19 当たり前ですよそれは!
「…教鞭を…」
「そう」
お父様はハッキリと言い切った。
私は思わず溜め息がこぼれた。
「…いや、無理ですよ。そもそも貴族が通うような学園だったら、経験豊富で有能な先生が沢山いらっしゃいますよね?私なんかがでしゃばる必要はないのでは…」
「まあ、そうなんだけどね。でも今の時代、どこも人手不足が深刻でね。猫の手でも借りたがるのが現状だ。」
「…それにしたって。しかも、教える相手、同い年か下手すると年上ですよ?威厳の欠片もなくて、舐められるんじゃないです?」
「大丈夫、大丈夫。アルルは、社会に出たら何十歳も年上の部下を従えることだってあるんだよ。何せ、君は王妃になるんだから。」
「言ってることは正しいですが…いやいや、メチャクチャです」
「うんうん、やってみたら意外とイケるもんだよ。それにね、最初に研修期間位はあるから」
「当たり前ですよそれは!」
「ほら、ちょっと落ち着いて考えてみて。アルルは生徒として学園に入る必要はないと思うんでしょ?」
「…そうですね。」
「でも、学園に入る必要はある」
「…ええ。」
「ほら、先生になるしかないでしょ?」
「何でいきなりそこに行くんですか!?」
「だから、人手不足なんだって」
…メチャクチャな理屈だと思うが、人手の有効活用という考え方では悪くないのかもしれない。
…丸め込まれた気がしなくもないが。
「はぁ、わかりました」
「あ、そう? あー良かった。もう申し込みしちゃったからねー」
「またですか…」
私はもう何も言えない。
なんか、どっと疲れた。
「…それに、君が表に出て、病弱の噂が払拭出来れば、君の味方が増えるだろうしね…」
「? 何か言いましたか、お父様?」
「ううん、何も」




