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閑話 アルルベッド・ド・ルラーナの転生


――ずっと、夢見心地だった。


無意味に楽しくて、温かくて、幸せ。ずっとここにいたいな、と思った。無理なことは知ってても、冬の布団のように心地よい。



  。

   。

 。



『アルル。おまえは勝手だけど、意外と立派なやつだよな』



―――対立し、憎みあったこともあった。

 けど私たちは、幼馴染み。わかり合えた人生もあった。

 過ちを許し、共に生きた人生もあった。



『おまえを好きだったよ。愛してたよ』



―――けれどそう言って別れ、また巡り合うたび。

 あなたは全てを忘れている。

 私は懲りずに覚え、繰り返しているのに。



『王子』

『あなた』

『ーーー様』

『旦那様』

『王』

『あの人』

『ご主人さま』

『陛下』



――――『殿下!』



たくさんの彼がいて、私の中に眠ってる。



  。

   。

 。



メルサ・カペラたち転生者の言うところの『前世』は、数多く覚えている。『乙女ゲーム』とやらの私は、『前世』によって狂った『悪役令嬢』というポジション。いつか仲良くなれた彼女に聞いたことがある。


私は『乙女ゲーム』のために、伝説の聖女が悪役令嬢に生まれ変わる生を幾度も送ってきた。


何回なら、耐えられるだろうか。先が見えない恐怖は、人を簡単に弱くする。私は今回が限界だった。

大勢巻き込んだ。殺した。そして過去の周回を、忘れてやった。能天気に生き、自滅の道を辿ろうとした。


―――けど、アモル。おまえはそれを、許さなかったんだね。

まさかお父様と入れ替わるとは………流石に計算外だった。


不意に起きた()()で、私はまた真に聖女の生まれ代わりになってしまった。


―――間に合うと信じた。転生者(やつら)の妙な肩入れを阻止すれば。私の心残りである、()()()さえ阻止すれば。きっと私の心は壊れ、何も感じず、輪廻転生を繰り返せると。





殿下。

私があなたの名前をお呼びしなかったのは、なぜだか分かりますか。

記憶が完全でなくても、お呼びしたら心が残りそうな気がしたんです。


忘れるのも、忘れられるのも辛い。だから今世ではあなたに、ただの"殿下"であってほしかった。笑ってサヨナラを言いたかった。


―――繰り返した数だけ、私の胸にあなたがいる。

だからもう、あなたは"殿下"にしかなりえない。特別なあなたは、もうたくさんなんですよ。



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