28 私に頼むんですか?
「…で、話とは?」
目の前のテーブルに並ぶ二つのコップから、白い湯気が浮かぶ。
殿下は静かにコップを持ち、一口飲んだところで息を吐いた。
「お前は、せっかちだな。食事後に一息つく時間も与えてはくれないのか」
殿下は呆れたような顔をした。
「そういう性なんです。次の予定も差し迫ってますし。」
話を中断したあとは、他愛ない話しかしていない。
いい加減本題が気になる。
「はあ、仕様のない奴だ。まあ、良い。お前を誘った要件はだな…」
殿下は少し躊躇うような様子を見せた後、口を開いた。
「…お前に子供を預かって貰いたい。」
「…は…?」
子供…?
「殿下の、ですか?」
一拍おいて、殿下が噎せた。
「ゲホッ、ゴホッ……んな訳、あるか!」
「…あ、…ですよね。」
…少し、驚いたよ…。
「じゃあ、何処の子ですか?」
「…真っ先に聞くところはそこなのか……身元を明かすことは出来ない。」
「…何故?」
「本人が望んでいないからだ」
「…成る程。」
私は背もたれに身を預け、無意識に腕を組む。
「何故、私に頼むのか…私に自活能力は有りません。私が面倒を見るとしたら、必然的に公爵家で面倒を見ることになります。よって、お父様を通さねば返答は出来かねます。」
なのでまずはお父様に問い合わせて下さい…そう言い掛けたところで殿下は言い募った。
「それは、そうなんだが…だが、公爵に………お前の口利きなら、公爵も無下にはしないだろう?」
「お父様が怖いから、私に頼むんですか?」
「…そんなことは言っていない。ただ、王家から公爵家に頼むとなると、色々面倒が生じる。俺からお前にプライベートで頼んだとなれば、難しいことは何もないだろう」
「…そうですか、政治的な問題に私を巻き込んでおいて、詳しいことは何も話さないと?」
「っ今は話せないだけだ!…時が来たら話す!」
その言葉に何処かがスッと冷えていくのを感じた。
「…分かりました。私が橋になれば良いんですね」
「引き受けてくれるか!」
「ええ」
所詮、仕事だ。
何も難しくない橋渡しだ。
私たちはそのまま店を出て、学園に向かって歩き始めた。
道すがら、殿下は子供の件の話をした。
私は、お父様に話をするだけで良いと。
来たとき長かった道は、存外短いものだった。




