36 良いんじゃない?
「…はぁ。」
意図せず、溜め息が出た。
「…何処か行きたい部屋とか、あります?」
一応、聞いてみた。
「…無いです。 そもそも、僕はどんな部屋があるのかも知りません」
男の子、ユウラム君は呆れたような顔をして言った。
…ああ、そーですか。
ええ、ええ、確かにそうですね。
「…じゃあ、適当に案内するので、適当についてきて下さい」
そう言って私は歩き出した。
あれから1時間ほど。
会話らしい会話は殆んどない。
…私は案内の過程でそれっぽく説明はしているんだけど。
ユウラム君は、相槌すら打たずに無表情でついてくるだけだ。
「貴方は…」
「ユウラムで良いです」
「…ユウラムは、好きな事とか物とか、無いのですか?」
「何故ですか?」
「あまりにも案内に反応を示さないもので。」
「少なくとも、このような場面で子供らしくはしゃぐのは、面倒ですね」
「…じゃあ、私も暇ではないし、もう終わりにしましょうか」
「アルルベッド様の両親に言い付けられた以上、その判断は社会人としてどうかと思いますね」
…今、この子の発言から、イラッとしたと同時に、ハッキリとした物言いに気が合いそうだと思ってしまった自分が嫌だ。
「…私のことは、姉として呼んでもらって結構です」
「…姉として敬った結果、アルルベッド様と呼ぶ結論に至りました」
「嘘ですね。恥ずかしいだけではないですか?」
「…貴女、歯に衣着せて話せって言われません?」
「どうでしょう。自分では、正直者の類いだと思っているのですが」
「…それは、性質の悪いことですね」
「ユウラムも似たようなものではありませんか」
私の言葉に、今度はユウラムが溜め息をついた。
「…分かりました。 では、アルル姉上で如何でしょう」
「良いんじゃないでしょうか。 …では、これから宜しくお願いします」
「…あまり宜しくしたくありませんが…」
「同族嫌悪ですね。 私を言い負かせるように頑張って下さい」
「…」
ユウラムは、心底嫌そうな顔を私に向けてきた。
…何にも興味無さそうな達観した無表情よりも、その方がよっぽど良いんじゃない?
私は彼に見えないようにこっそりと笑った。