33 …元気だな。
私が少しやりきった思いで職員室への道を歩いていた時だった。
前方から、ピンクの塊が猛スピードやって来た。
…自分で言っていて意味が分からない。
何だ?
と、考えている間に私の目の前でキキーッと急停止した。
よく急停止したものを見てみるとそれは…。
入学式の時に倒れ、この間苛められていた、あのピンク髪の…。
「見つけたああああぁぁぁ!」
…元気だな。
止まった途端に叫んだ彼女を見てそう思った。
うーん、この間からの印象から勝手に儚い感じの子だと思ってたんだけど。
まあ、元気なのは良いことだ。
「どうしました、カ…」
「あんた、なんのつもりなの!? 先生になってることは大目にみてあげたけど、私のイベントをことごとくも止めて! さては貴女も日本人ね! 悪役令嬢のざまぁを狙ってるのかも知れないけど、ひとつだけ言わせてもらう!!」
凄い勢いだ。
口を挟む隙が全くない。
「"なろう"で、もうそれはやり尽くされているのよ! 私たちみたいな万流役者がやったところで、ただの出涸らしにしかならないわ! 見てみなさいよ、あの名作たちを!!!」
「あのー?」
「良い!? 時代は、一周回ってヒロインの時代よ! しかも、思い出したタイミングが、学園の入学式!! これはもう、神が私に小説家になれと言っているとしか思えないっ!!」
彼女は言い切ったように指を天高く上げて、肩で息をした。
「えっと、何のお話だったのかよく分からないのですが…」
彼女の演説が終わったようなので、説明を求めてみる。
すると、彼女は目を剝いた。
…怖いよ…?
「どうしました…」
「なんってこと!! まさかの無自覚悪役令嬢!! これは厄介! …あ、でも、ということは、この女、先の展開を知らない!! 良いわ良いわ! 世界は私に傾いてる!!」
「あのー? 大丈夫ですかー?」
「こうしてはいられない! こうなれば、時は一刻を争うわ!」
嵐のような少女は自分の世界に入ったかと思うと、ガバッと顔を上げて走りだした。
「推しゲットの旅へ、いざ、出陣っ!!」
最後に遠くで叫ぶのが聞こえた。
…何だったんだろう。




