27 というと?
「…あー、疲れました。」
「まあ、少し歩いたからな」
「少し、という距離ではありませんでしたよ」
「そんなに遠かったか?」
「…距離的にはそんなにないでしょうけど。貴族の令嬢にとっては遠かったです」
私はお店に着いて注文をした後、料理が来るまでの間、愚痴をこぼしていた。
確かに、時間的にはそこまでたってない。
ほんの二十分ほどだ。
でもね。
今世のお嬢様の私には、それでもキツいんだ。
前世では、五時間六時間も平気であちこち歩いてたけど…。
今は、遠出するときは馬車なんだ…。
「これくらい歩いただけで疲れてて、先生になって大丈夫なのか?」
「…ですね。なんか、不安になってきました」
ああ、こんなところで甘やかされて育ったツケが。
…いや、人のせいにするのは良くないか。
「まあ、そのうちなんとかなりますよ。…ところでここのお店、沢山歩いた甲斐あって、良い雰囲気ですね。」
奥まった所にあるにも関わらず、廃れてる訳でもない。
家庭的なあたたかさと程よい品のよさを揃えている。
「…相変わらずマイペースな奴だな…この店は都から外れているから、特別有名な訳じゃない。が、王宮で仕事する奴でもたまに通っている。俺もそいつらから教えられた。所謂、知る人ぞ知る名店ってものだ」
「へぇ。やっぱり、料理が美味しいんですか?」
「それもある。しかし、理由はそれだけじゃない。」
「というと?」
「ここの店は、客席の作りによって他の客の話が聞こえないようになっている。つまり、人に知られたくない話をするのにもってこいなんだ」
成る程。それなら、王宮の人間が重宝するのも分かる。
「…てことは、私にも内緒話があって呼んだんですか?」
「…まあ…そうなるな」
「失礼致します」
私が話の続きを聞こうとしたところで、注文したメニューがテーブルに届いた。
「…話は食事の後で良いだろう。」
「…そうですね。冷める前にいただきましょう。」
私たちは話を中断して、食事を始めた。
…殿下の話はなんだろう。




