表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/136

99 頼んだ


呼んでいる。

助けを求めてる。


―――行かなきゃ。

 殿下。彼は私の唯一のひと。




      。



    。



           。




      。









「―――殿下!」



必死で、それでいて届けることを半ば諦めたような声が響いた。ふと気づく。彼女は………アルルベッドは、ずっとずっとそんな悲鳴を、なんとか堪えてきたのだ。



「………アルル、か?」



パチ、と端正な顔を驚きの形に動かし、だらりと寝たまま掠れた声を上げた王子。一方で膝に王子の頭をのせたアルルベッドは、慈愛に満ちた顔で笑った。



「ええ。お目覚めになりましたか、殿下。どこか不具合はございますか?」


「問題無い…………なんだかずいぶん、他人行儀だな。ここは俺とお前しかいないのに」



そう言った王子に、アルルベッドは困ったように笑った。



「申し訳ありません…………少々勝手が、異なるもので。それよりほら、私のいない間、どうでしたか。有意義にお過ごしになられましたか」


「あ……うん、それなりにな。おまえはどうだ、怪我はしてないか」



夢見心地の王子は、アルルベッドに漂う違和感には気付かず、間の抜けたことを問う。



()()…………私の方も、それなりに。楽しめましたよ、勉強になりました。―――それでね、一つ考えたんですけど」


「…………なんだ?」


「私との婚約、解消しませんか?」



そうアルルベッドが口にしたときの、王子の顔といったら。

愉快極まりなく、母に捨てられた子のような哀しさが溢れた表情だった。


ガバッ、と起き上がり今にも胸ぐらを掴みそうな勢いでアルルベッドに詰め寄った。



「――――なぜだ!? 俺はお前に、告白をしただろう!」


「えぇ、そうですね」


「好きだと、伝えただろう!?」


「はい、承知してます」


「…………だったら、なんで………!」


「……………殿下―――履き違えておいでなのですよ、あなたは。私とあなたとの情は、愛とか恋よりもむしろ、惰性の絆に過ぎない。死が分かつまで繋ぎ止めるのは友情であり、愛ではない。私は―――あなたと友だちでいたいのです」



幼き子が恋を拒むような様子でありながら、実に神妙な言葉でアルルベッドはいってのけた。"友だちでいてね"、定番の断わり文句だ、何もおかしいことはない。ましてや相手が幼馴染であるならば。


長い沈黙のあとに、王子が硬い声で切り出した。



「―――でも。…………俺とおまえは、利害の絡んだ婚約者だ。勝手な感情は、許されないだろう?」


「………いいえ。それは違います。これはね、アモルの身勝手な策略なのですよ。………ええ、利用されたんです。

 私とあなたとは、始まりが少し歪ながら、終わりも過程もかなり歪でしたね。何度繰り返し、何度間違えたでしょう。―――叶うなら最後は、美しく有りたかったのだけど」


「…………? 何を言ってる?」



無垢な顔で尋ね返す王子。知らなかったと減る罪は、どれくらいだろう。その言葉がどれだけアルルベッドの孤独を際立たせるか、王子が気付く日は来るだろうか。



「………独り言ですよ。それより、殿下。ここがどこだか、分かりますか?」


「…………さぁ。どこなんだ?」


「ここはね、死後の世界ですよ」


「………は? 何を言ってる………?」


「婚約の、不履行………理由の二つは………私とあなたが、死んでいるからですかね」



何が面白いのかアルルベッドは口角をやや上げ、クツクツと低い声を漏らした。



()()()()は代々、破天荒な方が多いのですかねー。次があれば私は、もうちょっと賢く生ききましょうかね。…………心配いりません。殿()()()、私が死なせませんから」


「…………俺、()?」


「ふふふ…………。アモルっ! ()()邪魔してくれるなよっ!」


「…………聖女さま。私は―――僕は、邪魔しようとしたわけじゃないんですよ?」


「………ルラーナ公爵っ!?」


「………僕、私は、あなたの幸せを願っただけですよ」


「知ってるよ。―――殿下を、頼んだ」 



アルルベッド…………聖女さまは相変わらず、酷い人だ。裏切り者の私には、ほしい言葉をくれる。



「…………もちろん。北の魔女の名にかけて」


「はは…………アモル」



じっ、と長くこの手で育てたその目で、私を見据えた。 



「――――ありがとう」




すうっ、とまた視界が変わる。流石だ、隙の無い魔法。本気になった彼女では………僕なんかにはとても、叶わない。


助けられた。

()()―――助けられた。


情景が安定し、見覚えのある場所へ出た。ここは―――北の学園?


ポタ、と涙が溢れた。

これは、なんだろうか。悲しみも、歓びも、何もかも混ざった混沌だ。アルルベッドの最後を目に焼き付けながら、本当に、自分が人間らしい感情を得たことを知った。


もう―――聖女さまに付き合うことは、できないかもしれない。



「…………公爵?」



……それでも私は、できることをやるしかない。



「………殿下」



あなたのいない世界は………間違いを繰り返している。

それでも、私はあなたから貰った意志を貫く。それが私のけじめですから。



「ともに()()を裏切る覚悟は、ありますか?」









………………アルルは死ぬはずじゃ、無かったんだけど………………。



年内完結を目指してたんですが、ど〜〜っしても上手く書けないので、最終話はもう一日ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ