこと、彼女が知る必要はない。

彼女の口添えがあったとはいえ、世帯主は公爵だ。彼女が知れば情報漏洩のリスクが上がる。メリットもない。


そうだ。

この判断は正しい………筈だ。



「が、あなたは人情というものをまるっきり無視してますね?ご自分がなかなかの人情家であらせられるのに」




彼女にこう言われて、やっと俺は理解した。


彼女は、怒ってる。

それも、今までにないくらいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ