閑話 最後の勝利
手はワナワナと震えてました。ほんの数秒前の自分が信じられません。理解できません。パァッとあたまがまっ赤になって、言葉が吹き出し、流れるように自然に、彼女を刺したのです。
「はぁっ………はぁっ……、」
息が苦しくて、苦しくて、まるで陸で溺れてるようです。かつてもこんなことがあったような気がします。
あれは………アモルサランに、裏切られたときのことでしょうか。
…………。
…………………………。
…………………私は彼女に裏切られたことを、やはり恨んでいたのでしょうか。知らぬまま、彼女らを憎んでいたのでしょうか。
この敬愛の心は、やはり偽りだったのでしょうか………?
―――そう思うと。
ちょっと泣きそうになってしまいますね。
私はいつまでも、救われません。
「アルル。ねぇ、聖女さん。私があなたを尊敬してたって言ったら、信じてくれますか……?」
本当はもう、恨みは風化していました。ただ疲れていました。
言いなりで敵を演じてたと言ったら、あなたとの時間を楽しんだと打ち明けたら、事実だとわかってくれますか………?
ぎゅ、と亡骸に縋ろうとして、私は、彼女の胸元の何かに気づきました。
―――ペンダント。
ふっ、と笑みが溢れます。
「そうでした……………そうでした。やはりあなたが…………いえ」
彼女の御心は、所詮彼女のもの。
私の意思決定は、始終私のもの。
―――止めましょう。誰のせいでもなく、これはこの私が決めたことなのですから。
パカンと開けた中身は、やはり予想のままです。
可愛らしく微笑み、家族と写る、アルルの幼い姿。
パリンッ とその表面を割ります。
すると奥のわかりにくい場所に、後ろめたさを隠されるように、目的のものはありました。
「……………聖女さま」
口へ入れ。
ガリリと噛み溶かす。
躊躇いつつ、ゆっくりと丁寧に聖女の唇へ運び。
想いを込めて雪ぐ。
醜い感情や汚い思い出は不思議と昇華され、つるりと、嘘偽りのない言葉が溢れました。
「――――お慕い申し上げております」
この想いが届かなくても、告げられたことが嬉しくて。
最後は彼女に、密やかな優越を感じたのでした。




