97 全然わからないことよ。
見た目は、全く違う。俺の知ってるアルルではない。
不敵な笑みを浮かべ、やけに気取った口調で話す。
彼女は高い声で笑った。
「アッハハハハハハ…………
私はねぇ、本来のアルルベッドさ」
本来の?
「言ったでしょう殿下、闇の力を手に入れちゃったアルルですよ」
こそ、とメルサ・カペラが耳打ちする。
「アモルサランは、色々と初代聖女の秘密を握ってた。それを取り込んだから、あんなになった訳ですね………ん?」
「…………なんだ?」
「いや、でもゲームだと、もっと、違ったような…」
「何が?」
「そもそもアルルは元から純情系なんかじゃなかったし……だから齟齬があるのは、あたしのせいだと思うんだけど………それにしたってあんまりにも。違うわよね?」
くる、と彼女は後ろを振り向いた。
「ねぇ聞こえてる? 公爵サマ! わかんないから勝手にしゃべるけど、なんかやったでしょ」
「………っ!?」
あんまりな口調に驚くと、どこかから声がした。
「ご名答。………僕も無駄死には御免だからね」
「……………知ってたけど。知ってたけど………! 余計なことしないでよ転生者ぁ!」
「うーん、君には負けるよ」
「あたしが何したって言うんだぁ!
はぁぁ〜………仕方無い、腹くくるわ」
「………何するのかな?」
「ふふん、日和見やろーには全然わからないことよ。………殿下! あんたアルルのこと好きなのよね!?」
「…………えっ!? あ、ああ………」
「しゃきっとしなさいよ! んもう、諦めたわけじゃないけど、ここは譲ってあげるわ、アルル!」
「あれ? 愉快な話し合いは、終わったの?」
振り向いたアルルは、途方もない大きさの紫の球を纏ってる。
「うわっ………反則くさい魔法陣を………禍々しいわねえ………ま、頑張るか」
そうブツブツと呟いたメルサ・カペラは、とんと俺の肩を押した。
「いい? 王子さま。アルルのトラウマは"忘れること"、そして"忘れられること"よ。何度も繰り返した前世の記憶を持つアルルは、本質的に人間を諦めてて………見下してる。だから、あなたは記憶のハンデがあっても寄り添ってあげて。それで何とかなる………ハズ! さぁ歯を食いしばってねっ!」
そう言うと、ポケットにしまっていた手を出し……オレンジに輝く手が、俺の胸を貫いた。
痛みや苦痛は無かった。
刺したメルサ・カペラは、かつてなく真剣な顔をしてた。
「…………ロードっ!?」
アルルがそう叫んだ、気がした。




