35 押しに弱いのか…?
「ただいま帰りました」
今は夕方。
私は、仕事が終わって家に帰ってきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
玄関ホールには、何人かのメイドさんが並んでいる。
「お嬢様、ご帰宅したばかりで恐縮ですが、旦那様が一息をついたら書斎に来るようにと仰られていました」
…十中八九、あの件だろうな。
「分かりました」
さて、私は今一息ついてお父様の書斎に向かっている。
…お父様の書斎に向かう時は、だいたい面倒事の始まりだったけど…。
まあ、今回は用件が分かっているだけマシだ。
コンコン
「失礼します」
「はい、どうぞ」
扉を開けると、お父様とお母様、それに私より少し小さめの男の子がいた。
「アルル、この子が今日から僕たちの家族になる子だよ」
やっぱり。
恐らく、この子はこの間殿下が私に預かるように頼んだ子だろう。
私の勝手な予測だが、政治的な話が絡んでいるのだと思う。
「…ユウラム、です。」
男の子は無表情でそう呟いた。
「あらあら、貴方はもうこの家の子なのよ? ド・ルラーナと名乗ってほしいわ!!」
お母様が瞳をキラキラさせてそう言った。
お母様、常々男の子も欲しかったって言ってたもんなぁ…。
…その後、慌てて女の子も大事よって言ってたけど。
「…ユウラム・ド・ルラーナです」
男の子は渋々といった形で名乗り直した。
「良くできました。…アルル、この子はアルルと一歳違いだ。年も近いし、仲良くしてあげてね」
「分かりました」
「そうだ、アルルちゃん。今から、この屋敷を案内してあげたら?」
お母様は、仲良くなるチャンスよ!と、拳を握った。
…お母様、その、悪意の無い笑顔が、眩しいです…。
「…そうだね、行っておいで」
まさかの鶴の一声!
…お父様? あの、何をお考えで?
しかし、いつぞやのように私は雰囲気に流されて、男の子と一緒に書斎を出てしまった。
…私、もしかして、押しに弱いのか…?