30 おやすみなさい
入学式の後、新入生はホールに集められて明日からの説明を受ける。
私は、倒れた少女のことが気になりつつ、生徒さんたちに軽く自己紹介をした。
その後は、特に仕事もなかったので、お開きになった。
私は家からの馬車に乗り込んで、家路についた。
そして夜。
私は寝る支度を整えて、お父様の書斎に向かった。
コンコン
「失礼致します」
「どうぞ」
お父様には、メイドさんを通して訪ねることを伝えてある。
扉を開けると、机に向かって仕事をしているお父様が目に入った。
「…すみません。お忙しい中、お邪魔します」
「大丈夫だよ?僕にとっては寧ろ仕事が邪魔な位なんだから」
…相変わらず、とても私に甘い。
これで、外では王子殿下も怖がる仕事の鬼なんだから、驚きだ。
「それで、アルルはこんな時間にどうしたのかな?僕以外の男、いや人間の下にこんな時間にそんなに可愛い格好で訪れたら、駄目だよ?」
「それでは、私はお父様以外の方の下にお嫁にいけませんね」
私は思わず苦笑する。
「今日はお願いがあってやって来ました」
お父様は笑みを深めた。
「なにかな?」
「単刀直入に言うと、"子供を預かって貰いたい"だそうです」
「アルル自身からのお願い事じゃないんだね?」
「ああ、そうですね。正確には、"子供を預かりたい"ですね」
「アルルの本心はどう?」
「…さあ?私に難しい話は分かりません。」
私は何も伝えられてないことを仄めかしておく。
「だから、…あんまり、怒らないであげてくださいよ?」
あのときは、感情が先走ってしまったけれど。
使えるものは何でも使うその姿勢は、王子として正しいと気付いたから。
「…なんのことかな?」
「何でしょう?私はもう、眠くて忘れてしまいました。」
そういうと、お父様はいつものように笑った。
…うん、仕事の顔よりも私はこのほうが好き。
「アルルは昔から寝るのが早いもんね。無理しないで、もう寝なさい」
「はい、お父様。おやすみなさい」
「おやすみ」
私はカチャリと丁寧に扉を閉め、自室へ向かった。
「アルルは、いつの間にか大人になってしまっていたなぁ…」
だから、お父様がそう言って少し寂しそうな顔をしていたことを知らなかった。