46 それは!?
遅くなって、本っ当に申し訳ありませんでした!
「ビリジアン伯爵。貴方が国王の不正の噂を広めた。間違いありませんね?」
殿下が伯爵に尋ねる。
伺ったユウの顔は……いつも通りの、無表情。
肉親に対してここまで非情でいられるユウは、私でも少しゾッとする。
「待ってください、殿下」
声をあげたのはビリジアン伯爵。でも、切羽詰まった感じは無くて、むしろ余裕そうな貴族らしい笑みさえ浮かべてる。
「私がそのような真似をして、何の得があると言うのです?」
「貴方、最近はとても羽振りが良いようですね。その服は流行の最先端のものだし、屋敷もこの間増築したそうで」
「ええ、そうですね」
「だが、一方で貴方の家に跡継ぎはいない。一人息子の筈のユウラム殿も、公爵家に養子に出してしまった。まるで、家が今代で途切れても良いとでも言うかのように」
「……過言ですよ、それは」
「そうですか。では、これは?」
貴族らしい笑みを崩さない伯爵へ殿下は一枚の紙を掲げた。
それこそ、私たちが一年かけて、追い求めていたもの。
「……何故、それを…」
伯爵は息を飲んだ。周りの人々も固まって、全員の目が殿下の持つ紙へ向く。
「……王妃様の、肖像画…!?」
誰かが、思わずといった呟きを漏らす。
ちなみに、この国では王族の絵を持つことは基本的に許されない。王族の婚約者だとかそういった特殊な事情がない限りは不敬となる。
しかも、その肖像画に写る王妃様は私の知る姿ではない。
あどけなさが残る、十五・六歳くらいのもの。
「貴方と母上は、幼馴染みだ。幼き頃は、仲も良かったと聞きます」
「……」
「貴方も、昔は有望な青年で。しかし、母上が父上……国王と結ばれてからは貴方には黒い噂が付いて回るようになった」
「………それは」
「……貴方は、母上に思慕の念を抱いていたのですね?」
殿下は問いかけるようだけど、否定を許さない断言するような口調でそう言った。
ビリジアン伯爵は、肖像画を突き付けられた衝撃が抜けていないようで、少しも動かずにただただ目を見開いて固まるばかりだった。
待たせたのに結構アレだとかは、言ってはいけない。