15 理解出来ない
聖女を目指してからは、わりとあっという間だった。
もともと、失う物さえないような、空っぽの人生だったから。
私はすぐに、聖女見習いとして教会で働き始めた。
「良いですか、皆さん。皆さんは、聖女見習いです。聖女は、民に寄り添い、何に対しても平等でなければいけません」
働きながら聞かされたこの教えには、正しいようでいて全て間違っているような気分にさせられた。
そう思いながらも、この言葉はいくつになっても耳に残っていた。
聖女の教育を修めた者は聖女を名乗ることを許され、各々の地域を潤す努力をしていた。
しかし、私にはそれが歯痒く感じていた。
何故、民に対して平等であれと教わるのに、住んでいる地域で区別するのか。
それが理解出来なかった。
この時は、聖女それぞれにも愛着や家族の存在が有ることを知らなかった。
だから、私は聖女を名乗ることを許されたあと旅に出た。
いろんな場所を回った。
私に良くしてくれた人の一人にこう言われた。
『何で、聖女様は世界中を回っているの?』
『だって、世界中が今、音を上げているでしょう?私にはこの世界を変えることは出来ないけれど、微力ながらも何かしたいと思ったの』
『聖女様はそれで幸せなの?』
『?私は聖女だから、世界が潤えばそれで良いんじゃないの?』
『聖女様は聖女である前に、一人の人間なのに?』
私はこの問いに答えられなかった。
思えば、聖女になってからは、ただ仕事に生きるのみだったことに、この時、初めて気付いた。
この時から、自分の幸せについて考えるようになった。




