31 …あ、言い過ぎたかも。
さあ、夜が明けて。
今日も元気に学園にやって来ました。
昨日は色々とあって、ゴタゴタしたまま解散になったけれど。
今日こそは、頑張るぞ!
…今日は何もないよね…?
そんなことを考えながら、私は自分の学級の扉をガラッと開けた。
「おはようございます」
「…おはようございます」
んんん?
どうしたんだろう。
開ける前はざわついていた教室が、私が扉を開けた瞬間に静まり返った。
女の子たちが一ヶ所に集まってこちらを伺っている。
気になって集まっている場所の中心を覗きにいくと…。
昨日倒れたピンク髪の少女が目に涙を溜めていた。
「何をしているの?」
「あ、あの、これは」
リーダー格っぽい子が私に尋ねられて焦ったように目を泳がせた。
「…何をしていたの?」
私が少し口調を強めると、取り囲んでいた女の子たちは、怯んだように固まった。
「ッ…この子がっ…ここは貴族の学園なのに、こんなただの庶民の女が潜り込んでいるからっ!」
一人の気の強そうな子が絞り出したように喋り出した。
「先生だって、公爵令嬢ですよね!?こんな、こ汚い女を教えるのなんか、嫌ですよね!?」
小汚ない?
苛められていた少女を見ても、特に汚れた様子はない。
…あ、もしかして、服装のことでも言っているのだろうか?
この学園は私服だから、目の前のピンク髪の少女が着ているような平民らしい服装は、令嬢にとって馴染みがなかったのだと思われる。
でもさ。
「別に汚くはありませんよ?」
「…は?」
「彼女は、貴女たちのようなレースや宝石が使われているような豪華な服を着ている訳ではありませんが、きちんと洗濯された綺麗な服を着ています。」
「ッそうではありません!私は、この選ばれし貴族の通う学園に平民が混じっていることがおかしいと申し上げているのです!」
「まあ」
私はつい目を丸くしてまじまじと反論した女の子を見てしまった。
「この学園は別に貴族だけしか通えない訳ではありませんよ?」
まあ、確かにこの学園の学費はかなり高めだが、平民だって入ろうと思えば入れる。
「というか、貴族だから平民だからという考えは、かなり古くないですか?」
前世の世界に貴賤がなかったからこう思うのかもしれないが。
実際、この世界は、貴族というものもあるが、昔の名残みたいになりつつあると思う。
「な、なな、何を!」
私の言葉を聞いて、少女を苛めていたらしき女の子たちは、顔を真っ赤にした。
それを見て私は思った。
…あ、言い過ぎたかも。
…ええい、こんなときは逃げるが勝ちだ!
私は手をパンパンと叩いた。
「とにかく、そんなことより、もう授業の時間です。さっさと机について下さい」
私の呼び掛けによって我に返ったらしき女の子や遠巻きに見ていた男の子たちは、ノロノロと机についた。
…数人の生徒さんたちはまだ、怒りが収まっていないようだけど。
……わあ、凄い目でこっち見てる。怖い怖い。
後々面倒が起きるかも、と不吉なことが頭をよぎったが、起きたら起きたでその時考えれば良いかと思い直した。
そのまま真っ直ぐ教卓に向かった私は、苛められていた少女の呟きを、全く聞いていなかった。
「…なんで折角のイベントを、悪役令嬢が仲裁するワケ!?
ここでは、攻略キャラの殿下がカッコ良く出てくるところなのに!
しかも、高慢ちきなはずの悪役令嬢が何故か先生になってるし!
このバグ、酷すぎる!折角、乙女ゲーのヒロインになったのに!!」