閑話 僕は初め…
ユウラム視点
僕は今、無駄に広い王宮を歩いている。
学会に参加するためだ。
僕が今の家にやって来た理由は、色々ある。
ただ、それはこの場で語る必要はないから、伏せておく。
とにかく僕は、数ヶ月前にこの家にやって来た。
僕としては、あのろくでもない家から出られただけで満足だった。
そんな僕が変わったのは、アルルベッド様ことアルル姉上が原因だった。
僕は初め、あの人が嫌いだった。
なぜなら、あの人はとても恵まれた人だったからだ。
昔に比べると身分の重さは軽くなったらしいが、それでも無いことはない。
そんななかで、公爵家という王族の次に偉い家に生まれて。
優しい大人たちに甘やかされて育って。
だから、僕はとんでもなく心の醜い嫌な女なんだと勝手に思っていた。
今思えば、ただの嫉妬だ。
アルル姉上は、よそ者である僕が家に入り込んでも、全く無反応だった。
暫くの時間がたっても、態度は変わらない。
広い屋敷のお姫様が、自分のテリトリーに他人が入ってきて、何の関心も持たないなんてことがあり得るのだろうか?
最初の間は、それが疑問だった。
しかし、観察を続けるにつれて、あることが分かった。
なんというか、彼女は人というものに本当の意味では関心を寄せていないのだ。
そのことに、何故なのか疑問が深まると同時に、妙な親近感が沸いた。
ふと、彼女が最初の時に"同族嫌悪"と口走っていたのを思い出す。
あのときは、恵まれた令嬢が何を、という怒りが先に来たが、確かにあの言葉は的を射てるのかもしれない。
それを確信したのは、具合の悪そうな姉上を介抱したときだ。
姉上は、僕の家族について触れてきた。
僕は心の中で笑んだ。
ーここで、僕の本音を溢してしまおう。
それは、何年も心に秘めていたことだ。
もし、否定されれば、そのとき僕は彼女に幻滅するだけだ。
もし、肯定されれば、そのとき僕は彼女に……。
それとなく、何気ない言葉で僕は胸の内を吐露した。
結果は、どうだ。
彼女は僕に、心を開いた。
僕も彼女に、心を開けた。
彼女は僕に話をした。
その話を聞いているとき、僕は頭の片隅でこう思った。
………ああ、依存とはこうして起きるのだろう、と。




