閑話 密談
第三者視点
コンコン
「こんにちは~」
「…こんにちは」
ここは、ある王宮の一室。
日が傾きかける時間のことだった。
「何故、私がここにいると…」
「何となくかな?」
何となくという返答が彼流の冗談だと気付き、部屋の家主は溜め息をつく。
「公爵は、本当に知らないことなど無いんじゃないですか?」
「王子殿下にそう言って頂けると光栄ですね」
張り付けた笑顔で語る彼ーーー公爵は、了承を取らずに殿下の前のソファに座る。
それは、公爵にとって殿下がまだ取るに足りない存在だと思われていることへの示唆に他ならなかった。
「…ご足労頂き、ありがとうございます」
「僕の姫様に言われちゃあ、来ないわけにはいかないよねぇ」
公爵はそう言って促すように殿下を見た。
「用件は…ご想像の通り、例の件です」
「何のことかな?」
相変わらず食えない人だ。殿下はそう思った。
「伯爵家の息子の件です」
「僕のところの分家の?」
「はい」
のらりくらりと返答をするくせして、顔色は面を被ったように変わらない公爵が、まだ若い殿下には不気味でしかなかった。
「あの子は、可哀想だよね。頭が良いのに、あの当主のせいで、ろくな扱いを受けていない」
「…はい」
「うん、あの子なら家に招いても構わない」
「…っ! 本当ですか!」
「ほらほら、駄目だよ。密談するような相手に感情を見せるのは拙い」
「…そうですね」
彼とて、見知らぬ相手との密談でこのような下手は打たない。
だが、子供の頃から付き合いのある、延いては義父になるような相手に警戒を続けられるほど、彼は大人に成りきれてはいなかった。
「…にしても、よくあんなに仲良くなったものだよね」
「…は…?」
「君のことだから家から言い渡された許嫁なんて、適当に無視すると思ってたよ」
ギクリ。彼の心情はこれに限る。
「本当に僕のお姫様は凄いでしょ?」
彼の娘自慢なんて今に始まった訳じゃないが、彼にとってこれは同意しない訳にはいかなかった。
「…ええ、…そうですね」
殿下の返事を聞いて、公爵は面を外し、親の顔で満足そうに笑った。