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26 私、知りませんでしたよ?

ああ…疲れた…


私は今、入学式の仕事を終えて自分の机に座っている。


…長かった。


本当、それ先生の仕事なのって内容が盛りだくさんだった。

確かに私、新入りの下っ端だけどさ。


一応、公爵令嬢なんだ。

腐っても、お嬢様なんだ。


椅子並べとか、木鉢並べとか、そういう体力仕事はしたことなかったんだ…。


ああ…疲れた…


「おい」


…んん?


「なんですか…殿下…?」


私はしぶしぶ顔を声のした方、つまり王子殿下に向けた。


「お前、昼食はどうするんだ」


…昼食…今は正午過ぎで、入学式一時間前には戻らなきゃいけないから…


「外で適当に食べます」


本当は家に帰っても良いんだけど、面倒だから却下。

それに、この学園の近くには飲食店が沢山並んでるからね。


「相変わらず、貴族らしくない奴だな」


殿下はフッと笑った。


「じゃあ、俺と一緒に来い」


「え」


「なんだ? 文句があるのか?」


「いや…」


「なら、良いだろう。 …急いだ甲斐があったな」


私は最後の方の言葉は耳に入らなかった。

他のことを考えていたからだ。


というのも…。


「殿下、どこに行くつもりなんですか? 私、今は王宮で堅苦しい食事をする気分じゃないんですが」


今日はとにかく疲れているもので。


「俺だってそうだ。」


「…じゃあまさか、下町で取るつもりですか?」


学園の側にあるお店に王族が足を運ぶようなところはないんだけれど…?


「何を驚いている。」


「いや、だって…」


殿下が繁華街にいる姿はちょっと想像出来ない。

雰囲気が、いかにも王族って人だから。


私がそう思っても口に出せないでいると、殿下は考えるような仕草をした。


と、思ったら殿下はまるでいたずらっ子のようにニヤリと笑った。


「俺は、多分お前よりも下町に詳しいぞ」


「え!?」


「昔、よく城を抜け出して遊びに行ったからな」


…どうやら、殿下は昔とても問題児だったらしい。


いいなぁ。うちはお父様がそういうのは厳しくて、滅多に下町に行けなかったのに。


と言うか…。


「私、知りませんでしたよ?」


私はジトリとした目を殿下に向ける。


「言ってないからな」


殿下はしれっと答えた。


「狡い!誘って下さいよ!私も行きたかった!」


私がそう言うと、殿下は少し動揺したように固まったあと、ばつの悪そうな顔をした。


「…だってあの頃は… と言うか、お前は無理だろう。どうやって公爵を納得させるんだ」


まあ、そうだけど…。


でも、なんか、裏切られた気分だ。


「じゃあ、殿下! 謝罪の意味も込めて今日は奢って下さいよ!?」


「…ああ、良いだろう。だが俺の自腹は、即ち国税だぞ」


「…そんなこと言われたら、思いっきり食べられないじゃないですか!」


「そうしろ。何事も、過ぎたるは及ばざるが如し、だ。さあ、行くぞ」


殿下が歩み出したので、私は慌ててそれについて行った。

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