32 少し良いですか?
あくる日から生徒さんたちの私への態度が変わった。
というか、あからさまに女子が私に冷たくしている。
…うーん、わざわざ友達作るためにここで先生やっているのに、これは不味いかなぁ?
今のところ、実害は出てない。
まあ、これは彼女達の選民意識のお陰かな。
私、これでも公爵令嬢だし。
…もとはといえば、私が古くさいと指摘した選民意識に救われるとは。
…いや、その選民意識のせいでこんな事態になった訳だけど。
取り敢えずなんにしろ、このままにすることは出来ない。
もし私がただの一生徒だったら適当に放っておいて、仲良くできる子と仲良くなるところだが、先生である以上、そんなわけにはいかない。
教室の男の子たちが困っている感じだし。
…男の子、弱すぎだろって話は置いておいて。
…いや、女の子が強すぎるのか…?
とにかく、このままにしておくのは下策だ。
第一、この事態が私に甘いあの家族に露見したら…。
うん、事は急を要するぞ。
「ザストリアさん、少し良いですか?」
私は思いきってあのリーダー格の子に話し掛けてみた。
…いや、何も考えず呑気に話し掛けた訳じゃないよ?
一応、相手の情報も調べたし。
彼女は、アトリア・ド・ザストリアさん。
侯爵家のお嬢様だ。
私と同じく、まあ、家で甘やかされて育ったから、少しプライドが高めらしい。
でも、家での家庭学習はそこそこ優秀。
その他、色々調べた結果気付いたこと。
この娘は、良くも悪くも真っ直ぐだ。でも、馬鹿な訳じゃない。
だから、話せば分かるタイプだと、私は踏んだのだ。
「…なんですか?」
彼女はなつかない猫のような目を向けてきた。
「ちょっと話がありまして」
今は放課後。
私は比較的、自由が効く時間だ。
そして、都合良くあの時の女の子たちが残っている。
私と彼女のやり取りを、それとなく耳に入れてくれれば幸いだ。
「私は、この間の言葉は、後悔してません。言った事は、全て本心からの言葉なので。」
「…はい」
「ただ、思ったことをストレートに言い過ぎたなぁ、とは思っています」
「…え…」
「だから、そこは謝ります。すみませんでした」
「ッおやめください! 先生が、未来の王妃が一令嬢に謝るなど!」
私が深々と頭を下げると、令嬢は焦りだした。
「悪いと思ったら、謝ったほうが大抵の場合は楽になれます。私は今、謝罪を言葉にしたことで、心が軽くなりました。…さあ、貴女はどうします?」
「…私は、間違ったことはしてません。この学園に平民が来ることは間違っています。」
「…そうですか」
「ただ、…私の軽率な行動のせいで、教室の空気を悪くしたことは、正しくなかったと思っています。」
「…成る程」
「…」
「…今言うべきではないのかとは思いますが…貴女の意見をはっきりと言うところは、社会に出ても重宝されると思います。ですが…」
「…私は…」
「生まれで差別することは、最善ではありません。親は親、子は子です。祖先がどれだけ優れていても、潰れた家だってあります。だからこそ、本人を見るべきだと思います」
「…」
「視野が狭いと、自身の選択も狭まります。短絡的に動かず、広い視野を持って下さい」
私はそう言って、教室を出た。
彼女に言葉が響いたかは分からない。
所詮、私の意見でしかないから。
でも、思いの丈は全てぶつけた。
この先どうなるかは、彼女たちと私に期待かな。




