48 私のこと?
「殿下と婚約破棄してくださいよ、先生」
カペラさんがそう言ったのは、ビリジアン伯爵を断罪した日の話だった。
彼女の言うことはいつも突拍子が無いが、今回は酷い。
というか、会うたびに度が過ぎていくような気がする。
「………どういうことでしょうか、カペラさん?」
捉えようによっては不敬罪になるようなことを言われれば、私が担任として気分が悪くなるのも無理はないだろう。
ニコニコと邪気の無い笑顔を向けられた私は、気が滅入りそうになる。
「そんまんまです!だって先生、彼を愛してるわけではないんでしょう?義務で付き合ってるって感じ、プンプンしますし」
「……どういう意味ですか」
「だ、か、ら、私は分かるんですよ、そういうの。学校での見栄の張り合い、私はたくさんみてきたんで」
……学校?
「あっ、じゃなくて、あの、下町で!」
私は下町に疎いからよくわからないけれど。彼女の言葉が、何故か不快に響く。
「とにかーく!私は一応先生に恨みも無いし、穏便にいこうと思ってるんですよ。私は殿下、先生はあのインテリ。これぞwin-winですよ!」
インテリ……とは、ユウのことだろうか?
うぃんうぃんというのはよくわからない。
彼女の言葉はいつも理解し難い言葉が混じるけれど、今回ほど理解出来ないことも珍しい。
「悪役令嬢にこの温情……まさにヒロインって感じ!」
……悪役、令嬢?
私のこと?
彼女はもう、自分の世界に浸っている。
いや、それはいつもだけど。
私は令嬢であることは間違いない。
けれど、悪役だとは知らなかった。
そう、か。
悪役。
悪。
人の世界の幸せを受け入れず、自分好みに作り替えた私。
今だ愛が分からず、馴染みきれない私。
淘汰されるべき存在、これぞ”悪”。
至言だ。なるほど。
聖女と言われた私は、悪だったのか?




