表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/136

閑話 最後の勝利


手はワナワナと震えてました。ほんの数秒前の自分が信じられません。理解できません。パァッとあたまがまっ赤になって、言葉が吹き出し、流れるように自然に、彼女を刺したのです。



「はぁっ………はぁっ……、」



息が苦しくて、苦しくて、まるで陸で溺れてるようです。かつてもこんなことがあったような気がします。


あれは………アモルサランに、裏切られたときのことでしょうか。



…………。


…………………………。



…………………私は()()に裏切られたことを、やはり恨んでいたのでしょうか。知らぬまま、彼女らを憎んでいたのでしょうか。


この敬愛の心は、やはり偽りだったのでしょうか………?



―――そう思うと。

 ちょっと泣きそうになってしまいますね。


私はいつまでも、救われません。



「アルル。ねぇ、聖女さん。私があなたを尊敬してたって言ったら、信じてくれますか……?」



本当はもう、恨みは風化していました。ただ疲れていました。

言いなりで敵を演じてたと言ったら、あなたとの時間を楽しんだと打ち明けたら、事実だとわかってくれますか………?



ぎゅ、と亡骸に縋ろうとして、私は、彼女の胸元の何かに気づきました。


―――ペンダント。


ふっ、と笑みが溢れます。



「そうでした……………そうでした。やはりあなたが…………いえ」



()()の御心は、所詮彼女のもの。

私の意思決定は、始終私のもの。


―――止めましょう。誰のせいでもなく、これはこの私が決めたことなのですから。



パカンと開けた中身は、やはり予想のままです。

可愛らしく微笑み、家族と写る、アルルの幼い姿。


パリンッ とその表面を割ります。

すると奥のわかりにくい場所に、後ろめたさを隠されるように、目的のものはありました。



「……………聖女さま」



口へ入れ。

ガリリと噛み溶かす。


躊躇いつつ、ゆっくりと丁寧に聖女の唇へ運び。

想いを込めて雪ぐ。


醜い感情や汚い思い出は不思議と昇華され、つるりと、嘘偽りのない言葉が溢れました。



「――――お慕い申し上げております」






この想いが届かなくても、告げられたことが嬉しくて。

最後は()()に、密やかな優越を感じたのでした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ