29 あ、しまった。
「1ーA担任、アルルベッド・ド・ルラーナ」
「はい」
今は入学式の最中だ。
私ははっきりとした声を出して席を立つ。
「1ーA、出席番号一番△△△、二番◇◇◇◇、」
新入生の名前を呼んでいく。
「1ーB担任、○○○○○○」
「はい」
続いて、B組。
私と場所を入れ替わり、B組の担任の先生が新入生の名前を呼ぶ。
一学年百人にも満たないから、2クラスしかない。
ちなみに、殿下は二年生の担任だ。
…年上の担任なんて、大変だなぁ。
「続いて、校長先生のお話」
ああ、これ長いやつかも。
…うーん、余計なことばっかり考えてるけど全然終わらないなあ、入学式。
私は王妃教育で培った、熱心に話を聞くフリをしながら別のことを考える技術を駆使してさっきの出来事を自然とぼんやり思い出していた。
殿下は、私に子供の件をお父様に口利きしてほしくて私を昼食に誘ったのだと気づいたとき、何故か頭に血が上り、口がキツくなってしまった。
子供じゃあるまいに。
何をやっているのだか。
そんなことを反省していたときだった。
バタッ
誰かが倒れる音がした。
貧血?
いや、違う。
音がしたのは、座っていたはずの新入生の方だった。
慌てて顔を向けると、ピンク色の髪の少女がダラリと床に横になっている。
…その倒れ方を見るに…。
ある可能性が頭をよぎると、考えるよりも先に身体が動いた。
真っ先に飛んでいき、まず脈と息をみた。
…良かった、ただ気絶しただけだ。死んではない。
駆け寄ってきた男性の先生方に倒れた少女の身を預ける。
「脈はしっかりしてますが、意識がありません。保健室よりも、専門の医療機関のほうが良いと思います。保護者の方にも連絡しましょう」
「え…あ、はい」
そういった後、呆気にとられていた先生方を見てハッと気付く。
あ、しまった。
つい、前世からの癖で。
…んー、普通のご令嬢はこんなときパッと動けないよねぇ。
…まあ、いっか。人命が一番だよ、うん。
私がそう考えてた間に倒れた少女は私の指示に従って運び出された。
私は新入生担任だから、ついていくことは出来ない。
取り敢えず、一段落ついたところで入学式は再開された。
私は自分の席に戻ったところで少女の座っていた席を見て、やっと気付く。
…あの娘、私のクラスの子だ。